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各種の調査機器
(1)トライトンブイ
 エル・ニーニョ*1現象のメカニズムを解明するために、国内で開発された海洋観測用ブイです。このブイは、海上気象(風向・風速、気圧、気温、湿度、日射、雨量)と水温、塩分、流向・流速を観測し、1時間毎の平均データを、アルゴス衛星通信*2経由で陸上に送ることができます。このブイは、海洋地球船「みらい」の就航を待って設置されてきましたが、現在(2000年3月現在)は、10基(2000年末に18基となる予定)のブイが赤道海域の西方を中心に設置されており、それらのブイからは、衛星を通して毎日、海洋科学技術センターの「むつの研究室」にデータが送られてきています。なお、同様のブイに「アトラスブイ」というものがありますが、これは、米国のNOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration:米国海洋大気局)が所有するブイで、太平洋中央部から東方に設置されています。
 
*1この言葉は、スペイン語の「神の子」すなわちイエス・キリストに由来するもので、この現象がクリスマスの頃に出現するということから、このように命名されたと言われています。本来、太平洋の赤道付近の海面水温は、通常、西部で高く、東部で低くなっていますが、数年毎に東部太平洋(南米ペルー沖)で異常な海面水温の上昇が起こります。これを「エル・ニーニョ現象」と呼んでいます。最近の観測結果から、この現象は東部太平洋だけでなく赤道太平洋のほぼ全域に及ぶことや、海洋と同時に大気(風)も変動していくことが分かってきました。特に1997年は、今世紀最大ともいわれるエル・ニーニョが発生し、その影響が残った1998年には、台風の発生が例年よりも少なかったなど、我が国の気候にも影響を及ぼしています。データに関しては、P4に示しました。
 
*2 これは、CNES(Centre National d'Etudes Spatiales:フランス国立宇宙研究センター)、NASA(National Aeronautics and Space Administration:米国航空宇宙局)及びNOAAの3者により、全地球上のあらゆる地域の環境情報を収集することを目的に開発されたシステムで、アルゴスシステムと呼ばれています。本システムはアルゴス発信機、南北両極軌道をとる2つの周回衛星及び地上受信局から構成されており、現在、フランスのCLSアルゴス社によって運営されています。
トライトンブイデータの流れ
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 表層の温度躍層(温度が急激に変化する深度)を代表する20℃の等温線は、熱がどれだけ蓄積されているのかを示す一つの指標となっており、この等温線が深ければ暖かい海水が表面に集められていることを示しています。1997から1998年に発生した今世紀最大といわれたエル・ニーニョでは、1996年3月に、西太平洋で最大190mの深度に20℃の等温度線が観察され、この海域に暖水が蓄えられました。そして、この等温度線は、エル・ニーニョの発生にともない130mまで浅くなりましたが、この浅くなった部分の暖水は、東太平洋に運ばれ、それによりペルー沖では、20℃の等温度線は、平均値よりも80mも深くなりました。このように、エル・ニーニョの前年に西太平洋に暖水が蓄えられることがエル・ニーニョの発生の一つの条件となっています。
 現在注目されていることは、2000年3月から4月に西太平洋では、この20℃の等温度線深度が赤道上で210mと非常に深くなり、これは、ブイのデータがとれるようになって以来の過去10年で、最大となっています。また、トライトンブイの時系列データでは、昨年からラ・ニーニャ(エル・ニーニョと逆の現象)が継続したことにより、西太平洋には十分な熱が蓄えられており、エル・ニーニョヘ移行する条件の一つが整えられた状態であることを示しています。エル・ニーニョ発生の他の条件は、この西太平洋に蓄えられた暖水を東に押し出す西風がこの暖水プール或で強く吹くことです。この西風は冬季のモンスーンにともない強まりますが、夏季には吹きません。今年(2000年)の冬季から来年春季にかけて、西太平洋赤道上で西風が強く吹けば、来年春季以降、エル・ニーニョの発生が見込まれます。
東経156度線に沿う20℃等温線の時間変化
Five Day Mean20℃ Isotherm Depth at156°E
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