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産経新聞朝刊 2003年2月7日
「遺体、海岸で捨てた」 渡辺さん失跡で北工作員証言 30人余の拉致に関与も
 
 北海道出身の渡辺秀子さん=当時(三二)=が昭和四十八年に子供二人とともに失跡、親族が北朝鮮工作員の関与を疑い、警視庁に刑事告訴した問題で、関西に居住歴がある北朝鮮工作員が渡辺さんの殺害現場に居合わせたことを認めた上、仲間と一緒に「渡辺さんの遺体を秋田、山形両県境の海岸で捨てた」と証言していることが六日、関係者の話で分かった。工作員は「三十数人を北朝鮮に無理やり送り出し、勲章をもらった」と拉致への関与も告白。警察当局も、この証言を把握しているという。
 この工作員は、日本に潜入したよど号事件の実行犯が昭和六十三年に逮捕された事件の関連捜査で浮上。警察当局はその過程でこれらの証言を得た。しかし、工作員は海外に出国し、所在確認ができなかったことなどから渡辺さん殺害の立件や拉致の裏付けには至らなかったという。
 関係者によると、工作員は四十七年から、渡辺さんの在日朝鮮人の夫が勤務していた東京都品川区の貿易会社「ユニバース・トレイディング」に在籍。会社は「北」の対日工作の拠点だった。その後、工作員は組織の方針に同調できなくなり離反。五十二年二月から八カ月間、関西地方の電器店に勤めていた。
 工作員はこの間、同店経営者に「北朝鮮から指示され、三十数人を送り出した」と拉致への関与を告白。家族にも「渡辺さんの殺害現場にいたが、別の工作員二人が殺害した」などと打ち明けていた。
 警察当局は工作員の家族から五十二年二月、「貿易会社の様子がおかしい」との情報提供を受け、電器店で働き始めた工作員の周辺の捜査を始めたが、翌年三月に出国し、捜査は難航。貿易会社のメンバーの大半も五十年代前半に合法、非合法で日本を出国しており、捜査は暗礁に乗り上げたという。
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 ■渡辺秀子さん失跡 渡辺さんが昭和48年12月、失跡していた夫の消息を確認するため、勤務先「ユニバース・トレイディング」(東京)周辺を訪れた後、当時6歳の長女と3歳の長男とともに行方不明に。渡辺さんの妹は工作活動の発覚を恐れた工作員によって、渡辺さんが殺害され、子供は拉致された疑いがあるとして、殺人罪などで先月30日、警視庁に告訴した。失跡前、渡辺さんは周囲に夫が工作員であることを教えていた。
 
 
 
 
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