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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


◆「一括妥決」方式の背景にあった事情
 しかし、その過程で北朝鮮の指導者たちはひとつの教訓をえたように思う。それは核兵器開発が外交のカードとして有効だということを確認したことである。核兵器の開発が外交のカードになっていることはよく議論されるが、はじめからそうであったわけではない。ある時点でそのような認識が生まれたのである。それは日朝交渉の過程であったと思う。
 アメリカがこれまで北朝鮮との外交交渉を拒絶してきたので、米朝交渉は北朝鮮にとって通常の手段によっては達成しがたい目標だった。カーター政権当時、金日成主席が米朝交渉を呼びかけて以来、成功することはなかった。そこで、いかに有効にこのカードを使って米朝交渉をスタートさせるかということが、北朝鮮の外交目標になったのである。
 そして、核兵器をカードとして使い、しかもNPT(核不拡散条約)脱退という大芝居をうった。北朝鮮の外交的な奇襲である。どんな小さな国でも、戦争も辞さないという捨身のかたちで不意打ちをおこなえば、大国の側としても武力でその試みを挫折させるか、あるいは交渉に入るかという二者択一を迫られる。結果的にアメリカ政府は後者を選んだ。
 私はこのNPT脱退宣言に、北朝鮮の外交スタイルの特徴がよく出ていると思う。それは日朝交渉にも共通していた。金丸・田辺代表団が平壌を訪問したが、このときに日本側が考えていたのは、第十八富士山丸の二人の船員の釈放と連絡事務所の開設だった。
 金丸らは日朝関係に風穴をあけるといって平壌に向かったが、北朝鮮側は外交的な奇襲をおこなった。つまり日本からきた代表団に国交樹立という大提案をしたのである。そして、朝鮮労働党と自民党、社会党とのあいだの三党共同声明を出すことに成功した。このなかには戦後四五年の謝罪と償いというようなことまで明記されていた。そのようなかたちで外交的な奇襲は成功して、日本側は国交樹立交渉に踏み込むことになったのである。
 三党共同声明は、米朝交渉でいえば米朝共同声明にあたると思うが、そのような外交文書を採択して会談を軌道にのせ、そしてアジェンダ(議題の)セッティングまでおこなっていくというやり方は、米朝交渉と日朝交渉の開始時において共通していた。
 その米朝交渉は、その後ニューヨークとジュネーブの会談で北朝鮮側のペースで進展し、外交的には北朝鮮側が成功をおさめてきたが、昨年あたりからアメリカの反撃が始まった。その場合、鍵になったのが「保障措置の継続性」という概念であった。
 米朝交渉は、そのあいだは北朝鮮が核兵器開発を停止していることを前提条件にしておこなわれている。もしプルトニウムの抽出が継続しているということでは、交渉の土台が崩れることになる。したがって、共同声明以来、アメリカ側はIAEA(国際原子力機関)の通常査察を受け入れることを北朝鮮に要求し続けたわけで、これが現在問題になっている「査察」の発端である。
 他方、北朝鮮側はアメリカ側に米朝一括妥結という方式を強く要求した。この方式には二つの狙いがあった。つまり「米朝」というところと「一括」妥結というところがミソなのだが、アメリカとの関係改善を韓国の頭越しでおこなうというのがこの「米朝」の部分。そして「一括」というのは、核兵器開発カードは一枚しかないわけだから、この交渉を一挙に妥結させなければならないということである。こうした事情が一括妥結方式の背景にはあった。
 こうして、米朝は激しく対立した後、ひとつの妥協に到達した。それは北朝鮮が要求しているような一括妥結ではなくて、より小さな―私はこれを「小さな一括妥結」とよんでいる―ある種の段階的な解決方法だった。アメリカが第三回米朝会談を開催し、北朝鮮側はIAEAの査察を受け入れる。そして米韓側が「チームスピリット」(米韓合同演習)を中止するのに対しては、北朝鮮が南北会談を再開する。この四項目がひとつのパッケージになる妥協案が昨年の十二月末に米朝間で合意されたわけである。
 このようなパッケージが成立した背景には、核問題を交渉によって解決したいという双方の意思が働いていた。大きな妥協は現在の段階では不可能である。とりあえず小さなパッケージをおこなって、第三回米朝会談まで前進し、それをより大きな妥協に結びつけようという方式であった。
 現在の状況は、実はこの小さなパッケージが破れ、交渉による解決が困難になったという状態である。まず第一の段階で、一月から二月にかけて査察の範囲をめぐるIAEAと北朝鮮のあいだの協議が難航したが、七つの原子力施設の核物質が軍事用に転用されていないということを確認することを査察の目的にすることで合意が成立した。
 そして査察が始まることになったが、ここで次の問題が出てきた。ひとつは、米韓側がたんなる南北会談の再開ではなく、特使交換の実現を要求し、北朝鮮側が再開された実務会談を決裂させてしまったこと。もうひとつは、北朝鮮が実際の査察において一部の重要な施設に対する査察を拒絶したことである。これによってパッケージが破れた。そして、その後は査察問題がIAEAの特別理事会にかけられ、そして国連に回付され、三月三十一日の安保理事会で「議長声明」(再査察の実施と南北対話の再開)が採択されたのである。
 その過程で、たとえば三月十九日の南北の実務会談では、北朝鮮側からの「ソウルが火の海になる」というような恫喝もあったし、二十一日の北朝鮮外務省の声明では、IAEAの追加査察は受けない、そして「チームスピリット」が再開されればNPTから脱退するという意思表明がなされた。そのために緊張が一気にエスカレートするという状態になっている。米韓側もパトリオット・ミサイルの配備や「チームスピリット」実施を再表明し、金泳三大統領が訪日した。また細川首相(当時)と金泳三大統領は訪中して、中国首脳とこの問題を協議した。
 ただし、本質はパッケージが破れたということであって、それを修復することは困難であるが不可能ではないと、私はみている。たとえば三月二十九日には北朝鮮の姜錫柱外務次官がアメリカのガルーチ代表―この二人が米朝交渉の代表―に、「南北の特使会談の要求を取り下げれば追加査察を受ける用意がある」という趣旨の書簡を送っていたということや、もう一人の北朝鮮の外務次官がインドネシアのスハルト大統領に対しても同じような発言をしたと、後で伝えられている。北朝鮮は表面的な言葉の激しさの背後で、経済制裁の回避に向けて動いていると判断できる。
 
 
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