◆核開発と経済開放を同時並行的に追求
本稿の筆者も北朝鮮が「二重政策」を追求してきたと分析している。そのことはベルリンの壁が崩壊して以来の北朝鮮の政策に明らかである。もし北朝鮮の指導部が核兵器の保有だけで体制維持を保障できると考えるのであれば、なぜ南北経済協力や日朝国交正常化が追求されなければならなかったのだろうか。そうではなく、そのような政策が失敗したために、いま一つの政策である核兵器開発がクローズアップされているのである。他方、核兵器開発を断念してよいのであれば、南北経済協力も日朝国交交渉もこれほど難航することはなかった。
さらに、昨年一二月の新しい人事にも「二重政策」が反映されている。チームスピリット再開の発表に反発し、日朝国交交渉を冒頭で決裂させるなど、北朝鮮ではすでにNPT脱退に至る強硬路線が台頭していた。しかし、それにもかかわらず、自由経済貿易地帯の設定に尽力してきた姜成山・威鏡北道党責任書記が新首相に任命され、経済開放や南北経済協力の立役者である金達玄副首相と、日朝交渉や米朝接触を担当した金容淳書記が政治局員候補に昇格したのである。金達玄副首相は国家計画委員会委員長を兼務して次期経済計画の立案に当たるし、金容淳書記は対南・統一問題を担当することになった。
もし北朝鮮指導部内で二つの政策が対立しており、強硬路線が選択されたのであれば、これらの実務指導者の地位が上昇することはあり得ない。そうではなく、北朝鮮内部では、核兵器開発と経済開放が同時並行的に追求されているのである。事実、外部世界で経済制裁が論議されている中で、四月七日から開催された最高人民会議でも、一月末に採択された外国為替管理法などの外資導入三法が承認された。金日成父子は軍関係部門には核兵器開発を命令するとともに、経済関係部門には経済再建を指示し、二つの手綱を同時に握っているのである。
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