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◆日韓間に「火だね」残した金丸訪朝団
 日朝関係改善は冷戦終結のアジアヘの波及という脈絡からみて、「時代の流れ」を反映するものである。韓ソ両国が正式に国交を樹立し、ゴルバチョフと盧泰愚の相互訪問が日程に上るなかで、いつまでも日本と北朝鮮が「不幸な過去」を清算できないでいることは、けっして好ましいことではない。来年四月のゴルバチョフ訪日はソウル経由で実現するかもしれないのである。
 これまでクロス承認の実現を目指してきたのであるし、盧泰愚七・七宣言の趣旨からみても、韓国には、日朝国交正常化それ自体を否定する理由は存在しない。そもそも、韓ソ国交樹立と平行する今回の日朝国交交渉の開始は、韓国自身が推進してきた「北方外交」の具体的な成果である。韓国にとっての不安材料は、むしろ日本が原則的なところで北朝鮮に譲歩してしまい、その結果、今後の南北対話や北方外交の展開に大きな障害が生まれることである。
 そのような観点からみるならば、北朝鮮側が金日成・政党・政府三位一体の「一元外交」であったのに対し、日本側が「三元外交」、すなわち金丸・田辺両氏の個人プレーを政党間の共同宣言として発表し、それをもって政府を拘束しようとしたやり方には批判的にならざるを得ない。
 歴史の節目で政治家が果たす役割の重要性はわからないではないが、それにしても、「戦後四十五年の損失」に対して「十分に公式的に謝罪を行い、償うべきである」としなければならない理由があったのだろうか。「一つの朝鮮」を安易に認めたことも、今後の日韓関係に「火だね」を残すものである。
 日本がこれまで北朝鮮に対して謝罪をしてこなかったことに問題があるには違いないが、共産側にも中ソ朝の「三角軍事同盟」が存在したことを思えば、東西冷戦と南北対立こそが、戦後四十五年もの間、日朝関係正常化を遅らせた主たる原因である。ここで、そのことを暖昧にすれば、緊張感が失われ、また新しい「ボタンのかけ間違い」になりかねない。
 これから開始される日朝交渉は、好むと好まざるとにかかわらず、「朝鮮統一」を視野に入れた東京・平壌・ソウルの「三人ゲーム」にならざるをえない。したがって、日朝正常化交渉はできるかぎり日韓正常化の過程に準拠するべきであり、少なくとも論理的な説明ができないところまで、それを大きく踏み外してはならない。日韓条約との整合性に問題が生じたり、新たな問題が提起される場合には、それらを「朝鮮統一まで」棚上げし、統一朝鮮国家と新しい条約を締結すればよいのである。
著者プロフィール
小此木 政夫 (おこのぎ まさお)
1945年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
韓国・延世大学校留学、米国・ハワイ大学、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現在、慶應義塾大学教授。
 
 
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