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毎日新聞朝刊 1997年4月9日
社説 北朝鮮 食糧支援は筋通す対応を
 
 国連の明石康・人道問題局長(事務次長)は7日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への緊急食糧支援を各国に要請した。北朝鮮は、2年連続の洪水被害で食糧危機に直面している。
 国連の各機関は、来年3月末まで約20万トンの食糧を北朝鮮に送る計画で、そのために1億2622万ドル(約157億円)が必要という。
 今回のアピールは、北朝鮮支援に携わる六つの国連機関の要請を、国連人道問題局(DHA)がまとめたものである。過去最大の規模になる。
 北朝鮮への食糧支援を積極的に展開している世界食糧計画(WFP)には、すでに米国が1000万ドルを拠出し、韓国も600万ドルの支払いを決めた。
 米政府とWFPは、日本にも同程度の拠出を要請したが、日本政府は確約を避けてきた。橋本龍太郎首相は「(女子中学生拉致(らち)事件など)問題がある以上、政府としてきちんとした答えをもらわなければならない状況は、変わらない」と語った。
 首相のこの対応は、当然であろう。政府には、国民の安全を守り保護する義務があるからだ。政府の対応にも、問題がなかったわけではない。「朝鮮半島有事」への備えを強調しながら、具体的な予防外交を展開してはいない。
 もちろん、食糧危機に直面する隣国の人々に、支援の手を差し伸べるのは、当然なことである。だが、日本政府と政治家のこれまでの食糧支援と、政党間の交渉は相当に不明朗な印象を残してきた。そのうえに、女子中学生の拉致疑惑である。
 日本国民の間に、食糧支援をいまひとつ躊躇(ちゅうちょ)させる感情と空気が広がっている事実を、北朝鮮は直視すべきである。食糧支援も人道問題なら、行方不明の中学生をはじめとする日本人の拉致疑惑解明も、人道問題である。
 北朝鮮は、そうした疑惑はすべて韓国の情報機関などの捏造(ねつぞう)であると主張している。しかし、問題はそれでは解決しない。そんな血の通わない対応でなく、両親や家族の気持ちをくんで、赤十字を通じた情報交換や調査を行うなど、心が通じ合う応答をしてほしい。
 それが、日本が食糧支援をスムーズに行える筋道である。
 北朝鮮への食糧支援と密接にからんでいるもう一つの課題は、4者会談(南北朝鮮と米中)の実現である。北朝鮮は、4者会談受け入れの前提として、多量の食糧供給の約束を韓国と米国に求めていた。
 このため、最近になって米国のカーギル社は北朝鮮との間で、2万トンの小麦の出荷に合意した。一方、韓国も赤十字をはじめ民間団体が北朝鮮に食糧支援を行うことを認めた。こうした米韓の対応は、4者会談実現への布石である。
 北朝鮮は、米国と韓国に向こう数年間、毎年150万トンの食糧支援を要請している。毎年200万トン程度の食糧が不足すると予想されているからだ。
 しかし、これほど多量の食糧支援は、米韓両国だけでは負担しきれない。いずれにしろ、日本の協力を要請してくるだろう。
 その時には困っている隣国の支援に積極的に応じる立場を表明しつつも、日本に届くようなミサイルを開発しないことや、日本人拉致疑惑についての解明も求めるべきである
 
 
 
 
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