読売新聞朝刊 2002年9月5日
能登沖に不審船 政府「経済水域外」と発表 16隻派遣、追跡・監視
四日午後、石川県・能登半島沖約四百キロの日本海公海上で、不審船が発見された。米軍情報に基づき、海上自衛隊の哨戒機・P3Cが確認した。防衛庁は護衛艦一隻を派遣、海上保安庁も巡視船艇十五隻を向かわせた。同日午後十時半過ぎ、巡視船一隻がレーダーで二十キロ前方の不審船を確認、一定の距離を保ちながら、監視を続けている。一九九九年三月、能登半島沖に現れた不審船と構造が同じで、北朝鮮の工作船とみられるが、十七日の日朝首脳会談を控え、日本政府は慎重に対応した。
〈関連記事2・39面〉
国籍不明の不審船が航行しているとの連絡は、四日午後、米軍から日本政府に入り、P3Cが午後四時二分、能登半島北北西約四百キロ(北緯40度20分、東経134度49分)で発見した。不審船は西南西(針路250度)に向かって速力六ノット(時速約十一キロ)で航行していた。全長は三十六メートルで、百トン前後という。
このため、防衛庁は発見直後、護衛艦「あまぎり」を現場海域に派遣し、追跡を始めた。海上保安庁も、高速航行が可能な「つるぎ」など十五隻の巡視船艇を向かわせた。
同日午後十時三十五分、高速特殊警備船「のりくら」が、能登半島の北西約四百五十キロ(北緯40度16分、東経133度30分)の海上を速力十・六ノット(時速約二十キロ)で進む不審船の船影をレーダーで確認した。防衛庁は「不審船は朝鮮半島に向かって進んでおり、五日未明には他国の領海に入るだろう」としている。
官邸危機管理センターは四日夜、「発見現場はわが国の排他的経済水域(EEZ)外」と発表。海保によると、EEZから約二十キロ離れていた。防衛庁幹部は「日本の領海やEEZに入っていないため、権益が侵害されたとは言えない」としている。
防衛庁や政府筋などによると、P3Cはデジタルカメラで船体を撮影し、分析作業を急いでいるが、昨年暮れに東シナ海で沈没した不審船と同様、船体後部に子船を収容するためとみられる観音開きの設備が確認された。また、スクリューの航跡も過去の不審船と酷似し、船からは不審な電波もキャッチされたという。
杉田和博内閣危機管理監は同日夕、海上保安庁と外務、防衛、警察の関係省庁幹部と状況を分析。海上保安庁が不審船について「九九年三月、能登半島沖に現れた不審船と構造が同じ」と報告。出席者はこうした情報から今回の船は北朝鮮のものでほぼ間違いないとの認識で一致した。
海上保安庁は同日午後五時十五分、横山鉄男警備救難部長を室長とする「日本海中部海域不審船対策室」を設置した。
一方、警察当局も日本海沿岸の警備態勢を強化するよう各県警に指示するとともに、北朝鮮の工作船の可能性が強いとみて、目的などの分析を始めた。
海上保安庁によると、不審船が日本のEEZ内にいて追跡を開始した場合は、漁業法違反で停船命令などに従わなければ国際法上、継続追跡権が認められる。だが、今回のようにEEZ外の公海上の外国船については手出しはできない。
ただし、不審船が日本船を偽装していた場合、他国の領海に入り込まない限り、船には船籍国の警察権が及ぶため、漁業法や船舶安全法など日本の国内法を適用して停船命令や、立ち入り検査が可能だ。
◆「深追いするな」官邸指示?
石川県・能登半島沖の日本海で不審船が発見された問題で、政府は四日午後、あわただしく情報収集に走り回り、緊張感に包まれた。小泉首相が十七日に北朝鮮を訪問する予定になっていることが緊張に輪をかけた。首相官邸は、防衛庁に「あまり深追いするな」との指示を出したとの証言もある。
防衛庁によると、現場に向かった海上自衛隊の哨戒機P3Cが発見した場所は、日本のEEZぎりぎりだった。同日夕になって、官邸からは「発見地点をはっきりさせる必要はない」との指示もあったという。
政府内では、記者団の質問に慎重な発言が相次いだ。福田官房長官は四日夕の記者会見で、「いろいろ問い合わせがきているが、情報に関することはああだこうだとは申し上げられない」と述べるにとどまった。
北朝鮮との事前協議を行っている外務省の田中均アジア大洋州局長は同日夕、記者団から首相訪朝への影響を聞かれ、「知りません」とだけ語った。
政府の発表は、発見から五時間以上たった午後九時すぎだった。
小泉首相は四日夜、南アフリカから帰国したが、仮公邸にまっすぐ入った。首相は同日夕、政府専用機内で不審船の連絡を受けたという。
図=不審船発見現場の地図
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
「読売新聞社の著作物について」