◆「原発に落下したら」の悪夢
別に核ミサイルが完成しなくとも、現実に核爆弾を持っているのであるから飛行機で運搬すれば容易に投下することができる。現在日本の置かれている状態は、一九四五年八月と同じ状態にあるのである。北朝鮮は、核実験を行っていないから効力を疑問視する向きもあるが長崎に投下されたプルトニウム爆弾はあのときが最初で、不幸なことに見事に爆発している。
航空機に対する防御が完璧といえるのかどうか知らないが、防御網を突破されたら大変なことになる。つまり通常の爆弾でも原子力発電所に投下されたら収拾つかないことになってしまう。商業用原子炉の頭部の隣に水深七メートルのプールがあり、そのプールの中には、使用済核燃料棒とこれから使用する核燃料棒が保存されている。核燃料棒の数は、原子炉の大きさによって違うが、東京電力の柏崎原発の一基のプールには、たえず四百本近い燃料棒が存在している。
このプールの真上は普通の屋根だ。爆撃に耐えることは到底不可能である。プールを直撃されたら一瞬にして放射能の海と化す。いま日本全国に稼働している商業用原子炉は五十基前後だ。日本の原子炉は、地震を予想し、耐震には細心の注意が払われて作られているが、地域紛争による爆撃という発想などまったくないところで作られたもので空爆に対しては丸裸同然である。国際情勢の変化はこのような側面からも、わが国の安全保障を根底から脅やかしてきている。
しかるに細川首相は、就任の所信表明演説で大量破壊兵器をなくさなければならないといいながら北朝鮮の核問題に一言もふれなかった。羽田外務大臣も昨年八月読売新聞とのインタビューで、北朝鮮の核問題は、金日成主席に会って腹を割って話合えば解決できると思うと極めて「楽観的」な話をしている。
北朝鮮の核問題は、日本の安全保障はいうまでもなく全世界の核拡散の歯止めがなくなるかどうかというきわめて深刻な全世界の緊急な課題である、という基本的な認識が欠如しているからこんな見当違いの態度や発言をするのであろう。
加えて自民党政権にも一貫してみられた態度であるが、北朝鮮の金日成父子政権がそもそもどういう性格の政権なのか、まじめに勉強する姿勢がないことである。そうはいっても、本来政治家をサポートしなければならない国家公務員にもその姿勢がないことだ。たとえば一九九一年、当時の外務省アジア局長は、『外交フォーラム』という雑誌の座談会で、公然と日朝交渉を急ぐべきだと主張していた。仮にこの局長のいう通り、一九九一年暮に日朝交渉を妥結し、金日成政権にわが国がいろいろの資金援助を行ったとしたら、わが日本は、いま国際社会から「平和の敵」との烙印を押されていたことは間違いなかっただろう。
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