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◆社会党から加藤(紘)氏への乗りかえ
 それなら北朝鮮は、具体的に何を狙ったのか。
 従来、朝鮮労働党の日本側窓口は社会党であった。次の選挙で社会党は勝ち目がないと見た北朝鮮は、窓口を自民党の金丸・小渕派ではなく加藤紘一政調会長に乗りかえてきた。加藤氏にとって日朝国交樹立という大きな仕事が目前に迫っているとき、日本側の窓口を握るということは、いろいろな意味で魅力ある話であろう。
 北朝鮮の狙いは、まずこうして自民党に花を持たせ、日韓間にクサビを打ち込み、韓国政府が強く主張している韓国型軽水炉の導入を諦めさせることにある。韓国型軽水炉百万キロワット二基を北朝鮮内に設置するためには、韓国の技術・技能者が常時数百名から一千名北朝鮮に常駐、北朝鮮労働者と共同作業することになり、それが体制の危機につながることは前に触れた通りである。従って何がなんでも阻止しなければならない。
 そこで北朝鮮は、日朝交渉を提案する一方、先のベルリンの米朝実務者協議で、次のような提案を行ってきたのだ。
 (1)ロシアが韓国に対する債務の償還として、自国の軽水炉を韓国に渡す(2)韓国は、その軽水炉を北朝鮮に提供する。
 北朝鮮の駐ロシア大使も四月四日の記者会見で、北朝鮮に提供される二基の原子炉のうち、一つはロシアのものにしたいとの意向を表明したという(四月六日付朝日新聞)。
 だが、考えてみれば、これほど韓国を馬鹿にした話はあるまい。要するに韓国にカネは出させ、韓国の技術者は北朝鮮には入国させないという主張なのだ。しかし、問題はこれだけではない。北朝鮮は、金日成が死亡した直後、韓国政府に弔問団を派遣するよう要請した。韓国政府はもちろん断ると同時に弔問を表明していた祖国統一汎民族連合(日本の与党三党代表を招請した朝鮮労働党統一戦線部の指導下にある団体の一つ)南側本部議長を逮捕連行した(昨年七月十六日)。この事件を契機に北朝鮮の公式メディアは一斉に金泳三大統領への攻撃を開始し、今日に至っている。
 昨年十月の核問題についての米朝合意後、金泳三大統領に対し北朝鮮は「腹心の銃弾を受ける運命」「核狂信者」「文民ファシスト」「殺人悪党」「反共キチガイ」「私生児」「不倫児」「売春婦」「東方のヒットラー」などと呼び、多い日は、この種の誹謗中傷を一日百回以上も行っている(韓国政府筋の話)という。
 そして他方では、右にみたように、ロシア製軽水炉を韓国に買わせ、それを受け入れてやろうとまでいい出している。北朝鮮が韓国政府に対し、何故このような傲慢無礼な態度で臨んでくるかといえば、わが国と同じように韓国は、自主防衛の意思がなく、すべての面で米国に依存している。北朝鮮は米朝合意が成立した以上、韓国は米国の意向に従わざるをえないとみているから、このような態度に出てきたのである。わが国の政府与党は、朝鮮労働党のこのような意図を承知のうえで、日朝交渉再開を急げなどと言っているのだろうか。北の手玉にとられ、踊らされているのではないのか。
 
 
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