毎日新聞朝刊 1999年3月11日
社説 ペリー報告 日本も戦略的対応が重要
米国のウィリアム・ペリー朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)政策調整官(前国防長官)は10日、小渕恵三首相、高村正彦外相、野呂田芳成防衛庁長官と会談し、北朝鮮政策見直しの方向の概要を説明し、日本政府の意向を聞いた。
ペリー調整官は、3月末には新しい政策の最終報告を提出する予定である。
調整官が日本政府に伝えた北朝鮮に対する政策見直しの内容は、米側の要望で明らかにされなかった。硬軟織り交ぜながら、これまでよりも強い姿勢を打ち出すとみられている。
調整官は、訪日前に韓国を訪問し、金大中(キムデジュン)大統領と会見した。韓国の報道機関によると、金大統領が強く求めていた「包括合意」方式の具体的な内容では、必ずしも合意に達しなかったようだ。
金大統領は、米朝正常化を含む「包括合意」を求めたが、調整官の構想は核とミサイル問題の解決に重点が置かれている模様だ。
実は、日米韓3国の北朝鮮政策はやや「同床異夢」の状態にある。それぞれの優先政策が異なる。米国は核とミサイル開発中止が最大の目標であり、韓国は南北対話再開と北朝鮮支援、日本はミサイルと日本人拉致(らち)疑惑解明に関心がある。
調整官は、この3国の政策の違いを調整しながら協力体制を維持し、かつ新たな政策を立案しようとしている。米朝関係改善のロードマップ(外交的道筋)を提示し、応じない場合は強硬な対応もありうる政策を打ち出すと予測されている。
なぜ、米国は政策の見直しに取り組んでいるのか。米議会が、北朝鮮政策を見直す調整官の任命を要求したからである。だが、本当の背景は戦略なき北朝鮮政策が破たんしたためである。調整官は、新たな北朝鮮戦略作りを求められている。
クリントン政権の北朝鮮政策は、その場しのぎで戦略がないと批判されてきた。米国のこれまでの政策は、北朝鮮の早期崩壊を前提としていた。そのため、核開発の凍結に最大の重点が置かれた。早期に崩壊するとの見通しから、米朝国交正常化までの外交戦略を立案しなかった。
ところが、最近になって北朝鮮は当面崩壊しないとの判断が強まった。この結果、北朝鮮が崩壊しないことを前提にした政策と戦略に取り組まざるを得なくなった。
となると、核兵器とミサイルを持たない北朝鮮が、北東アジアの安定と平和には不可欠になる。核とミサイルを持つ北朝鮮とは共存できないというのが、米国の判断である。北朝鮮は、米国のこの断固たる決意を軽く考えてはならない。
米国も、これまでの政策を反省するなら、米朝国交正常化にいたる条件とロードマップを早く明確に示すべきである。また、日米韓の協力体制を維持するためには、日本国民が関心を寄せる日本人拉致疑惑問題解決への関心を、米朝交渉の場で常に明らかにすべきだ。
米国の戦略的な政策への取り組みは、日本にも戦略的な対応を求めることになる。政治家が個人的な利害で関与したり、政党が訪朝団を競うような戦略なき対応はやめるべきである。朝鮮半島の非核化と軍備管理軍縮の視点からの、戦略的政策と外交が求められる。
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