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◆(三)
 日本政府は十月九日、国連を通し北朝鮮に二千七百万ドル(三十四億円、六・五トン)の食糧援助を決定した。今年二月横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されたことが判明し、これを契機に日本政府は日本人七件十人が北朝鮮に拉致されている疑いが濃い、と国会で答弁した。日本国民を拉致した北朝鮮に税金を使ってどうして食糧支援をしなければならないのかという素朴な疑問は誰でも抱くだろう。
 八月北京で開かれた日本国籍者里帰り問題の交渉で、拉致問題は日朝予備交渉から外し、「連絡協議会」で交渉することになった。日本外務省は「連絡協議会」で被拉致者を「行方不明者」と言葉を変え、北朝鮮に「消息確認」を求めた。しかし、北朝鮮は相手にしなかったという。決まったのは日本国籍者(日本人配偶者)の北朝鮮から日本への里帰りである。つまり拉致問題を棚上げにして他の交渉に移行したのである。
 里帰り合意書の中には日本に帰国してきた日本国籍者が北朝鮮に帰還するよう日本政府は「あらゆる努力をする」という信じがたい項目をみとめた。また、どうみても監視人としか思われない北朝鮮赤十字会「案内員」の入国と経費負担も認めた。北朝鮮は里帰り者の名簿を一向に日本に知らせなかった。十月九日日本政府が冒頭の二千七百万ドル支援を閣議で決定すると、北朝鮮は即日名簿を日本に提示してきた。
 これは、日本が北朝鮮への食糧支援を決定しなければ里帰り名簿を日本に知らせない、と北朝鮮が裏で言っていたことを意味する。重大な主権侵害・人権侵害である拉致問題を棚上げにした上、日本国籍者が日本に里帰りしても、日本政府はこの人たちが北朝鮮に帰還するよう「あらゆる努力をする」という信じがたい約束までした。挙げ句の果てに日本人妻配偶者一人につき約二億二千万円、合計三十四億円を支払うことに同意したのである。これが屈辱外交でなくてなんだろう。
 なぜこんなことになるのか。小渕外務大臣は「国際的孤立を避けるため」。阿南アジア局長は九月中旬拉致議連総会で「北朝鮮を追い詰めると我国の安全に重大な懸念が生じるので交渉の継続が必要」といった。小渕外務大臣のいう「国際的」とは具体的には米国であろう。米国は機会ある度に北朝鮮に食糧支援をするよう日本に「要請」している。この場合外務大臣は次のように米政府に問うべきだ。
 「もし米国民が、中米のQ国に十名拉致されたとする。Q国が食糧危機に陥った。これに対して日本政府が、米国には余剰農産物があるのだから拉致問題は棚上げにして、中米の平和と安定のために食糧支援をして欲しい、といったら支援するのか」と。同意するはずがない。自分は間違ってもしないことを日本には要求してきている。これは日本を対等の相手と見ていないからだ。しかし、日本政府は、上記の様に馬鹿にされても仕方のないことをなんのためらいもなくやっている。
 次に阿南アジア局長の話だが、北朝鮮は過去に朝鮮戦争、六八年の百余名の武装ゲリラの韓国侵入、ラングーン事件、大韓航空機爆破事件など数々の暴力行為を行ってきた。国際的に追い詰められたから暴力行為に及んだのだろうか。答えはノーである。いずれも金日成の「南朝鮮革命」という誤った政策から、戦争やゲリラ・テロを実行したものである。日朝交渉などとは何の関係もない。追いつめたら暴発という主張はアジア局長の分析の誤りである。誤った分析を根拠に話し合い継続という北朝鮮政策は二重の間違いである。
 援助米が北朝鮮国民に渡らないのが事実であったとしても、もし軍に食糧がなくなると暴発の可能性が高まる、従って支援が必要だ、という考えが一部にある。この考えはテロ国家(集団)に一定程度食糧を与えれば暴発の可能性が低くなるという考えだ。この考えを具体的に金正日「儒教的軍事独裁政権」に当てはめるとどうなるのか。韓国に亡命してきた黄元書記は、取り巻き政治家のなかで金正日に遠回しに意見らしきことが言えるのは金己男一人であり、後は総てイエスマンだという。暴発するかどうかはこのように金正日個人の考えによって決まっていく。
 
 
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