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◆九・一一テロで首脳外交も水の泡
 しかし、それにもかかわらず、北朝鮮は従来の政策を大きく変更しなかった。昨年七月末から二四日間、金正日委員長はシベリア鉄道を利用してロシアを訪問したし、プーチン大統領との会談では、米ロのABM(弾道弾迎撃ミサイル)条約に対する支持とミサイル発射実験の二〇〇三年までの凍結を明らかにし、シベリア鉄道と朝鮮半島(南北)縦断鉄道の連結に合意した。また、九月初めには、江沢民中国国家主席の北朝鮮訪問を実現した。これらの首脳外交は、いずれも、一〇月に予定されていたブッシュ大統領の日本、韓国訪問とアジア太平洋経済協力会議(APEC)での首脳会談(上海)を意識し、その後に再開されるべき米朝対話に備えるためのものであった。
 しかし、九月一一日に発生した米国中枢に対する同時多発テロ事件が金正日委員長の思惑を完全に粉砕してしまった。北朝鮮はテロ事件直後こそ迅速に反応し、翌日、「きわめて遺憾で悲劇的な事件」とする外務省談話を発表して、テロりズムに反対する立場を明確にした。しかし、米国が一〇月七日に「不朽の自由作戦」を発動し、アルカイダ組織とタリバン政権に対する軍事攻撃を開始すると、それが自国にまで拡大されることを警戒して、武力行使への反対を表明せざるを得なかったのである。
 北朝鮮指導部にとって、本年一月二九日のブッシュ大統領の一般教書演説はさらに衝撃的であった。なぜならば、それは単なる政策批判の域を越え、北朝鮮を「国民を飢えさせながら、ミサイルと大量殺傷兵器で武装する体制」であると非難し、イラク、イランと同列の「悪の枢軸」と規定したからである。若干の沈黙の後、二月一日、北朝鮮外務省はブッシュ発言を「事実上の宣戦布告」であると非難し、中央放送は金正日委員長による相次ぐ前線部隊の視察を報じた。
 
 
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