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7 多様化する保育ニーズの中で
神奈川県横浜市・きらら保育園
園長 森田 倫代
1.延長保育
 きらら保育園は、社会福祉法人みどり会の2つ目の保育園として、平成12年4月、横浜市の緊急保育計画により金沢区、京浜急行能見台駅から歩いて5分のところに開園しました。定員は0歳児から5歳児まで各年齢15名ずつで90名です。開園当初から特別保育のメニューの中で延長保育は朝7時から夜8時までという市からの要望でした。13時間という長い時間をどのように快適に過ごすことができるかが課題となりました。
 
延長保育を行う環境
 一人ひとり友達がお迎えに来て帰っていく中で、広い部屋でぽつんと待っているのはとても寂しい気がします。お家に帰った友達はその時間を家庭でどのように過ごしているのでしょうか。少しでもお家に近い環境ができないかということが建物を設計する中で一つのポイントになりました。「小さい学校ではなく、大きなお家を造ってください」と設計家の方にお願いしていました。そして、その大きなお家の中に「小さなお家」をつくっていただくことになりました。
 玄関の下駄箱横に小さな屋根があります。その下のとびらを開けると中は8畳の和室と洋室、そして、キッチンがあります。その奥には、実はお風呂とトイレもあります。トイレは家庭と同じように大人のサイズですので、子どもたちはホール横のトイレを使うことになりましたが、この一角はワンルームマンションのようになっています。部屋の障子の向こう側は保護者の方がお迎えに来る道に面しています。そのためか、障子の一番下のところはいつの間にか小さな穴があいて、大きな穴になって、そのうち新しい紙が貼ってあります。
 この部屋にはビデオつきテレビがあります。お家ではテレビを見ている時間だと思ったからです。ところが、裏は緑地が高くなっていて保育園の前には高層マンションでテレビがよく映らないのです。お家に帰っている子どもはきっとテレビづけになっている時間ですが、延長で残る子どもたちは図らずもテレビの前でもテレビを見ないで過ごすことの習慣ができました。災害時の緊急時にはテレビも必要と思い、ケーブルテレビを入れてもうすぐ見られるようになるのですが、普段はこのまま見ないで過ごせるような気がします。
 
おやつと軽食
 さて、実際に延長保育を始めてみて最初に困ったのは7時までの子どものおやつと8時までの子どもの軽食をどのように行うかということです。最初の頃は6時30分になると延長保育室に集まって、みんなでおやつを食べていました。そして、7時なるとそれ以降残っている子どもたちが軽食を食べるというように行い、メニューもきちんと決めずそのときの食材に合わせて調理員がつくるというやり方で行っていました。ところが、6時30分におやつを食べると7時の軽食は食欲がなくなってあまり食べないのです。そこで途中でやり方を変えました。
 現在は、6時10分位になると7時までに帰る子どもは延長保育室でおやつを食べます。6時30分になると8時まで残る子どもたちが合流して7時まで遊びます。7時になり、おやつを食べた子どもたちが降園すると軽食が始まります。
 7時まで残る子どもたちが食べるおやつはお家に帰ってからの食事に響かない程度の、クッキーやおせんべいというようなお菓子と飲み物です。そして、軽食は5時からパートの調理員が延長保育室のキッチンでつくります。メニューはうどん、ピラフ、サンドイッチなど、献立を立てて行っています。6時にはでき上がっていますので、7時にもう一度温めなおしています。その場で給仕をして、みんなで頂きます。食事をしている間にお迎えに来る保護者の方は、隣に座って食べ終わるのを待って帰ります。ちょっとひと休みという感じです。
 
利用者数と利用料
 延長保育の登録者は平成13年10月現在、園児数109名中、7時までが9名、8時までが48名です。最初の時点で月割りと、緊急時のために日割りを選択できるようにしました。日割りの利用料は月割り料金を22日分として換算して設定したのですが、毎日利用しないと月割りでは割高になってしまいます。そのため、ほとんどの子どもが日割りの登録になっています。日割りの場合は利用料を少し高めに設定したほうが良いように思います。というのは、とても手間がかかるからです。現在は延長保育料は月が終わると集計して徴収しています。
 そんな中で実際行ってみると当日の利用者数がわかりにくく、おやつや軽食の準備にとても困ってしまいました。そこで、延長保育予定を1週間単位で書いてもらう表を玄関前に出しました。ところが1週間では予定が変わることが多く、当日になると予定表とは異なることがひんぱんになりました。そうなると、おやつはどうにか調整がついても、軽食は足りなくなってしまうことや反対にあまってしまうこともあり担当は毎日悩むことになりました。
 そこで担当者で話し合い、日誌にその日の予定時間を保護者の方自身に登園の際に記入して頂くことにしました。また、急な変更がある場合は5時30分までに電話で連絡をしていただいて調整をしています。その後、交通機関のトラブル等で変更がある場合もありますが、それでもずいぶん誤差が少なくなりました。こちらの状況をきちんと説明しお願いすると、保護者の方は理解され協力してくださるということを実感いたしました。
 日々の利用者は、少ないときで7〜8名程度、多いときで15名ぐらいです。0歳児が1歳になると、延長保育の希望者がぐっと増えます。0歳児は3人にひとりの保育士ですので、その日の人数によって保育士の必要数も変わってきます。普段は2人で行っていますが、学生アルバイトが8時まで1人お掃除をしてますので、人数によっては保育のお手伝いをしてもらいます。それでも、足りない場合は6時30分までの勤務の人が残ることになります。
 実際、13時間保育をしていて、年齢の低いクラスになるにつれて保育時間が長くなる傾向にあります。0歳児は15名ですが、その中で朝、夕の長時間は14名、延長保育の登録者は12名です。1歳児ももう少し少ないだけでほとんど変わりません。今の1歳児が年長になったころには9割以上の子どもが長時間保育になり、8割以上の子どもが延長保育になりそうです。これは、育児休業法が制定されてから変わってきた傾向です。子どもを出産育児しても、継続できる職場が増えているということの現れでしょう。また、そのようなお母さまは専門職や責任のある仕事をしている方が多く、常勤で働いていて、なおかつ長距離通勤の方も多いのです。ですから、どうしても保育時間が長くなってしまうのです。
 
職員体制
 これから、保育園としてもっと切実な問題になってくるのは職員体制でしょう。子どもの保育時間が長くなる中で、職員の勤務時間は週40時間です。常勤職員のシフト勤務では、朝晩の体制が子どもの人数と合わなくなります。現在延長保育を行っている職員は、一人は近所に住んでいて朝7時から10時まで、夕方4時から8時までの勤務をしてくれています。また、午前7時から午後2時、午後1時から8時までの職員が一人ずついます。その他に午後4時から6時30分までの職員が4人いますが、これから0歳児の育児時間がなくなっていくと長時間延長保育のニーズが増えますのでとても足りません。本当に延長保育の職員体制はとても難しいと感じています。
 0歳児の延長保育では離乳食の子どももいることになりますので、その場合の軽食はそれに合わせたものをつくらなければなりません。アレルギーの子どももいて、除去食の必要性もあります。
 8時まで保育を希望する方は朝も7時前に玄関前で待っている方もいて、やはり乳児ではどうしても子どもの負担になるようです。もちろん免疫や体力が幼児に比べ少ないこともあるようですが、病気になることも多く休みがちになります。病後児保育室が併設されているのでそれをうまく利用していただければと思うのですが、保育時間が7時30分から午後6時30分までですので延長保育利用者にとっては中途半端で利用しにくいようです。
 
延長保育での遊び
 利用する子どもが日によって違うので、年齢が高くなると、仲の良い友だちが一緒かどうかが気なるようです。メンバーによって遊びも変わります。また、人数が少なくなると落ち着いてじっくり遊びだす子どももいます。食事がすんでちょうど遊びに乗ってきた頃にお迎えに来るとすぐにはやめられず、保護者の方が待っている姿が見受けられます。
 園文庫が廊下を出ると玄関の正面に位置しているので、そこで本を読みながら待っている子どももいます。特に貸し出しの日はお迎えがくるまで選んでいて、その後読んでもらってから帰ることもあります。軽食まで食べていく方のほうがのんびりと園で過ごしているようです。子どものおなかがすいていないからでしょうか。
 
これからの延長保育の課題
 現在、育児休業の延長が求められていますが、それはとてもよいことだと思います。しかし、一時保育や親子サークルの方々を見ていますと、保護者の育児力の低下や近所づきあいの難しさを感じます。そうなると、3歳までの育児時間の確保ができればと思います。できれば、8時間の保育時間が理想的ですが、少なくとも延長保育の時間にかからないとよいですね。そして、子育てのための休暇が確保できればと思います。病気のための介護休暇や行事や保護者会に出席するための休暇が確保されれば子育ての両立はもっと子どもの要求に近いものになるでしょう。
 保育園に通う子どもの保護者は働きすぎで子どもと接する時間が少なすぎ、家庭で過ごす方は社会との接点が少なすぎのような気がします。子どもと1対1で一日中過ごすことが親子とも精神的に大変なようです。「公園デビュー」ということばが出てきたころから、地域での子育ては本当に難しい部分があります。親がストレスを感じれば子どもに影響します。現在、ニュースを騒がせている虐待の問題もそんな中から出ているのではないでしょうか。
 保育園はそんな中で子育てを共有できるパートナーとしての役割を担うことができるのではないかと思います。
 せっかく厚生労働省になったのですから、企業の子育て支援がもう少し考えられるのかと思っていたのですが、ちょうど不景気も災いしてか、保育園は子どものための施設から保護者のための施設になっているようです。
 そして、保護者の中には子どもと過ごすことに苦手意識をもっていて、お仕事が休みのときでも延長保育とは言いませんが通常の長時間保育はしてほしいとの要求があります。特に、お父さん一人では見切れないということもあるようです。そんなときは、「どうぞ、早めにお迎えに来て、子どもが保育園でどのように過ごしているかを見にきてください」とお願いしています。もちろん「一日保育士」として、日中から保育参加していただくことも行っています。そんな中で子育ての苦手意識が少しでもなくなればと思います。
 実際、4時30分に帰っている保護者の方とお話をしたときに、家に帰るとテレビを見たりテレビゲームをして過ごすことが多く、食事もテレビゲームをしながらというのです。テレビはともかくテレビゲームをしながらどうやって食事をするのかと思いましたら、おにぎりにしてあげているそうです。そして夜寝るのが11時すぎ、お父さんが帰るのを待っているのです。朝来ると眠そうでしばらくは動けません。
 そうかと思うと、夜8時にお迎えに来る方は家に帰ってからのスケジュールが合理的に工夫されており、お風呂に入って絵本を読みながら9時30分には寝るようにしているということでした。そして、次の日は早く起きて食事をし、保育園に7時30分には来るのです。
 子どもと一緒にどのように過ごしてよいのかわからない保護者の方が増えているのかもしれません。そんな中で延長保育は仕事のためだけではない支援をしているともいえます。せっかく長い時間をお家で過ごせる子どもたちの生活リズムと遊びの内容がとても心配です。乳幼児にテレビゲームはいらないような気がします。
 現在、横浜では待機児童がとても多いために緊急性が高い方しか保育園に入ることができないのです。優遇されているはずの育児休業明けや産休明けの職場復帰の方も年度の後半になると入れなくなる中で、パートで働いている方のニーズにはほとんど応えることができません。
 また、10月以降の復帰の方は、定員いっぱいになっている0歳児の現状を見て、本当に不安げに何度も相談に見えます。切実な思いが伝わってくるのですが、「お預かりできます」とはっきり言えない現実があります。赤ちゃんを腕に肩を落として帰られる保護者の方の姿を見ると深いため息が出てしまいます。








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