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読売新聞朝刊 1990年9月29日
日朝3党共同宣言 根拠欠く「戦後の償い」 日韓とのバランスも問題
 
 自民、社会両党の訪朝団は、〈1〉日朝間の国交樹立を目指す政府間交渉を開始〈2〉第18富士山丸乗組員の釈放決定−−という成果を携えて帰国した。自民、社会、朝鮮労働党三党による共同宣言で、戦前、戦中の三十六年間の日本の植民地統治時代の「不幸と災難」とともに、戦後の四十五年の「損失」についても、日本が「謝罪し、償う」としたことが注目される。
 植民地統治時代に対する謝罪と償いについては、基本的に問題はなかろう。日本はすでに、昨年三月の竹下首相の国会答弁や、今年五月の盧泰愚・韓国大統領来日時の天皇陛下の「お言葉」、海部首相の謝罪の中でも、北朝鮮を含めた朝鮮半島全域に謝罪しているからだ。
 しかし、戦後の四十五年も謝罪と償いの対象となるとした点は、外交上、問題をはらんでいると言えよう。
 日本と北朝鮮が戦後、不正常な関係であり続けたことは事実だ。日本は永らく北朝鮮との関係改善に慎重ではあったが、近年、「無条件での政府間の話し合い」を呼びかけていたのは、むしろ日本だ。これに対し、日本と国交を開くことは、「二つの朝鮮」を認めるとして、応じなかったのが北朝鮮だ。にもかかわらず、日本に償いを求めるのは北朝鮮から言えば、「戦後四十五年の日本の敵視政策によって損失を受けた」という論理になるのだろうが、一方的過ぎないか。これについては自民党自身、問題点を承知していた。共同宣言案作りの過程で、「四十五年」を対象からはずすことを要求したが、社会党が北朝鮮に同調したため結局、北朝鮮側に寄り切られた。
 韓国には「三十六年」だけを対象に償いをしており、バランスを欠くことは明らか。日朝関係の急進展に韓国が懸念を示していることもあり、慎重な配慮が必要だ。
 政府は「必ずしも宣言通りにはいかない」(外務省首脳)としているが、実力者・金丸氏が署名した宣言だけに、政府の行動にかなりの制約を加えることになるだろう。今後の政府間交渉の難航は必至のようだ。
 
 
 
 
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