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1994年4月号 『正論』
「労働一号」が飛来する日
佐藤勝巳
◆取材に奔走する欧米メディア
 最近、東京に駐在している外国の特派員から引っきりなしに取材を受けている。特に、アメリカの主要メディア(新聞、TV、雑誌)の特派員のほとんどの人に会っている。
 周知のように、いま日本で朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮と呼ぶ)が核兵器を所有していると断定しているのは、小沢一郎氏と筆者の二人だけである。わが国の政府をはじめ多くの「専門家」たちは、北朝鮮が核兵器をもっているとはいっていない。
 いやそんなことよりも極く一部の雑誌メディアを除き、NHK、朝日などのマスメディアは北朝鮮の核問題に関心などもっていない。もっていたなら、外国の特派員のように必死になって取材をし、報道をしつづける筈だ。報道しないということは関心がうすいからではなかろうか。
 二月六日早朝、フジテレビに出演した小沢一郎新生党代表幹事は、「私は間違いなく北朝鮮は既に核武装していると思う」といったあと第二の朝鮮戦争に発展する可能性を指摘した。その後、それに対処する危機管理体制は「ない」と明確にいい切った。司会者に「なぜ」と問われ、表現は違うが、要するに国全体が「平和ボケ」に陥っているという趣旨の見解を述べた。
 この小沢氏の認識が正しいことは、冒頭紹介した内外のメディアのこの問題に対する反応一つをみただけでも明白である。
 ところで外国のメディアは何に関心をもっているのかということだが、いい合わせたように「日本政府は、日本から北朝鮮にいっているカネやハイテク製品、核技術をなぜ止めようとしないのか」というものだ。
 実は、わたしも昨年八月、ワシントンに北朝鮮の核問題に対する米国政府の考えを取材にいったときそのことを痛感させられた。米国防総省、国務省、CIA(米中央情報局)担当官たちは、北朝鮮の核問題に非常に真剣に取り組み、真面目に私の話をきき、論議に応じてくれた。しかし、よく考えてみれば、仮に北朝鮮が核ミサイルをもっても間違っても米国には届かない。それなのに厖大な時間とエネルギーを使って、金日成父子政権と交渉を続けている。
 北朝鮮のミサイルは推測ではなく、われわれの目の前で試射が行われているのだ。しかも首都東京に向けてだ。一月二十七日付『週刊文春』が入手したロシア国防部の機密文書によれば、ミサイル「労働一号」の命中率の誤差は百〜二百メートル。更に驚くべきことは、ミサイルの燃料を改良すれば飛行距離は長くなり、より重い核爆弾の搭載が可能になる。しかもそれが完成段階にあるという衝撃的なレポートである。
 これが完成すれば、北朝鮮の核ミサイル「労働一号」は、日本全土を射程圏内に収めることになる。核弾頭の威力は広島規模の破壊力をもっていると推定されている。だが、防衛庁幹部が国会などで認めているように、わが国はこれに対する防御の手段をまったく持ち合わせていないのである。
 
 
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