日本財団 図書館


産経新聞朝刊 2003年3月12日
主張 家族会帰国 「拉致はテロ」日本政府も
 
 北朝鮮による拉致被害者の家族会は四泊六日の訪米日程を終えて帰国し、その成果を首相官邸に報告した。米国で理解を得られた「拉致はテロ」という認識を日本政府も共有し、拉致事件解決に向けて力を合わせてほしい。
 家族会の訪米は米国の世論が対イラク問題で盛り上がっている時期と重なったが、拉致事件に対しても、かなりの理解を広げた。とりわけ、北朝鮮を「テロ支援国家」から除外する条件に拉致事件の解決をあげたアーミテージ国務副長官の発言を家族会が確認できたことは、大きな成果だった。
 米国務省はこれまで、北朝鮮の大量破壊兵器拡散や元赤軍派の「よど号」犯をかくまっていることなどを理由に「テロ支援国家」と指定してきたが、これに拉致事件を加えたことは、「拉致はテロ」と米国が認定したことを意味する。北の核開発問題と拉致事件の解決をともに最重要課題とする日本にとって、心強い発言である。
 家族会と面会した米国の有力議員らは一様に、北朝鮮への強い怒りを表した。「北朝鮮の対応はクレージー(暴挙)だ」(上院外交委員会のブラウンバック議員)、「北朝鮮の非人道的な対応、欺瞞(ぎまん)と策略に怒りを覚える」(共和党のフリスト上院院内総務)。家族会が繰り返し、「拉致は現在進行形のテロ」と訴えた結果である。
 拉致事件は日本人の生命が危険にさらされ、日本の主権が侵害された北朝鮮の国家犯罪だ。テロといえば、米中枢同時テロやオウム真理教による地下鉄サリン事件など、一度に多くの死傷者が出た事件が連想されるが、拉致事件は長期間続けられ、いまだに解決していない北朝鮮の国家テロといえる。日本政府も早くこの認識を持ち、家族会が訪米して行ったような国際世論に訴えかける外交努力をもっと熱心にすべきである。
 家族会の報告を受けた安倍晋三官房副長官は「私自身は同じ認識だが、政府にはいろいろな考え方の人がいるので見解を統一するのは難しい」と述べた。拉致事件に冷淡だったり、帰国した拉致被害者五人をいったん北へ戻そうとした外務省の一部官僚らをさしての発言とみられるが、これらの官僚を説得するだけの強い指導力を首相や外相らに期待したい。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION