◆国の安全にリアルな認識を
最後に北朝鮮の核問題にふれておく。細川首相は、所信表明演説で、国際的な安全保障を確保するためには、大量破壊兵器の不拡散が緊急の課題である。従って核不拡散条約の無期延長を支持し、地球上から核兵器の廃絶をめざすと語った。
いま、地球上で核兵器の拡散がもっとも心配されているのが東アジアの北朝鮮である。米国に金日成父子政権のミサイル(労働一号)がとどく訳でもない。しかし、米国は核兵器不拡散のため莫大な時間とエネルギーを使って北朝鮮と交渉を行っている。金日成父子政権のミサイルが届く日本の首相は所信表明演説で核不拡散を唱えながら、金日成父子政権の核開発問題には一言もふれなかった。
太平洋戦争が侵略戦争であったとか、解決済みの植民地間題をもちだして反省やおわびをするのより、いま、核拡散防止条約からの脱退を宣言し、核兵器の不拡散体制に公然と挑戦を試みている金日成父子政権の誤りに言及することこそが緊急の課題ではないのか。この内閣は、政策の優先課題を明白に取り違えているといわざるをえない。
羽田外相は、読売新聞のインタビュー(八月十七日)のなかで、金日成に会って腹を割って話せばわかるのではないか、といって日朝交渉の促進に意欲をみせていた。
新生党の石井一衆議院政治改革委員長は、九月六日東京都内で講演し、「与党の連立は日韓(関係改善)に肯定的な構成になっている。条件が整えば、はるかに決断しやすい政治状況にある」といっていたという。
かつて、小沢、羽田、石井氏らの親分であった金丸氏は、核問題で金日成に騙され(たのか騙したのか不明だが)、戦後四十五年の謝罪と償いを約束し、「土下座外交」「売国奴」と世論の集中砲火を浴び、大恥をかき、ぶざまな醜態を晒したことをよもや忘れたわけではあるまい。
また、性懲りもなく、羽田、石井の両氏が日朝交渉促進を云々している。彼らは、全世界の核不拡散問題よりも、金日成父子政権に何か義理だてをしなければならない事情があるのだろうか。
八月中旬筆者は、北朝鮮の核問題取材のためワシントンを訪問、米国務省、CIA、国防総省の担当官に会い米国の考えをきいてきた。彼らの核不拡散に取り組む姿勢は真剣そのものであった。再言するが、米国には、北朝鮮の核兵器もミサイルも届かないのに彼らは真剣そのものだった。
核兵器やミサイルの脅威に直接さらされているわが国の政治家の右にみた態度は一体なにか、と本当に考え込まざるをえなかった。
細川首相あなたの政治スタンスは、明白にバランスを欠いている。一億二千万人の生命と財産、アジアの平和と安定があなたの双肩にあることをもっとリアリティをもって真剣に受け止めて欲しい。
著者プロフィール
佐藤勝巳(さとう かつみ)
1929年、新潟県生まれ。
日朝協会新潟県連事務局長、日本朝鮮研究所事務局長を経て、現在、現代コリア研究所所長。
「救う会」会長。
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