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◆終わりに
 昨年六月、なぜ金正日国防委員長は金大中大統領を平壌に招待し、首脳会談に応じたのだろうか。単純な善意のためでもないし、北朝鮮の政治体制を変化させるためでもない。五〇年以上にわたる体制間の生存競争に敗れた上に、内外の深刻な危機に直面して、ぜひとも南側の協力が必要になったからである。事実、それなしには、強盛大国の建設どころか、南からの経済協力も、国際的な人道援助も得られなかっただろう。また、米朝交渉の進展も、日朝交渉の再開も、ヨーロッパ諸国との関係正常化も望めなかった。
 外見的な装いとは異なり、金正日の軍事優先政治は北朝鮮の「強さ」を反映するものではなく、「弱さ」に起因するものである。その成功も一時的かつ戦術的なものに過ぎない。日米韓としては、短期的な解決を目指して軍事的な対決を招来するよりは、北朝鮮の対外戦略の変化を利用して、一〇年、二〇年の「検証可能な平和」を構築すべきである。北朝鮮側がそれに応じないのであれば、抑止力構築のための努力を継続し、北朝鮮を「放置」すればよいのである。北朝鮮の体制変化を議論するのは、その後でも遅くない。
著者プロフィール
小此木 政夫 (おこのぎ まさお)
1945年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
韓国・延世大学校留学、米国・ハワイ大学、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現在、慶應義塾大学教授。
 
 
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