読売新聞朝刊 1994年3月6日
社説 北朝鮮は「国際協調」を見誤るな
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑惑問題が新たな局面を迎えている。
先の米朝合意を受けて、限定的だが、北朝鮮の申告済み七施設に対する国際原子力機関(IAEA)の核査察が一年ぶりに再開された。南北朝鮮間の特使交換をめざす実務協議も四か月ぶりに再開された。
同時に、今次査察の円滑裏の完了と特使交換による南北対話の継続を条件に、今年の米韓合同軍事演習「チームスピリット」が中止され、米朝高官協議第三ラウンドを二十一日に開くことが発表された。
チームスピリットは七六年に、当時のソ連と北朝鮮の軍事同盟をにらみつつ開始され、北朝鮮軍の侵攻など朝鮮半島の有事を想定した大規模軍事演習だ。毎年行われてきたが九二年は中止された。
IAEAとの核査察協定の調印を拒否してきた北朝鮮が在韓米軍の核撤去を踏まえて、調印方針を明らかにし、また南北非核化共同宣言にも仮署名したためだった。中止はいわば、報奨だったが、その後、南北相互核査察をめぐる対話が決裂状態となったため、九三年は実施された。
冷戦の終結で演習の意義はかなり薄れたが、演習のたびに準戦時体制をとる北朝鮮にとっては負担だし、圧迫感も大きいだろう。だが、その圧迫感を取り除く道は、朝鮮半島の緊張緩和以外にない。重大な緊張要因が北朝鮮自身の核疑惑であることは言うまでもあるまい。
北朝鮮が米国との合意を誠実に履行し、チームスピリットの中止と米朝協議に着実につなげるよう促したい。二条件が満たされるかどうかは、多く北朝鮮次第だ。
再開された南北実務協議で、北朝鮮は特使交換の条件として「核戦争演習の中止」「核をめぐる国際共助体制の放棄」「在韓米軍のパトリオット・ミサイルの配備中止」や金泳三・韓国大統領の「核兵器を持つ相手とは握手できない」との昨年六月の発言の釈明を要求した。
米韓が核戦争のための合同演習をしているとは思わない。残る三つは、いずれも北朝鮮の核疑惑があるからこその話である。北朝鮮が進んで核疑惑を解消すれば、解決できることだ。
北朝鮮の言う「国際共助体制」とは、日米韓の共同歩調、協調体制を指すのだろうが、北朝鮮を孤立化させ、その崩壊を目的としたものではない。北朝鮮を国際社会に迎え入れるための協調である。北朝鮮が国際社会の責任ある一員として、核疑惑を解消するよう促す協調である。
北朝鮮の核保有は日韓にとっての直接の脅威であるし、米国を含む国際社会にとっては、核拡散の引き金としての脅威である。協調は必要でもあり、当然だ。
北朝鮮が核疑惑の解明を遅らせる限り、日米韓の協調が圧力と映っても不思議ではない。だが、疑惑を解消させれば、「圧力」ではなくなるはずだ。そのことをよく考えてほしい。見誤ってはならない。
南北協議を実らせ、米朝高官協議第三ラウンドを実現させて、北朝鮮が疑惑の完全解消へ動くよう重ねて求めたい。
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