◆総選挙後の韓国政局の展望
自民連惨敗の影響についてですが、そもそも自民連という政党は忠清道を基盤としております。慶尚道とか全羅道のような大きな道が基盤になっているわけではありません。金鍾泌氏という有力な指導者がいても、彼を大統領に当選させるだけの力を持たなかったのです。しかし、議会に戻るとキャスティングボートを握っている、そういう政党でした。そのために、これまで、議院内閣制への改憲を主張してきたわけです。その自民連が惨敗したわけですから、議院内閣制論議が急速に色褪せてしまいました。
そうでなくとも、総選挙が終われば大統領選挙に向けた政治的な駆け引きが始まります。自民連惨敗の結果、それが促進されそうです。もし自民連が今後とも議院内閣制について強硬な立場を維持すれば、この政党は二大政党の谷間で分裂ないし吸収されることになりかねません。院内交渉団体の資格を失ったということは、自民連にとって、存亡にかかわるような事態なのです。六月の南北首脳会談までは政治休戦になりますが、その後、ゆっくりと政界再編が進むことになるでしょう。
さて、次の大統領選挙は二〇〇二年十二月に行われます。それに向けて、総選挙の結果はどういう意味を持つのでしょうか。ハンナラ党総裁である李会昌氏は、有力な大統領候補としての座を確保したと見られております。何といっても、慶尚道の固い支持を集めて百三十三議席を取ったわけですし、さらに、慶尚道出身の潜在的なライバルがほとんど落選してしまいました。そのことが彼の立場をさらに有利にしております。したがって、現時点では、次期大統領の最有力候補と申し上げて差し支えありません。
他方、与党民主党には、今回、選挙対策本部長として辣腕を発揮した李仁済氏がおります。民主党がそれなりに善戦し、忠清道や江原道にまで進出したということもあって、彼もまた大統領候補として有力視されております。ここでも、全羅道に金大中大統領の有力な後継者がいないことが李仁済氏を有利にしております。前回の大統領選挙にも出馬して、釜山を中心に約五百万票を集めたという実績を持っているので、李仁済氏以外に李会昌氏に勝てる候補はいないのではないか、こういう声が上がっております。
こうして、次期大統領の座をめぐって、「三金対立」に代わる「二李対立」という構図が見え始めております。しかし、奇妙なことに、二人の有力候補はいずれも慶尚道や全羅道ではなく、忠清道の出身なのです。少し前に申し上げましたように、忠清道はこれまで金鍾泌氏と自民連の地盤でしたが、ある意味では、「二季対立」が古い地盤を破壊しつつあるのです。忠清道出身の大統領の誕生が慶尚道と全羅道の間の地域対立に楔を打ち込み、それを緩和させるのか、それとも忠清道の政治的没落を招来するだけなのか、そのあたりが注目されております。
もちろん、実際の大統領選挙は二年半も先のことです。今のような構図がそのまま続くかどうかを含めて、現在の段階では予測不可能です。また、この二人のほかに、第三、第四の候補者が出現することでしょう。したがって、これは総選挙直後の感想にすぎません。
いま一つ、総選挙と関連して申し上げておきたいことがございます。それは、今後、韓国の政党システムがどうなるだろうかという問題です。やや学術的に過ぎるかもしれませんが、日本の場合には自民党の一党優位制が長い間続いておりました。最近ではそれが維持できなくなってきましたが、二大政党制が生まれたわけでもございません。民主党が第二党として台頭しておりますが、公明党もございます。要するに、一党優位制が維持されるのか、二大政党制になるのか、大中小の三政党制になるのか、それとも小党分立になるのか、これはそれぞれの国に特有の事情によるのです。
韓国の場合、長期にわたって軍が政治の実権を掌握しておりましたから、民主化以後にどのような政党システムが誕生するかは依然として実験の過程にあります。金大中政権前半期には、ハンナラ党という大きな政党と、それに対抗する中程度の民主党、それに自民連という小さな政党があり、民主党と自民連が連立してやっと過半数に到達するかどうかという状態でしたが、今回の総選挙の結果、二大政党の突出が目立ちます。つまり、慶尚道と全羅道という二つの地域を基盤とするハンナラ党と民主党が突出して、ビック2になってしまったわけです。ですから、韓国に二大政党制が出現するのかもしれないという議論が出始めております。
しかし、重要なのは何が政党システムを決定するかです。韓国の場合には結局、地域対立が基盤になっております。イデオロギーでも財産権でもないし、人種や宗教でもない。地域対立が基盤になって二大政党制が誕生する。そして、何回かの選挙を経て、それがやがて政策対立に移行するかもしれないということです。もちろん、それには相当長い時間が必要とされるでしょうが、それにもかかわらず、すでに二大政党の政策対立の輪郭が見え始めていることも事実です。例えば、与党である民主党の方は、進歩的というか、やや革新的な色彩があって、財閥改革などを主張しながら社会福祉政策を重視していく。したがって、大きな政府を指向する。北朝鮮政策に関しては穏健かつ柔軟である。他方、ハンナラ党の方は保守的であり、経済的には自由競争を重視し、小さな政府を目指していく。北朝鮮政策ではやや強硬である。こうなると、アメリカの民主党と共和党の間の政策対立に似たことになります。ただし、当分の間、選挙民は圧倒的に政策よりも地域を重視して投票するでしょう。
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