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読売新聞朝刊 1990年12月18日
社説 北朝鮮との国交正常化本交渉であくまで筋を通せ
 
 北京で行われた日本と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の間の予備交渉が十七日妥結し、来年一月下旬に国交正常化のための本交渉を開始することで合意した。
 本交渉は「国交正常化に関する基本問題」「正常化に伴う経済的諸問題」「正常化に関する国際問題」などを議題に、第一回は平壌で、第二回は東京で、その後は北京で、次官級を代表団長として行われる。
 予備交渉が妥結したのは、議題について双方が都合よく解釈できる玉虫色の妥協をしたからだが、双方の原則上の対立は残り、決着を本交渉にゆだねる形となった。
 予備交渉では、日本の植民地支配をめぐる議題として、日本側が「請求権・経済協力」を主張したのに対し、北朝鮮側は九月の自民・社会両党と北朝鮮の労働党による三党共同宣言をたてに、戦後四十五年を含む「償い」を主張していた。結局、「経済的諸問題」という表現で妥協した。
 また、日本側は北朝鮮に対する国際原子力機関による核査察問題を議題にするよう求めていた。これについても北朝鮮側の拒絶にあったが、「国際問題」という議題のなかで議論できることになった。
 基本的には、日朝関係の正常化は望ましいことであり、本交渉を遅らせることが日本側の本意でない以上、妥協はやむを得なかったと言えるだろう。
 ただし、本交渉ではあくまで筋を通さなければならない。
 もともと、日本と旧朝鮮の間に戦争状態はなかったから「賠償」という問題は発生しない。朝鮮は日本の統治を離れ、独立を回復したのであり、国際法上も請求権問題として、処理するのが妥当だ。日韓交渉でも「請求権・経済協力」として処理された。まして、「戦後四十五年」について、日本が「償い」をする理由はない。
 国交正常化の前提は、双方が国際社会の責任ある一員として、国際法を順守する意思と能力を持つことだ。北朝鮮は核拡散防止条約の加盟国として、国際原子力機関と核査察協定を結ぶ義務がある。北朝鮮に核査察受け入れを強く求めるべきだ。
 三党共同宣言があろうとも、国交交渉は政府間交渉であり、安易な妥協をしては日朝関係の将来に禍根を残すだけでなく、韓国や米国からの反発を免れない。世界の失笑を買うようであってはなるまい。
 韓ソ国交樹立と共同宣言調印、中韓関係の進展など、朝鮮半島は冷戦後の新秩序を求めて流動している。その文脈で、日朝本交渉を進めるべきである。
 日朝交渉は真の友好関係に道を開くものでなければならない。日本統治時代の問題処理にけじめをつけるべきは言うまでもない。謝罪すべきは謝罪すべきだ。
 だが、日朝交渉は単なる二国間交渉ではない。アジアの平和的で安定的な新秩序形成に寄与するものでなければならない。北朝鮮もその観点から本交渉に臨むよう、あえて促したい。北朝鮮が新秩序構築の作業に建設的に参加することを望みたい。
 双方が納得でき、米韓はじめ関係国から歓迎される日朝関係をめざしたい。
 
 
 
 
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