◆「能力も意志もない」とは!
さて、当の北朝鮮は、核問題についてどう言っているのであろう。北朝鮮が、自国の核問題にはじめてふれたのは一九九〇年二月二十六日発朝鮮中央通信(国営)である。それは一言で要約するなら、最近、日本など西側マスコミが、わが国(北朝鮮)が核兵器を製造していると書いているが、それは「全くの嘘であり、ねつ造されたものである」と全否定したあと、日本当局と言論人は「共和国の非核・平和政策に肯定的な態度をとるべきである。南朝鮮に千余のアメリカ製核兵器が設置され、それが核戦争に利用される極めて危険な情勢が作り出されていることに背を向け、注意を他にそらそうとするのは、善を排撃し、悪を助けることになる」というものであった。
次に言及されたのが、九月二十六日北朝鮮の妙高山に於ける金日成・金丸・田辺三氏の会談の席であった。金日成は「核兵器の製造は行っていない。衛星から見た核製造との指摘はソ連が作った原子力研究所だ。共和国にはそんな考えも能力もない。調査するなら南(韓国)の核の存在も調査して欲しい。核のないアジアにすることで、今後も三党で意見交換したい」と、核開発を全面的に否定したことは記憶に新しいことである。
発言内容の可否は後でみるとして、北朝鮮に核開発の疑惑がもたれ出した直接の契機は、国際原子力機関(IAEA)の査察(保障措置)を拒否していることからであった。
北朝鮮が核兵器不拡散に関する条約を批准したのは一九八五年十二月である。同条約第三条3、4項に平和的な原子力活動が維持されるための「保障措置」(査察)が規定されている。この「保障措置」規定は「この条約が最初に効力を生じた時から十八ヵ月以内に開始しなければならない」とされている。
この規定によれば、北朝鮮は、一九八七年六月までにIAEAとの間に「保障措置」に署名をしなければならないのに今日に至るもそれをしていないのである。この「保障措置」には、包括と個別の二種類があり、北朝鮮が署名を拒んでいるのは包括的保障措置の方である。北朝鮮がIAEAの個別査察(保障措置)を受け入れているのは、研究用原子炉と臨界集合体の二つである。
現在、同条約を批准している国は、百四十一ヵ国。そのうち包括的保障措置未協定国は、五十一ヵ国あるが、未協定国のなかで原子力活動をしているのは、北朝鮮とコロンビアの二ヵ国のみ。コロンビアは、中南米地域の保障措置に加盟し、IAEAの査察を受けているので、残るは北朝鮮一国のみである。
もし金日成氏がいうように「核兵器の製造を行っていない」のが真実なら、何故包括的保障措置(査察)協定に署名しないのだろう。これは誰もが抱く疑問である。
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