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読売新聞朝刊 2000年6月15日
社説 南北首脳の共同宣言を歓迎する 
 
 史上初めての南北首脳会談を行った韓国の金大中大統領と北朝鮮の金正日総書記が会談の成果をうたう「南北共同宣言」に署名した。
 共同宣言は、統一問題について、民族が力を合わせて自主的に解決すること、南北双方がそれぞれ提案している祖国統一案の共通性に着目する形で方向性をさぐることを表明した。
 離散家族の再会問題では、今年八月十五日を期して、十五年ぶりに訪問団を相互に派遣するとした。南北間の交流協力問題では、経済協力を通じた経済の均衡発展と、社会・文化・スポーツなど幅広い分野での交流活性化を約束した。
 こうした合意履行のため、当局者対話を早期に開始すると明記した。
 注目されていた金総書記のソウル訪問については、「適切な時期に」行われるとしている。
 南北の最高首脳が直接話し合ったうえでの合意である。共同宣言の内容が着実に実行され、最高首脳の相互訪問が定着していけば、朝鮮半島の冷戦構造を崩すことになる。今回の合意を歓迎したい。
 具体的に実行に移す段階での幾多の紆余(うよ)曲折を覚悟する必要があろうが、金大統領は、今回の平壌訪問の所期の目的を十分に達したと言える。
 両首脳が笑顔で握手する光景はテレビの生中継で世界中に流れた。韓国民は民族的感動をもって見つめたことだろう。
 首脳会談は、くしくも朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)(一九五〇年六月二十五日)から五十年の節目に開かれた。双方の海軍艦艇が黄海上で交戦し、軍事的緊張が高まったのは昨年の今ごろだ。今年に入って、南北関係は改善されてきたが、今回の首脳会談実現と共同宣言という成果によって、大きく前進したと評価できよう。
 金大中大統領が、北朝鮮に対する粘り強い働きかけを続けた結果と言える。
 今後重要なのは、合意を、言葉から実行に移してゆくことだ。金大統領と金総書記の手腕と責任が問われるが、特に北朝鮮側の誠実な取り組みを促しておきたい。
 金大統領は、十四日の金総書記との会談で「米国や日本と関係改善することが重要だ」と指摘した。北朝鮮が延期措置に出た日朝国交正常化交渉の早期再開を求める日本や核・ミサイル問題協議の進展を求める米国の希望を踏まえたものだ。北朝鮮側の出方に注目したい。
 首脳会談の成功は、金大統領の対北朝鮮政策の有効性を証明した。その「太陽政策」は、吸収統一を目指さず、北朝鮮の武力挑発を許さず、和解と協力を進めるというもので、堅固な安保維持を基礎とする。
 合意の着実な履行も、安保が揺らいではあり得ない。だからこそ、日米韓の緊密な政策協調は一層重要となる。
 米国は近く、北朝鮮に対する経済制裁の一部緩和措置の実施に踏み切り、ミサイル問題をめぐる米朝協議を開始する。朝鮮半島の平和と北東アジアの安定のため、日米韓の連携ある行動が欠かせない。
 
 
 
 
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