IX.NACCSにおけるIT化の動向
1.物流施策の経緯
1.1 総合物流施策大綱
平成9年4月4日、閣議決定された「総合物流施策大綱」(平成9年大綱)では、平成13年度を目途に、以下の3点を実現する目標として掲げ、それを受けて様々な緒施策が実施されました。
[1]アジア太平洋地域で最も利便性が高く、魅力的な物流サービスが提供されるようにする。
[2] このような物流サービスが、産業立地競争力の阻害要因とならない水準のコストで提供されるようにする。
[3] 物流に係るエネルギー問題、環境問題及び交通の安全等に対応していく。
1.2 新総合物流施策大綱
平成13年7月6日、平成9年大綱の目標年を迎え、それまでに実施されてきた施策の成果を評価し、大綱策定以降の情勢変化等を踏まえた新たな目標、その達成のための具体的施策をまとめるため「新総合物流施策大綱」が閣議決定されました。
1.2.1平成9年大綱の評価(新総合物流施策大綱の原文より抜粋)
[1]「アジア太平洋地域で最も利便性が高く、魅力的な物流サービスを提供する」について
関連施策が着実に実施され、一定の効果を上げてきたものの、アジア太平洋地域において先進的な国際港湾等の整備も進み、我が国と比べコンテナ貨物の取扱量を大きく伸ばしている中、我が国の国際港湾においては、コンテナ貨物取扱量の伸びは低位にとどまっているほか、船舶の大型化や港湾のフルオープン化への対応や輸出入及び港湾緒手続に関する電子化、ワンストップサービス化の実現による一層の簡素化・効率化の必要性も依然として指摘されている。また、国際港湾等の高規格幹線道路網との接続は逐次改善されているものの、道路・港湾・空港等の物流関連社会資本等の機能強化と各輸送モード間のアクセスの改善、都市内交通の円滑化、物流システムの一層の標準化、情報化、非効率な商慣行の改善等が依然として課題となっている。
これらの事情から、アジア太平洋地域との相対的な関係を変化させるまでには至っていない。
[2] 「産業立地競争力の阻害要因とならない水準のコストで提供」について
我が国の物流コストは、わずかながらではあるものの低下傾向にあり、例えば、米国と比較しても必ずしも高いとは言えない水準にあるが、アジアの先進港湾に比べ港湾緒料金は概ね高い水準にあり、あらゆる面で国際的な競争が従来以上に激化している中、我が国の国際競争力を高めていくために、引き続きその低減に努めていくことが重要である。
[3] 「物流に係るエネルギー問題、環境問題及び交通の安全等に対応」について
物資輸送円滑化のためのハード・ソフト両面のインフラ整備やトラックの自営転換の推進、交通事故抑制対策等を進めてきたが大気汚染物質の排出削減の課題40や、地球環境の保全、循環型社会の構築41といった新たな課題に対応するための更なる取り組みが求められている。
40平成9年12月のCO2削減に向けた京都議定書
41平成12年6月に施行された循環型社会形成推進基本法
パレタイズ可能貨物のパレタイズ比率 |
1996年度 76% → 1999年度 76% |
貨物自動車輸送量のうち営業車の割合 |
1996年度 76% → 1998年度 78% |
内貿ターミナルヘの陸上半日往復圏の人ロカバー率 |
1996年末 72% → 1999年末 79% |
高規格幹線道路の供用延長 |
1996年度末 6,768km → 1999年度末 7,548km |
高規格幹線道路のICなどから10分以内に連絡が可能な主要空港・港湾の割合 |
1997年度末 49/170 → 1999年度末 55/172 |
車両大型化(総重量25トンまでの車両が自由走行可能)に対応した道路の延長 |
1996年度末 約6,000km →1999年度末 約3万9,000km |
水深15m級の高規格国際海上コンテナターミナルの数 |
1996年度末 2バース → 1999年度末 7バース |
TEU:Twenty-Feet Equivalent Unit(20フィートコンテナ換算)
経済産業省 商務情報政策局流通政策課発表資料より
対GDP総物流コスト比率の推移
経済産業省 商務情報政策局流通政策課発表資料より
1.2.2 新大綱の目標
21世紀を迎えたわが国の経済社会にふさわしい新たな物流システムの形成を目指し、遅くとも平成17年(2005年)までに以下の目標を達成することを目指す。
[1] コストをふくめて国際的に競争力のある水準の物流市場を構築
高度かつ全体的効率的な物流システムの構築
●物流の共同化・情報化(3PL42等)等の民間取組の促進。規制改革や行改手続の簡素化・効率化、技術開発等の推進。
42 3PL:サード・パーティ・ロジスティックスThird Party Logistics
荷主企業と運輸業者で様々な物流情報をリアルタイムに共有することで実現する、運輸業者の新しいサービス形態。サプライチェーン・マネジメントにおいて、物流効率を大幅に向上させるサービスとして荷主企業から注目されている。物流業務におけるアウトソーシング(外部委託)の一種といえるが、単なる物流業務とは異なり、3PLでは配送や保管、流通加工など荷主企業のサプライチェーン全体を一括して管理する。商品の在庫管理や、荷主企業の受発注業務まで請け負っている3PLもある。こうした物流情報は荷主企業と共有しており、荷主企業も商品の配送状況が詳細に把握できる。
標準パレット(T11型)による一貫パレチゼーション(発送から到着まで同じパレットで輸送する方式)を中心としたユニットロード化の推進。 |
平成17年までにパレット輸送が可能な貨物のパレット化率を約9割(現行約77%)とするとともに、標準パレット比率を欧米並みに引上げる。(日本約4割 欧米約5〜6割) |
地域物流において、トラック・海運・鉄道等の競争と連携の下、利用者の自由な選択を通じて適切な役割分担がなされる交通体系の構築。そのための連携事業の推進。 |
21世紀初頭までに、複合一貫輸送へ対応した内貨ターミナルヘ陸上交通を用いて半日以内で往復できる地域の人口べースでの比率を約9割(現行約8割)へ上昇させる。 |
21世紀初頭までに、自動車専用道路等のICから10分以内に到達可能な空港・港湾の割合を約9割とする。(現行:空港46% 港湾33% 欧米約9割) |
都市内物流において、環状道路整備、踏切改良等による交通容量拡大と、交通の需要面に働きかけ、需要の分散・整備を図る仕組みであるTMD施策(交通需要マネジメント)を推進。 |
21世紀初頭まで、3大都市圏における人口集中地区の朝夕の平均走行速度を25km毎時に改善するとともに、トラック積載効率を50%までに引上げる。
(現行:平均走行速度21km毎時 トラック積載効率約45%) |
国際港湾等の国際物流拠点やこれらへのアクセス、海上ハイウェイネットワーク、機関道路ネットワーク等の重点的整備。 |
21世紀初頭までに、輸出入コンテナの陸上輸送費用を平成9年大綱策定当事の施設配置を前程とした場合と比較して約3割削減することを目指す。(現行約1割削減) |
港湾の24時間フルオープン化、輸出入・港湾手続きの電子化・ワンストップ化等を進め、国際港湾物流の効率を大幅に改善する。 |
平成17年度までに、船舶が入港してから貨物がコンテナヤードを出ることが可能となるまでに必要な時間を2日程度へ短縮する。(現行3〜4日) |
[2]環境負荷を低減させる物流体系の構築と環境型社会への貢献
●地球温暖化問題への対応
●大気汚染等の環境問題への対応
●循環型社会実現のための静脈物流システム構築
●事故防止等物流の安全問題への対応
[3] 国民生活を支える物流システムの構築
●物流事業規制の緩和後においても安定した物流サービスと消費者保護の確保
●街づくりにおける物流の円滑化への配慮
●安定的な物流システムの構築
1.3 国際物流改革プラン
平成13年8月28日、閣議後の閣僚懇談会において塩川財務大臣から、「国際物流改革プラン」について発言(塩川イニシアチブ)があり以下の予算が要求される予定、これに関連して、小泉総理大臣から「国際物流分野の改革は経済構造改革の一翼を担う重要なものであるので、関係大臣は協力して積極的に取り組むよう」指示がされた。
また、平成13年9月28日に開催されました「関税・外国為替等審議会 関税分科会」において質疑が行われています。
「構造改革特別要求」予定施策
世界最先端のIT国家の実現 |
577億円 |
1.電子申告・電子納税等税務行政のIT化 |
372億円 |
2.国際物流改革プラン<行政システムのシングルウィンドウ化等> |
111億円 |
3.歳入金電子納付システムの構築 |
40億円 |
4.申請・届出等手続の電子化に関わる共通的基盤整備 |
34億円 |
5.国際旅客携帯品通関システムの構築等 |
19億円 |
6.自動車保有関係手続のワンストップサービス化 |
1億円 |
同プランは国際競争力向上と関連事業の収益拡大を狙い、具体的な施策として以下の3点から成り立っている。
[1]国際物流のトータル情報技術(IT)化
●平成15年度(2003年)をメドに通関情報処理システム(NACCS43)と輸出入関連手続(動植物検疫・食品等の輸入手続)、港湾関連手続き処理システム(出入港届・乗組員入国管理手続)をシングルウィンドウ化する。
●現在システム化されていない国際物流に関する行政手続き(港湾施設使用許可手続等)の完全IT化、ペーパーレス化を推進。
●民間の貿易関連事務のシステム化と標準化を図る。(荷主・港湾関係業者などの貿易関係取引についてEDI、電子データ交換の導入を促し、行政システムとの連携を目指す。)
[2]港湾の24時間対応
●国際物流拠点としての機能強化に向けて、中枢、中核港湾を整備すると同時に、手続きの取扱い時間延長、通関情報総合判定システム44の24時間オンライン化など、行政の受け入れ体制も整えていく。
43 NACCS:通関情報処理システム(Nippon Automated Cargo Clearance System)貨物の輸出入申告など税関に関連する手続を「より速く・より正確」に行うことを目的としたコンピュータによるネットワークシステムで、税関、銀行及び税関業務に関連する会社で利用されており、船により運搬される貨物を処理するSea-NACCS、航空機により運搬される貨物を処理するAir-NACCSがある。
44 通関情報総合判定システム:(CIS:Customs Intelligence Database System)輸入通関実績、検査実績等輸入者に関する情報を蓄積し、整理、保管することにより輸入者の資質を判定することを目的としたシステムで全国の税関官署に配備することにより、情報の分析・加工・管理体制を整備、強化し、水際における重点的かつ効果的な取締りを行っている。
平成13年4月に、日曜荷役の恒久的実施等、ターミナルゲートオープン時間の延長に関し労使間で合意が得られ、さらに平成13年11月29日、日本港運協会と全国港湾労働組合協議会および全日本港湾運輸労働組合同盟の港運労使は労働時間に関する協定に関して、港湾荷役を「24時間フルオープン化」することを明確にした。
[3]通関時間の短縮化
●コンテナ内部を見ることができる大型X線検査装置46や監視取り締まり支援情報通信システム47を配備。
●また、通関をスピードアップするため、予備審査制度や簡易申告制度の周知、利用促進に取り組む。
45 2002年1月2日および3日の荷役作業を実施するとの覚書について日港協は、税関や動植物検疫など関係行政の協力を前提に2002年の荷役実施を決定したもので、もし2002年の荷役で行政側の協力が得られなければ、2003年以降の荷役は実施しないとの姿勢を示している。
46 大型X線検査装置:平成13年3月、横浜港本牧埠頭の横浜税関に全国で初めて導入。縦横各5メートル、長さ55メートルのトンネル状のセンターを、コンテナを積んだトレーラが入るだけで作業が完了します。従来は検査のためにコンテナを移動し、手作業で開封し中身を確認するため、移動・開封の費用と1時間ほどの検査時間がっていましたが、装置導入により費用面の改善、時間短縮(5−20分)が実証されてきています。今後、同装置は先の予算請求により、神戸港等に順次導入されることになっているようです。
47監視取締支援情報通信システム:港頭地区において取締情報のデータをネットワーク化して、庁舎外での取締り職員も含めてリアルタイムで情報を共有するシステム。
特例輸入者承認・貨物指定状況
平成13年9月28日 関税・外国為替等審議会 関税分科会 資料より
輸入海上軍物の入港〜許可までの時間推移(単位:h)
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平成13年9月28日 関税・外国為替等審議会 関税分科会 資料より