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◆流されっぱなしの外務省
 三月の第二回日朝交渉をみている限り、外務省は自民党と違って無原則的な態度はとっていないが、自民党が論外なのであるから、それと比較してもあまり意味がない、と思っている。
 これからの交渉のなかで、基本問題、請求権、核査察など個別問題にどう対処するかという問題は確かにある。しかしそれ以前に、日本政府は、一九九五年に、韓国を北朝鮮に併呑しようとする方針をもって動いている金日成政権を相手に交渉を続けているのだが、続ける以上、この交渉が日韓関係を損なわないという確たる自信があるからだろう。
 その自信の中身を糺すまえに、消し難い疑問は、日本は、いま、なぜ、金日成政権と国交樹立の交渉を推進しなければならないのかということだ。日本に交渉をしなければならないどんな理由があるのだろうか。筆者をはじめ、多分、多くの国民は理解できないでいると思う。交渉を進める以上、誰でもわかるようその理由を説明する必要があるのではないか。
 このもっとも基本的な点をあいまいにし、交渉という既成事実を積み重ねて行くことは、間違ってもしてはならないことだ。いま、外務省がやっていることは、このやってはならないことをやっているような気がしてならない。
 ところで、日本政府の北朝鮮政策が変わったのは、韓国の盧泰愚政権が、金日成政権を、敵ではなくパートナーとして対応するという、例の「七・七宣言」(一九八八年)を発表したことを契機としてであった。問題は、その変わり方にあった。
 盧泰愚政権は「七・七宣言」を発表したあと日米に対し、北朝鮮を国際社会に誘導することを要請してきた。これに対し米国は、テロの中止などいくつかの条件を金日成政権が受け入れれば、関係を改善してもよいとの態度表明を行った。
 ところが同じことを要請された日本政府は、テロ国家だといって「制裁措置」をとったことなどなかったかのように、北朝鮮と無条件でいつ、いかなる態様でも話し合う用意がある(一九八九年一月二十日外務省が発表した「わが国の朝鮮半島政策について」)という態度をとった。
 既にみたように、筆者は、自民党訪朝議員団を批判したが、実は、テロ問題を不問に付し交渉を進めているという点では、外務省も同類なのである。これはどういうことかといえば、ラングーン事件や大韓機空中爆破事件は、韓国政府が金日成政権がやったといっているから、「制裁措置」をとった。その韓国政府が、今度は、金日成政権をパートナーにするといったから、日本も金日成政権と無条件で話し合うというものだ。
 この一連の過程のなかで、日本政府の主体性、独自性などまるでみることができなかった。盧泰愚政権が発表した「七・七」の対象は、主には、北向けではなく、国内向けのものであって、もともと額面通りに受け取れるようなものではなかったのである。「七・七宣言」が発表され、二年八カ月が経過した。南北関係に質的な変化が起きただろうか。何も起きていない。盧泰愚氏は、金日成政権をパートナーといったが、金日成は、今日ただいまでも盧泰愚政権をパートナーなどといっていない。
 政府自民党は、盧泰愚政権の「七・七宣言」を信じ、北にアプローチした。そして三党共同宣言を出した。多分、金丸氏は、韓国に歓迎されると思っていたのではないかと思われるが、逆に「抗議」を受けた。なぜ、こんな漫画チックなことが次々と起きてくるかといえば、政府自民党に、主体的な朝鮮半島政策がないからである。
 外務省が、北朝鮮の核兵器開発を問題にし出したのは、第二回の予備会談からであった。なぜ、第一回から問題にしなかったのだろう。一回と二回の予備会談の間に、米国は、日本政府に対し北朝鮮の核兵器開発について、説明を行っている。友好国が相互に情報を交換し、外交に生かすことは必要なことである。
 だが、北朝鮮の核開発問題が、注目を集めだしたのは、昨日や今日のことではなかった。何年も前から色々な情報が活字になっていた。それなのに外務省はなぜ、第一回から問題にしなかったのか。要するに核問題を重視していなかったのではないのだろうか。前後のいきさつからみて米国の要請によって日朝交渉の議題に入れたという印象は消し難い。そうでないことを期待するが、もしそうだったとすれば、これも日本政府の主体的判断によるものではない。韓国が大きな声を出せばそちらに、米国が大きな声を出せばそちらに、金丸氏が大きな声を出せばそちらに、また、マスコミが騒げばそちらにと、右に左に揺れている。少なくとも筆者の目にはそう映っている。こんなことになるのは外務省に定見が欠如しているからではないか。
 日本政府が、どうしても日朝国交樹立が必要というのであれば、いつから、どのような理由で、金日成政権はテロを放棄したのか。さらに韓国を併呑する方針などもっていない、というなら、その根拠を是非とも公表して欲しい。
 また、金日成政権の体質は変わっていないが、日本のカネと技術を入れれば、同政権の体質を変えることができる、変えてみせるというなら、これも是非ともその根拠を公表して欲しい。
 右の見解は、色々なところでよくきくことだが、この考えの基本的な誤りは、共産主義政権の本質を見誤っていることにある。わが国は、中国に多額の円借款を与えている。しかし、中国では天安門事件が起きた。ソ連には、円借款など出していないが、暴力をともなう混乱が起きている。共産政権崩壊過程における混乱や内戦は、この種の政権のもつ本質的な矛盾に由来するものであって、日本のカネなどとは無関係のことだ。
 金日成政権がどんな倒れ方をしても、それはわが国とは関係のないことだ。いま日本が真剣に考えなければならないことは、金日成政権崩壊時の混乱をいかにして北朝鮮内部にとどめるかである。
 日本の出すカネが本当に有効に使われるための必要不可欠の条件は、北朝鮮に、南北共存を認めるノーマルな政権ができることである。日朝交渉は、それからでも決して遅くない。
著者プロフィール
佐藤勝巳(さとう かつみ)
1929年、新潟県生まれ。
日朝協会新潟県連事務局長、日本朝鮮研究所事務局長を経て、現在、現代コリア研究所所長。
「救う会」会長。
 
 
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