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毎日新聞朝刊 2003年2月14日
社説 安保理付託 世界を敵に回す北の核開発
 
 国際原子力機関(IAEA)緊急理事会は12日、北朝鮮の核開発問題を国連安全保障理事会へ付託する決議を採択し、国連に対応を委ねることになった。
 核問題の国連付託は93、94年に次いで3度目だ。世界の平和と安全に責任を負う安保理の議題に供せられたことは「国際社会全体の懸念や脅威である」との認識で世界が一致したことを意味する。
 そのことを北朝鮮に深く認識してほしい。核危機が最初に表面化した93年以来、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)やIAEAの脱退を宣言し、保障措置(核査察)協定などの国際義務には縛られない、と主張してきた。昨年末からは瀬戸際外交をエスカレートさせ、「米国との直接対話以外に道はない」と米朝2国間で解決するよう主張している。
 しかし、問題が一度ならず安保理に付託された事実は、そうした理屈がどれもまやかしで、どの国から見ても説得力がないことを示したと言っていい。米朝枠組み合意も崩壊の危機に陥った。
 ロシアは安保理付託に慎重だったが、それも独自の説得外交の効果を見るためであって、この問題を国際社会の懸念とする認識に違いはない。中国は朝鮮半島非核化の原則に立って、付託決議の賛成に回った。
 北朝鮮はブッシュ政権の「敵対的姿勢」を口実に、自衛措置として核開発を正当化しようとしている。しかし、今回問題となったウラン濃縮による核開発は99年ごろから着手したとされ、これも筋が通らないことだ。
 北朝鮮がまずウラン核開発計画を放棄すれば、米国は対話に応じることを約束している。拉致問題を抱える日本や、盧武鉉(ノムヒョン)・次期政権に移行途中の韓国もこの問題に切実な利害関係を持っているが、その両国とも「外交を通じて平和的に解決する」方針で米国と一致している。IAEAも「平和的解決を支援する」(理事会決議)立場にあり、対話の窓口はどこでも開かれている。
 北朝鮮がその気になれば、米国を含む安保理常任理事国は日韓、豪、欧州連合(EU)、北朝鮮を加えた「P5+5」の多国間の枠組みで対話に応じる態勢を整えつつある。安保理が保証人となる形で北朝鮮の安全にも配慮しながら、経済・人道支援なども話し合うことはいくらでもできる。
 「対話解決」を訴えながら、それを阻んでいるのは結局、北朝鮮自身だろう。あくまで核開発に固執すれば、北東アジアの安全を脅かす行為として、国際世論を敵に回すことになりはしまいか。それでは北朝鮮が求める経済再建や人道支援の道までも閉ざされることになりかねない。
 自国民が飢えているのに、世界を核で脅して支援を得たり、自らの安全を図ろうとするのは愚かしい行動だ。核問題は北朝鮮の言うような米朝間の問題でなく、「国際社会対北朝鮮」の構図がますます明確になってきた。北朝鮮はその意味を自覚して、理性と責任ある行動をとってほしい。
 
 
 
 
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