日本財団 図書館


◆一方的な「北」のべースに振り回された「里帰り」
 そもそも、こんな奇妙な「里帰り」など見たことも聞いたこともないのである。里帰りとは、帰る人と受け入れる側が事前に手紙や電話で打ち合わせ「帰りなさい」それでは「お邪魔します」ということで実現するのが普通ではないのか。
 この度の北朝鮮から日本への「日本人妻」の「里帰り」は、北朝鮮当局の一方的な人選で決まったものだ。これがどんなに不自然なものであったかは、受け入れ側の約半数が、名前の公表を認めなかったことでもわかる。
 この事実に対して「日本人妻」の一人は「まだ日本社会に朝鮮人差別があるからだ」と発言をしていたが、冗談言ってもらっては困る。現在、在日韓国・朝鮮人の日本人との結婚率は八〇%を越えている。在日韓国・朝鮮人同士の結婚は結婚総数の一五%である。
 民族差別は必ず結婚と就職に現れる。右の数字は、当事者の日本社会への同化という側面もないわけではないが、基本的には日本社会に民族差別が減少したという動かすことの出来ない証拠なのである。三十八年ぶりに里帰りしてきて、民族差別があるとか、北朝鮮へ帰る直前には「日本より北朝鮮の方がずっとよい」と発言していた婦人もいた。われわれは税金を使ってどうしてこんな人たちを受け入れなければならないのか。
 今回「里帰り」してきた十五名中七名(約四七%)の人が名前を公表しなかった。その理由を外務省北東アジア課に問い合わせると「プライバシーに関わることなのでお答えできません」との返事が返ってきた。北朝鮮が名前の公表できない「日本人妻」を「里帰り」させるだろうか。そんなことは考えられない。
 このような事態が発生したのは、挙げて受け入れ家族の希望によるものと推定される。この事実は今回の受け入れ家族の半数近くが北朝鮮からの「里帰り」を歓迎しなかったことを意味する。その理由は「民族差別」云々は論外として、「里帰り」した婦人と受け入れ家族の個別の関係に問題があったと考えられる。「日本人妻」の多くは、肉親の反対を押し切って北朝鮮に永住して行ったことは関係者周知のことである。今回その一人が「里帰り」してきた。それを迎える兄さんは「兄妹の縁を切って行ったのだから妹は家には上げないし、会わない。親の墓参りだけは許してやる」と言っていた。結局周囲の説得で会うことになったようだが、このようなケースは他にもあったと推定される。その他受け入れ側の肉親が高齢で経済力がないことや、その他色々の事情があって公表を避けてほしいという人が出てきたのではないのか。
 どういう理由があったにせよ、受け入れ家族が北朝鮮にいる肉親の日本への里帰りの公表は困るというのだから、日本政府はこの七名については受け入れてはならなかったのだ。要するに、歓迎されざる「里帰り」だったのである。このようなケースは決まって後で家庭内に傷を残す。こんなことまでして政府はなぜ「里帰り」を推進しなければならないのか。
 もう一つ。本誌十二月号でも触れたことだが「日本人妻」の北朝鮮への帰還にあたって「日本赤十字社は・・・・・・故郷訪問を円滑に終了し朝鮮民主主義人民共和国に帰還するようあらゆる努力をするとの日本政府の立場を伝達した」(朝鮮民主主義人民共和国在住の日本人配偶者の故郷訪問に関する日朝赤十字連絡会における合意書)という。報道されているように里帰りしてきた十三人は日本国籍者である。日本国籍者が日本に「里帰り」してきたのに日本政府は彼女らを北朝鮮に「帰還するようあらゆる努力をする」とは一体どういうことなのか。これは憲法に保障されている居住の自由に対する違憲行為ではないのか。
 日本政府は「里帰り」者の五〇%近くが受け入れを公表できない複雑な問題を抱えているのに、あえてそれを受け入れさせた。他方、「里帰り」してきた日本国籍者が日本国にとどまらないように「あらゆる努力をする」ことを北朝鮮に約束した。この措置に対して「どこの国の外務省か」という声が広く国民の中に存在していることを、政府に対して言っておく。
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION