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第4分科会
ヒャッとしたときの対応 ―事例の検討―
司会者  三橋 勝男(茅ヶ崎市・ひまわり愛児園長)
提案者  伊? 恵子(板橋区・大禮保育園主任保育士)
助言者  大木師磋生(日本保育園保健協議会副会長)
提案要旨
ヒャッとしたときの対応 ―事例の検討―
伊? 恵子(板橋区・大禮保育園主任保育士)
はじめに
 
 ヒヤッとしたことは保育中には少なからずあることと思われますが、最近は保育園外での事件・事故に乳幼児が被害にあうことが多く見うけられます。ここでは保育園内の事故や疾病などに対する職員の意識と予防対策を重点に考え、保育園が取り組んでゆく乳幼児の安全対策についていくつか提言をさせて頂きます。
大禮保育園の現状
 
 当保育園は東京都板橋区にあり、昭和28年に東京都の認可を受けそろそろ50年の歴史を数えます。認可定員67名、現員67名、零歳児より就学前までの園児が通っています。職員は園長、正規職員およびパート職員等で20名が乳幼児のお世話をさせて頂いています。
事故に関する意識
 
 近年の保育需要の多様化から、様々な職業、国籍の保護者が保育園を利用するようになり、各家庭の意識も多様化し、保護者の要望に応えるための職員間の意思統一は不可欠な状況であるが、特に事故への対応は園児の生命に関わることであるので全職員が充分理解し速やかな処置が取れるようにしておかなければならないと思います。この対応を間違えると保育園と保護者との関係が悪化し、退園したり、職員が離職したり、最悪の場合訴訟問題まで発展する可能性もあります。
 元気に登園した園児は元気に降園するのが保育園の責任であるから、そのための事故予防策やマニュアル、及び職員間の意思疎通は大切なことであり、そのための対応を行う必要があります。
事故発生から対応状況
 
 状況の把握と生命維持の処置及び応急処置と関係機関(医師)へ速やかに搬送。 医師の指示の元、処置の状況、その後の対処方法、完治までの日時等確認。
保護者への状況説明
 
 いつ、どこで、どんな状況で、どうなって、どのような処置をし、現在どんな状態かを詳しく説明し、安心感と理解をしてもらえるよう誠実に伝える。
事故簿への記録 
 
 記録はありのまま正確に、発生日時、場所、状況、園児の状況、保育士の状況、病名を明らかにし、どんな医者がどのような処置をし、完治までの予想日時、引率の保育士名、誰が保護者に連絡し、どんな対応状況であったかを正確に記録する。
 その後の経過も記録し、最後に事故の原因がどこにあるかを検討し、再発防止と事故経過を全職員に説明し共通の理解を深めていく。
 記録をする場合は保育士の自己弁護にならないよう、客観的かつ事実に沿った記録が出来るよう日ごろより訓練しておく。
事例
 
 ここ10数年間の園内、園外、保育中の事故は脱臼・誤飲・切り傷など20例ほどありましたが、事例として次の4例をあげさせて頂きます。
[1]1歳児が一人で階段を登っていったこと
 今までで一番ヒャッとした出来事でした、大事に到ることなく済みましたが、数多くの反省及び検討をしました。
[2]3歳児が40センチくらいの高さから飛び降りて腕を開放骨折
 対応が速やかに行われ、感染症もなく済みましたが、一か月以上の入院、リハビリ中は病院の付添いを園長はじめ職員で行い、園として誠意を尽くし保護者とのトラブルはなく、かえって対応に感謝されました。
[3]5歳女児の噛みつかれた後の傷をめぐっての対応
 年長児で卒園する3月31日の降園時の出来事でした。卒園後の対応となりましたが、三か月くらい医師の診察を受けて頂いたり、相談したりが続きましたが、結局は自然と話しが立ち消えの状態になりました。しかし、これを機に噛みつき、ひっかきを含めたケガ、事故の対応を変えまして、よほどでない限りは直ぐに医師の診断を受けるようにし、双方の保護者に事情をお話しするようにしました。
[4]数名の警察官が容疑者を追って隣家屋根より突然園内に侵入
 人は必死になると考えられない行動をとるものです。
 たとえ刑事(私服)でも容疑者を追いかけていると、そこが保育園でも予告なく進入してきます。園児、職員にとってはびっくりする出来事であり、その後の事情聴取も一瞬の出来事に対し容疑者の風貌、容姿などとっさの出来事に対する各人の記憶のあいまいさを感じました。
保育現場での予防策として
 
[1]保護者への啓発・教育
 子どもへの安全に対する意識を持ってもらうような話し、情報提供、掲示等行い、どのような事故が起こりやすいか、どんな疾病が流行しているか保育園から発信していく。
[2]子どもの安全教育
 子ども自身に安全にすごすための方法や、基本的なルール、命の大切さなどを繰り返し教えていく。
[3]安全のための環境整備
 保育園内の設備や備品の安全点検の実施、建物の定期検診、外部の人の意見聴取などを実施し、問題があれば速やかに対応する姿勢を示す。
おわりに
 
 安全を確保するということは精神的にもコスト的にも負担がかかることが最近の日本でも理解されるようになってきました、「水と空気と安全はただで手に入る」といわれてきたのはもう過去のことであり、事故防止に投資をし、安全対策が充実すれば利用する保護者の評価も上がり、結局は自分の保育園が守られていくものと思います。
 
参考資料
集団保育における事故
大木師磋生(日本保育園保健協議会)
(「小児科臨床」(2000−12)より抜すい)
 
表1 年齢別にみた死亡原因の順位 平成9年
  第1位 第2位 第3位 第4位
年齢 死亡原因
0歳 先天異常 出産時障害 乳幼児突然死症候群 不慮の事故
1〜4歳 不慮の事故 先天異常 悪性新生物 肺炎
5〜9歳 不慮の事故 悪性新生物 先天異常 心疾患
 
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図4 保育所における外傷(負傷、外部衝撃)
 
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図6 保育所の負傷発生場所
 
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図7 月別事故発生率
 
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図8 曜日別事故発生率
 
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図9 時間別事故発生率
 
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図10 遊具と事故発生率
■III.安全と事故予防
1.環境点検、建物の安全管理と維持
 幼稚園、保育所は子どもが楽しく遊び、健全な発育、発達を行える保育の場であり、幼児教育の場でもある。また保護者は安心して預け、十分な子育てを委託している施設でもある。それには保育環境について、保育所内外の設備、例えば床の滑り止め、手洗い場、柱のカドとり、遊具、玩具、乳母車、ベッドの危険箇所、破損の点検、整備に努めなければならない。
2.園児の観察
 日頃の園児生活観察は集団保育の保健に欠くことのできない事項であるが、常に園児の行動を観察し、危険な行動がないかを察知することが、保育者として求められるところであり、殊に乳児は乳幼児突然死症候群の発生もあるので、必ず常時観察できるところに保育者が位置していなければならない。
 
■IV.関連機関、嘱託医との連携
 集団保育施設の管理責任者は園長であり、所管責任者は施設理事長であり、行政である。事故発生時には多くの職員に声をかけるとともに、管理責任者ならびにその代理者はただちに、嘱託医、医療機関、保護者に報告を行い、連携を行えるようにしなければならない。
 
■V.保護者の対応
 保育中に発生した事故は園の責任であり、発生したならばただちに保護者に連絡し、連絡者氏名、発生日時、事故の内容と程度、処置状況、できれば事故発生した原因、医療機関の搬送が必要ならば、特別に緊急を要しない限り、保護者の要請搬送医療機関名の聴取を行うべきである。また、降園時には保護者に、発生状況、事故状況を伝えるとともに、当日の入浴等の生活行動の注意事項と痛みの増強、頻回の嘔吐、けいれん、意識不明、顔色悪化、血尿、血便等の他の症状がみられた時には、ただちに医療機関を訪れるよう告げることが必要である。
 
■VI.事故の記録
 事故が発生すれば必ず正確に記録しておくべきで、事故の再発、予防に役立つばかりでなく、保護者に正しく伝える資料ともなり、時には訴訟等で必要となることがある。記録内容は、[1]園児氏名、クラス名、担任教諭、保育士氏名、[2]事故発生日時、[3]発生場所と発見者ならびに第1報告者名、[4]事故の状況と原因、傷害程度と内容、[5]対応者と同席または協力者職員名と対応処置内容、[6]園児の症状経過、[7]医療機関搬送依頼者、搬送者、付添い職員名、[8]搬送先医療機関名と治療内容、医師の説明内容、[9]保護者への連絡日時、連絡先と報告内容、連絡職員名、[10]保護者の反応と引き継ぎの職員名と時間、[11]引き継ぎの園児の状態、[12]再発予防の職員会議内容、[13]所管先の報告機関名と氏名、報告者職員名、日時、[14]所管機関の指示内容、[15]救済保障制度の手続年月日、[16]記録者、園長名と印が必要である。
 
■VII.事故、災害マニュアル
 事故は突発的に発生するものであり、冷静に対応するためには事故に対するマニュアルを作製し、正確に、速やかな対応ができるように習熟しておかなければならない。
 
■VIII.安全教育
 事故は日常の注意によって、多くは防止できるものである。日頃から安全教育が職員にも、園児にも必要である。園児にはスライド、絵、紙芝居等の教育用具を使用する。災害については保育所では児童福祉施設最低基準により毎月1回の実施が規定されている。また蘇生術の実習を繰り返して実施することが大切である。
 
■IX.救済保障制度
 集団保育の管理下で、事故または給食に起因する中毒で負傷、疾病が生じた場合は、国で設置した特殊法人「日本体育、学校保健センター」で、設置者と契約している施設では、その申請により医療費、障害見舞金、死亡見舞金が支給される。








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