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◆妥協の道へのカギ
 しからば出口はないのだろうか。筆者は、IAEA脱退と安保理における制裁予告は、米国と北朝鮮双方にとって、妥協のための落としどころの模索の始まりと見ている。米国が核不拡散政策を貫き、「核開発をする意思も能力もない」と再三公言している金日成主席が面子を失わずにすむ連立方程式を解く鍵として「米国は過去は問わず、北朝鮮は将来の核開発計画を自主的に放棄する」という妥協案が、最近、IAEA関係者の間でささやかれている。金日成主席は最近、平壌を訪れた米カーネギー財団のハリソン氏に対し、「米朝国交正常化の道が開け、米国が軽水炉供与に応じれば現在の原子力開発計画を凍結する」と伝えたという。明らかに北朝鮮側からの落としどころへの呼びかけである。
 これは耳新しいものではなく、米国がパキスタンに対し試みている方式でもある。第二回米朝交渉で、ガルーチ国務次官補が北朝鮮側に非公式に提示したものの、当時まだ強気の北朝鮮側は拒否したとも伝えられる案だ。
 「過去は問わない」といっても、少なくとも核弾頭四個分とも五個分とも伝えられるプルトニウムの存在をどう説明し、どう処理するのか。「軍部が金主席の関知しないところで、勝手に分離、抽出したものだ」ということにして、IAEAの立合いのもとに廃棄処分にすることになるのではないかと、ウイーンの元同僚は筆者に語った。
 紆余曲折はあろうが、もし制裁が回避され、北朝鮮がNPT脱退を思い止まるならば、パキスタン方式による解決方法で妥協の道が開けてきたと見てよいであろう。当面の手がかりとして、カーター元米大統領の北朝鮮訪問の成果に注目したい。
著者プロフィール
吉田康彦(よしだ やすひこ)
1936年、東京生まれ。
東京大学文学部卒業。
NHK記者を経て、国連本部主任広報官、国際原子力機関広報部長、埼玉大学教授を歴任。
現在、大阪経済法科大学教授。
 
 
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