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1.2 調査方法
 現在、HNS輸送船舶(本調査では、HNSの輸送に係るケミカルタンカー、LPG運搬船(以下、LPG船という。)及びLNG運搬船(以下、LNG船という。)を総称してHNS輸送船舶という。)の航行実態に関し、港湾統計等の入出港に関する資料は存在するものの、これらの資料は利用目的が異なるため、マラッカ・シンガポール海峡(以下、マ・シ海峡という。)における通航状況を把握するには十分なものではない。
 そこで、本調査では基礎データをLMIU社*1(Lloyd's Marine Intelligence Unit)から入手し、これらを元に新たなデータベースを作成し解析を行った。
 
1.2.1 基礎データの収集
 収集した基礎データは、「動静データ」、「船舶データ」、「港データ」及び「船主・管理会社データ」の4つのデータから構成されている。
(1)動静データ
 動静データは、世界各国にある2,000港以上のロイズエージェント(LLP Ltd. *2に密接な関係を持つ代理店組織)やPort Authorityなどの情報源から日々報告(1日に3回更新)されたものの中から、下記の調査対象にあわせ抽出したデータである。
<調査対象港>
(1) インドのコモリン岬以東の諸港
(2) スリランカの諸港
(3) ベンガル湾のバングラディッシュ、ミャンマー、タイの諸港
(4) シンガポール及びマレーシアの諸港
(5) インドネシア、ブルネイの諸港
(6) ユーラシア大陸のタイ及びタイ以北のカンボジア、ベトナム、中国、香港、マカオ 、韓国、北朝鮮及びロシアの還太平洋地域の諸港
(7) 北極海のアラスカ沿岸、ロシア沿岸及び西経90度以西のカナダ沿岸の諸港
(8) 日本、台湾及びフィリピンの諸港
(9) 北米大陸及び南米大陸の西海岸(米国アラスカからペルー以北)の諸港
(10) オーストラリアのQueenslandの諸港
(11) その他、上記及びニュージーランドを除く太平洋の諸港(1)ユーラシア大陸のベトナム及びベトナム以北の中国、香港、マカオ、韓国、北朝鮮及びロシアの還太平洋地域の諸港。
(12) 日本、台湾及び北緯12度以北のフィリピンの諸港。
(13) 北米大陸及び南米大陸の西海岸(米国アラスカからチリ)の諸港。
(14) 米国ハワイ諸島の諸港。
 
<調査対象期間>
2001年1月1日〜同年12月31日に上記諸港に寄港した報告
 
<調査対象船舶>
500G/T以上の外航船
 
<データの内容>
・船名(船舶番号)
・寄港地/寄港開始日/寄港終了日
・前寄港地
・次寄港地
 
*1)LMIU社は、ロイズ船級協会(Lloyd's Register of Shipping)及びLLP Ltd. を親会社として1986年に設立された LMIS社が、組織を変更して2002年LMIU社となった。親会社の所有するデータベースを、ニーズに応じて提供している。
*2)LLP Ltd.社は、ロイズ保険組合の「Lloyd's of London Press」の発行部門がロイズ保険組合と資本を別にして発足した会社で、現在Lloyd's List等の出版物を扱っている。
 
(2)船舶データ
 船舶データは、前記動静データに使用された船舶の諸要目をLMIU社の親会社が所有するデータベースの中から抽出したデータである。
<データの内容>
・船名
・船籍国
・建造年
・総トン数
・載貨重量トン数
・船種
 
(3)港データ
 港データは、LMIU社の親会社が所有する港のデータベースの中から、前記動静データに使用された港のデータを抽出したものである。
<データの内容>
・港名
・位置(緯度、経度)
・所属国
 
(4)船主・管理会社データ
 船主・管理会社データは、世界各国の商船に関わる会社約90,000社のデータベースの中から、前記動静データに使用された船舶の船主会社、管理会社、用船会社等のデータを抽出したものである。
<データの内容>
・社名
・住所
・会社の国籍
 
 なお、本調査におけるマ・シ海峡とは、図 1.2−1に示すように、西側は北緯5度、北緯8度、東経95度及び陸岸で囲まれた海域、東側は北緯0度、北緯2度、東経105度及び陸岸で囲まれた海域、並びに上記二つの海域間であるスマトラ島及びマレーシア半島で囲まれた海域とした。
 
図 1.2−1:対象海域(マラッカ・シンガポール海峡)
 
1.2.2 統合動静データベースの作成
 前述の基礎データから、解析に使用する統合データベースを作成した。
 図 1.2−2にデータ処理のフローを示す。
 
図 1.2−2:データ処理フロー
 
(1) 動静データのうち、HNS輸送船舶に関するデータを抽出した。
(2) 全世界を図 1.2−3に示すゾーンに区分し、この区分に従い港データとゾーンデータをリンクさせたうえで、さらに動静データとリンクさせた。
(3) (1)で港データ及びゾーンデータとリンクした動静データからODデータを作成した(1つの動静データから「前寄港地→寄港地」及び「寄港地→次寄港地」の2つのODデータが作成された)。
作成ODデータ: 45,242個
(4) ODデータが重複することを避けるため、次寄港地が調査対象港であるODデータを除外した。すなわち、ある船舶がA港からB港に航海した場合、A港で報告される基礎データから抽出された「寄港地→次寄港地」のODデータとB港で報告される「前寄港地→寄港地」のODデータが重複したこととなる。このため次寄港地が調査対象港である場合は、そのODデータを除外した。
除外データ: 21,083個
(5) 調査対象期間内の船舶動静データを抽出するため、そのODデータの日付として「前寄港地→寄港地」のデータは寄港地の寄港開始日を、「寄港地→次寄港地」のデータは寄港終了日を使用した。この日付をもとに、2001年1月1日〜同年12月31日に対象港に寄港した船舶のODデータのうち、調査対象期間外の動静となるODデータを除外した。
除外データ:21個
(6) 前寄港地・次寄港地が不明・不確定であるODデータ、マ・シ海峡を航行しないと判断されるODデータを除外した。
除外データ:17,615個
(7) 以上の手順により統合動静データベースを作成した。
統合動静データ全個数:6,523個
 
(拡大画面:57KB)
図 1.2−3:港ゾーン区分図(全世界)
 
1.2.3 通航船舶実態調査
 マ・シ海峡における通航船舶実態調査(「通航船舶実態調査報告書 シンガポール海峡における通航船舶の実態と考察 平成13年1月」 (社)日本海難防止協会 シンガポール連絡事務所)の概要は次のとおりである。
 
(1)調査概要
(1)調査実施日
第1回 1998年11月24日08:00〜11月26日08:00
第2回 1999年11月30日08:00〜12月2日08:00
第3回 2000年9月5日08:00〜9月7日08:00
(2)対象海域
Singapore海峡東側海域
(3)調査地点・対象海域
インドネシア・Batam島北端NONGSA地域
(4)目視線
調査地点であるインドネシア・Batam島NONGSA地区の調査地点から、北方対岸のマレーシア著名物標(BUKIT PENGERANG)までを結ぶ線
(5)調査項目
気象・海象と通航船舶の隻数、船種、大きさ、通航時刻、通航ルート及び通航方向(なお、第1回〜第3回調査まで、当地特有の穏やかな天候が続き、視程も極めて良好であった。)
 
(2)船種別通航隻数
 船種別の通航隻数を表 1.2−1に示す。
 
表 1.2−1:船種別の通航隻数
  1998 1999 2000
  隻数 隻数 隻数 隻数
貨物船 217 34.3% 172 24.3% 217 27.2% 606 28.3%
旅客船 98 15.5% 105 14.8% 104 13.0% 307 14.4%
タンカー 92 14.6% 125 17.6% 120 15.0% 337 15.8%
コンテナ船 91 14.4% 105 14.8% 138 17.3% 334 15.6%
曳航船 41 6.5% 60 8.5% 74 9.3% 175 8.2%
漁船 24 3.8% 51 7.2% 28 3.5% 103 4.8%
特殊船 20 3.2% 21 3.0% 32 4.0% 73 3.4%
作業船 17 2.7% 45 6.3% 63 7.9% 125 5.8%
その他 15 2.4% 9 1.3% 1 0.1% 25 1.2%
押航船 8 1.3% 0 0.0% 8 1.0% 16 0.7%
LPG・LNG 6 0.9% 9 1.3% 11 1.4% 26 1.2%
プレジャー 3 0.5% 7 1.0% 2 0.3% 12 0.6%
632 100.0% 709 100.0% 798 100.0% 2139 100.0%
 
 上表において、HNS輸送船舶の通航隻数がわかるLPG船及びLNG船について見ると、2000年には2日間で11隻(一部内航船が含まれていると考えられる)、1日平均5.5隻が観測されているのに対して、本調査に使用した2001年の最終的な統合動静データ(1.2.2(7)参照)によれば、LPG船とLNG船合わせて4,400航海、1日平均12.1航海である。
 これは、実態調査における隻数が、設定された目視線のみの通過隻数であるのに対し、動静データにおける航海数は、ある船舶がある港を出港しある港へ入港するまでを1航海としているため、調査対象海域内の諸港間を航行する船舶、シンガポール港等に寄港して東西方向に航行する船舶も含んでいることによる。
 したがって、動静データによる航海数は、状況を解析するためのデータ数としては、十分把握できているものと思われる。
 
1.2.4 航路データの作成
 統合動静データの各ODに対応する各船舶の実際の航行経路(航路)を得ることは、膨大な作業となることに加え、実務上ほぼ不可能と考えられる。本調査では、各ODデータに対応する航路データを、最短ルートをベースに航海者のノウハウを加味して作成した。
 
1.2.5 定義等
(1)定義
 本報告書で使用される語句のうち、特に注意を要するものを次のとおり定義する。
 
●航海数: ある船舶がある港を出港し、ある港へ入港するまでを1航海とする。すなわち、統合動静データ1個につき1つの航海が対応することとなり、2001年に対象の諸港に寄港した船舶のマ・シ海峡の対象海域における航海数は6,523航海となる。なお、対象港は広範囲にわたっており、対象港からマ・シ海峡までの航行に日数を要するため、実際にマ・シ海峡を航行した日付は2000年、2002年にわたる航海数も含まれていると考えられる。
●船舶数: 航行した船舶の数であり、同じ船が何航海しても1隻となる。すなわち、2001年に対象の諸港に寄港しマ・シ海峡の対象海域を航行した船舶数は486隻であったが、これらの船が複数回航海しているため、航海数は前記6,523航海あったということになる。航海数同様、2000年、2002年にわたる船舶数も含まれていると考えられる。
●航路: 前述のとおり、本報告書にいう航路とは、最短ルートをベースに航海者のノウハウを加味して作成した航路(航行経路)である。
●船種: 今回の調査対象となった船舶の船種は、データの提供元であるLMIU社によれば全57種あるが(Lloyd's Listで使用されている分類に準拠している)、ここではそれらを一般的によく用いられる分類として8種に分類した。
●船齢: 調査年次(2002年)から各船舶の建造年を減じて算出したものである。
 
(2)船籍国
 船籍については、第二船籍制度を採用している国があることから、船籍/船齢の総括表では、デンマーク国際船籍船をデンマーク籍として、ノルウェー国際船籍船をノルウェー籍として集計している。
 添付資料の船籍/船齢の集計表に記載の船籍国のうち、マン島、バミューダ及びケイマン諸島は英国の、アンチル諸島はオランダの代表的な第二船籍地であり、総括表や添付資料の集計表に記載の船籍国のうち、パナマ、リベリア、バハマ、シンガポール、キプロス、バヌアツ、ホンジュラス等は代表的な便宜置籍国である。
 「海運統計要覧2001」((社)日本船主協会)によれば、2000年の日本の海上貿易量は輸入787,987千トン、輸出101,727千トンで、そのうち日本商船隊(日本籍船+外国用船)の輸送量は、輸入が日本籍船94,994千トン、外国用船429,919千トン、輸出が日本籍船1,492千トン、外国用船32,827千トンとなっている。
 また、同資料によれば、2001年6月末現在、日本商船隊のうち日本籍船は117籍、8,746千総トンであり、外国用船の船腹量は2,008隻、63,458千総トンであり、その船籍国別の内訳は表 1.2−2に示すとおりである。
 
表 1.2−2:日本商船隊(外国用船)の船籍国別内訳(2001年6月現在)
船籍国 2,000総トン以上 2,000総トン未満
隻数 千総トン 平均年齢(年) 平均用船期間(年) 隻数 千総トン
Panama 1,457 46,590 7.3 6.7 20 30
Liberia 122 4,774 10.2 8.5    
Hong Kong 51 2,497 7.0 7.3 1 2
Singapore 76 2,255 11.1 6.6    
Philippines 83 1,927 11.1 6.6    
Bahamas 18 674 7.7 2.6    
Cyprus 40 448 8.4 6.2    
Vanuatu 19 418 7.6 7.5    
Bermuda 4 385 12.0 10.3    
U.S.A. 8 375 9.9 7.8    
Norway 11 367 10.2 7.7    
Greece 8 307 12.8 1.3    
Malaysia 10 216 15.6 2.0    
小計 1,907 61,233     21 32
その他 76 2,187     4 6
合計 1,983 63,420 7.8 6.7 25 38
 
 一方、「Shipping Statistic Yearbook 2001」Institute of Shipping Economics Logistics)によれば、韓国、中国等の商船隊の内訳(2001年1月1日現在)は表 1.2−3に示すとおりである。
 
表 1.2−3:韓国、中国等の商船隊の船籍国別内訳(2001年1月1日現在)
Ships of 1,000GT and over
  Open Registry Flags
Panama dwt-% share of Total Liberia dwt-% share of Total Bahamas dwt-% share of Total Malta dwt-% share of Total
Korea, South 隻数 342   10   1   3  
1,000DWT 16,113 89.3 1,304 7.2 17 0.1 25 0.1
China 隻数 247   49     14  
1,000DWT 8,957 49.2 2,972 16.3 336 1.8
Taiwan 隻数 286   21     1  
1,000DWT 8,265 73.3 975 8.7 15 0.1
Hong Kong 隻数 207   46   10   10  
1,000DWT 16,422 61.4 2,419 9.0 795 3.0 667 2.5
Singapore 隻数 75   30   11   1  
1,000DWT 1,892 25.5 2,718 36.6 632 8.5 18 0.2
  Open Registry Flags
Cyprus dwt-% share of Total Marshall Islands dwt-% share of Total Bermuda dwt-% share of Total Saint Vincent dwt-% share of Total
Korea, South 隻数 4       5  
1,000DWT 115 0.6 76 0.4
China 隻数 16     96  
1,000DWT 216 1.2 1,509 8.3
Taiwan 隻数         1  
1,000DWT   12 0.1
Hong Kong 隻数 2   2   6   26  
1,000DWT 37 0.1 246 0.9 635 2.4 343 1.3
Singapore 隻数 2       5  
1,000DWT 34 0.5 70 0.9
  Open Registry Flags
Antigua & Barbuda dwt-% share of Total Cayman Islands dwt-% share of Total Others dwt-% share of Total Total Foreign Flag dwt-% share of Total
Korea, South 隻数     52   417  
1,000DWT 396 2.2 18,044 100.0
China 隻数     139   561  
1,000DWT 4,199 23.1 18,189 100.0
Taiwan 隻数     43   352  
1,000DWT 2,003 17.8 11,269 100.0
Hong Kong 隻数     69   378  
1,000DWT 5,174 19.4 26,738 100.0
Singapore 隻数   3   130   257  
1,000DWT 21 0.3 2,037 27.4 7,427 100.0







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