日本財団 図書館


毎日新聞朝刊 2003年3月8日
社説 北朝鮮 危険な軍事的挑発はやめよ
 
 北朝鮮の「瀬戸際外交」は、言葉を換えれば「挑発外交」である。
 昨年10月にウランの濃縮計画の存在を認めたのが、その発端だった。さらに北朝鮮は、年末に国際原子力機関(IAEA)の査察官を退去させ、年明けには核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言した。
 防衛庁のシンクタンク・防衛研究所が刊行した「東アジア戦略概観2003」は、我が国周辺の昨年1年間の軍事情勢を分析している。北朝鮮について「プルトニウム抽出による核兵器生産を再開するのか、さらには米国がその存在を強く疑っている既存兵器について保有宣言を行うのか、極めて危険なゲームに乗り出すことになった」と警鐘を鳴らした。
 北朝鮮は最近、「概観」が指摘した「危険なゲーム」を一段とエスカレートさせている。地域の緊張を高める憂慮すべき問題だ。
 2月20日にはミグ19戦闘機1機が海上の軍事境界線にあたる北方限界線(NLL)を越えて韓国海域を侵犯した。北朝鮮の軍用機の侵犯は20年ぶりだという。
 24日には北朝鮮の沿岸海域で地対艦ミサイルの発射訓練を行い、3月2日には日本海の公海上を飛行中の米軍の電子偵察機に対して、ミグ29戦闘機など4機が異常接近し、攻撃可能な態勢をとった。北朝鮮機は15メートルの距離まで接近し、対空ミサイル発射用のレーダーを偵察機に照射し、ロック・オンしたという。
 異常接近は衝突事故の危険性が伴う。加えて武装していない偵察機にミサイルのレーダーを照射するのは、丸腰の相手に銃口を向けるようなものだ。偶発的な事態を引き起こす恐れが強い。
 戦争の歴史をみれば、ささいな軍事衝突をきっかけに、大きく戦火が広がるケースが少なくない。NLLの侵犯と偵察機への異常接近は、軍事衝突を引き起こす危険性があった。いずれのケースも北朝鮮が非難されてしかるべきだ。
 94年の朝鮮半島危機の際に、北朝鮮は「戦争が起こればソウルは火の海になる」と脅した。実際、38度線の北側には1000門以上の長射程の火砲が配備されている。日本もノドン・ミサイルの射程内にある。武力衝突が拡大すれば、朝鮮半島と日本は壊滅的な打撃を受けるのは明白だ。
 そうした事態を招かないためには、日米韓や中露が協力し、あらゆるルートを通じて北朝鮮との接触を保つべきだ。関係各国の連携した外交努力が必要なのはいうまでもないが、とりわけ北朝鮮と関係が深い中露には、働きかけを強めてもらいたい。
 先に黒鉛実験炉の運転を再開した北朝鮮にとって、残されたカードは、弾道ミサイルの発射実験と核燃料の再処理だ。どのカードを切っても、緊張は大きく高まる。
 米韓合同軍事演習も始まった。米韓両国には、演習が北朝鮮を巻き込んだトラブルに発展しないよう慎重な対応を望みたい。何より偶発的な武力衝突回避のための細心の注意が必要だ。日本の安全保障にとっても重要な問題だ。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION