◆「長期的共存」の模索
しかし、翻って考えてみれば、このような日朝交渉の現状は、必ずしも交渉の長期化や朝鮮半島情勢のこう着化を意味するものではない。今回の北朝鮮の政策変更にみられるように、日本政府による原則的な立場の維持は、むしろ朝鮮半島情勢の変化を促進しているのである。事実、北朝鮮側はかれらなりの流儀で日朝交渉で提示された「新三条件」を満たしつつあるのである。
それでは、今後、朝鮮半島情勢はどこまで変化し得るのだろうか。事態がここまで進展した以上、それは今後の南北対話の進展次第であるが、ここで、北朝鮮による国連同時加盟の許容が、従来の南北対話を質的に変化させるものであること、言い換えれば、それが北朝鮮による「国際政治の現状承認」だけでなく、「南北関係の現状承認」の一部であることを見逃してはならない。
例えば、北朝鮮自身がどのように主張しようと、二つの朝鮮が国際連合に別個に加盟するということになれば、外部世界は南北間の対話を「二つの国家間の対話」とみなすようになるだろう。そうなれば、朝鮮統一の形態も金日成主席の主張する「連邦制統一」(一国家二制度)よりは、盧泰愚大統領の主張する「南北連合」(主権国家連合)に比重を移さざるを得なくなる。
しかも、北朝鮮による「南北関係の現状承認」は必ずしも今回始まったものではない。事実、「連邦制統一」の要求にもかかわらず、昨年来「二つの政府の共存」の必要性を強調し、金日成主席も、今年一月の「新年辞」で、「連邦共和国の地域自治政府に対してより多くの権限を与え、次第に中央政府の機能を高めていく」ことを提案したほどである。最近では、この「地域自治政府」に外交権や軍の統帥権を付与することさえ示唆されている。
したがって、韓国側の対応次第では、九月以後、南北朝鮮の最高指導者(金日成・盧泰愚)間に「長期的な共存」のための画期的な合意が成立することも予想できなくはない。
そうなれば、今度は、そのような南北対話の進展が国際政治の構造的な変化を招来し、日朝国交樹立だけでなく、朝鮮半島版「2プラス4」の出現を促進するだろう。金日成主席にとって、現在の政治体制を維持し、次代に継承するための南北間および国際間の保障措置ほど重要なものは存在しないのである。
著者プロフィール
小此木 政夫 (おこのぎ まさお)
1945年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
韓国・延世大学校留学、米国・ハワイ大学、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現在、慶應義塾大学教授。
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