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産経新聞朝刊 1980年1月7日
何語る特製ずくめの遺留品
製造元どれも不明
国内での入手は不可能
 
 富山での未遂事件で、犯人たちはいくつかの貴重な遺留品を現場に残した。手錠、サルグツワ、布袋、帯―。捜査当局は、これまでの経験から、当初「これだけのブツ(品物)があれば、犯人グループにたどり着くのは容易と思った」という。
 一つ一つについて製造、販売元をつきとめる追跡捜査が始まった。ところが、その結果は「製造不明」。犯罪の遺留品が大量生産されているため、犯人をつきとめるキメ手にならないケースは多いが、現物がありながらメーカーさえ判明しないとうのは、極めて特異だ。なぜ判明しなかったのか。
 【手錠】これは真ちゅう製の精巧なもので、鑑定の結果、オモチャではないことがはっきりした。つまり、本物である。国内で本物の手錠といえば、携帯しているのは警察官などに限られ、メーカーも特定さえている。しかし、現場に残された「真ちゅう製の本物」が国内で生産された記録はない。
 【サルグツワ】これはゴム製で、筒をくり抜くいたような奇妙な形をしている。口に当てる部分に穴があき、両耳もふさがる特製品だ。富山県警では、東京の日本ゴム協会、化学品検査協会など専門家に鑑定を依頼したが、回答は「何のゴムだか不明」。鈴木守・日本ゴム協会課長は「一見して、日本で生産されたものでないことは明らか。天然ゴムを加工しているが、接着の具合などから手工芸品らしい。日本に輸入されている外国製品のゴムでもない」という。
 【帯】長さ一・八メートル、幅八センチで、色は黒。中央部に白糸で縫いとりがあり、一見、柔道の黒帯に似ている。しかし、国内で生産されたものに該当はなく、輸入品でもなかった。
 【布袋】長さ一・八メートル、幅六0センチでモスグリーンの軍隊色。相当に使い古され、小さな穴がいくつもあいている。「米軍の死体運搬用袋」「落下さん用の布」など様々な説が出たが、どれも違っていた。繊維は絹に近い。日本製でない、ということだけしかわからない。
 【ズックぐつ】これは犯人たちがはいていたもので、遺留はされなかった。しかし、鳥崎さんが「底が白で、上は青色だった」と、特徴をはっきり目撃、記憶している。くつのメーカーに問い合わせたが、該当するくつは見当たらない。
 【タオル】遺留品の中で、ただ一つ、メーカーがわかったのは、さとみさんのサルグツワに使われたタオルだけ。大阪で製造され、富山県内でも売られていたものだった。
 
 これらの遺留品は、犯人たちの襲撃ぶりと合わせて、事件が単純な「ら致未遂」ではないことを物語っている。暴力団やチンピラが、こうした、きわめて特異な品物ばかりを入手し、使用することは、考えられない。人間を袋に入れて運ぶというのも日本人の発想にはない。国内のら致事件で袋が使用された例はほとんどない。
 ナゾの遺留品について関係者は「生産国は特定できないが、しいていえば、日本より工業の遅れた国」と口をそろえる。
 犯人グループが、初めてアシを出した未遂事件を最後に、日本海、東シナ海沿岸からナゾに包まれたアベック蒸発は一件も起きていない。
 
 
 
 
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