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毎日新聞朝刊 2002年9月16日
社説 首相あす訪朝 総書記に世界の変化を説け
 
 小泉純一郎首相が17日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪問し、金正日(キムジョンイル)総書記と会談する。首相は総書記に、国交を結ぶ強い意思があることを伝えるとともに、拉致や工作船といったテロリストのようなやり方を、もはや許さないという世界の潮流を説くべきである。
 朝鮮半島は、日本の植民地支配から解放された3年後の1948年、韓国と北朝鮮に分断された。日本は韓国と65年に国交を結び、あらゆる面で結びつきを強めている。今年はサッカー・ワールドカップ(W杯)を共催した。
 一方、北朝鮮とは冷戦構造を引きずり、日本にとっては世界で唯一国交がない。正常化交渉は91年に始まったが、拉致問題などで中断した。北朝鮮はこの間、核開発疑惑、ミサイル発射、工作船などで日本とだけでなく、米国や韓国とも緊張を高めた。ブッシュ米大統領は「悪の枢軸」と呼ぶ。
 国交を結んで戦後処理を終えることは日本の責務であり、敵対関係を終わらせることは、両国と国際社会の平和と安定に資する。日本には韓国・朝鮮籍の人が六十数万人暮らす。北朝鮮へ渡った約1800人の日本人配偶者は、自由な里帰りを許されず、音信の途絶えた人すらいる。正常化を待ちわびてきた。
 今回の会談は、外交の常道からみれば逸脱している。1年前から三十数回の実務者接触などはあったものの、確たる見通しがついているわけではない。決裂すれば、日朝関係は冷え込み、この地域は緊張するかもしれない。
 しかし、首相が植民地統治への謝罪と「償い」について直接話すことによって、総書記の政治決断を促す大きな期待がある。総書記と会った韓、露の大統領はともに「トップと話すのがいい」と勧めている。下から積み上げる交渉は10年以上経ても、なお問題の核心に入れなかった。「交渉再開の可能性を見極める。会うよりも、会わない方がいいといえるか」。利害得失を勘案した上で、首相は決断したのだろう。
 首相は、拉致問題に関して、家族や日本国民の心情を、総書記に率直に伝えてほしい。政府が認定した8件11人の拉致者について、北朝鮮が複数の安否を明らかにする、と伝えられるが、総書記は、拉致をどう考えているのか。工作船の領海侵犯などは不法行為であり、日朝間の他の問題と取引されるべきではない。
 総書記は軍事力強化について、共同通信の質問に「徹頭徹尾、自衛の政策だ」と答えた。だが、核開発とミサイルの開発・配備に、日本だけでなく、米国など世界が懸念を抱く。南北休戦ライン付近に展開する60万人の兵力には、韓国が強い不安を覚えている。
 首相は13日、「戦争の準備でなく、国民を豊かにするための準備をすることがプラスになると、強く話したい」と述べた。会談は懸案の打開と地域の安定のため、歴史的な使命を担っている。気負わずに、誠意を尽くして、交渉に臨んでほしい。
 
 
 
 
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