第2部 各論
III.電子商取引のための行動規範(ECE勧告第32号)
1.電子商取引における自己規制の重要性
自己規制(self-regulation)とは、電子商取引に携わる企業が、他の企業と電子商取引を行うとき、自発的に一定の行動規則に従うという約束を意味します。以前取引関係がなかった当事者とはじめて電子商取引を行う場合、信用が最も大切です。自己規制は、電子商取引における信用を創造する強力な法的文書であることが、国際機関や消費者団体等によって認められています。特に、企業対消費者間取引において、自己規制が重要な役割を果たすと思われます。自己規制は、行動規範を採用するとか、国際的なトラストマーク計画に参加する等、様々な形式をとることができます。
2.電子商取引に関するEU指令
欧州連合は、電子商取引に関する指令(Directive2000/31/EC of the European Parliament and of the Council of 8 June 2000 on certain legal aspects of information society services, in particular electronic commerce, in the Internal Market,(Directive on electronic commerce))を2000年6月8日に採択しました。EU加盟国は、この指令が官報(Official Journal of the European Communities)に掲載された日(2000年7月17日)から18ケ月以内(2002年1月17日まで)にこれを導入しなければなりません。この電子等取引に関する指令に次の規定があります。
第16条 行動規範
第1項 加盟国および欧州委員会は次のことを奨励する。
(a)業界団体、専門機関、消費者団体などが、本指令第5条から第15条に規定する事項の適切な導入に貢献できるような、コミュニティ・レベルの行動規範を起草すること;
(b)国内またはコミュニティ・レベルの行動規範(案)を欧州委員会へ任意に伝送すること;
(c)コミュニティ内の言語でこれらの行動規範を電子的手段によってアクセスできるようにすること;
(d)業界団体、専門機関、消費者団体などが、それぞれの行動規範の適用および電子商取引に関する慣行、習慣または慣習に及ぼす影響についての評価を、加盟国および欧州委員会に通信すること;
(e)未成年者および人間の尊厳(human dignity)の保護に関する行動規範を起草すること。
第2項 加盟国および欧州委員会は、消費者を代表する協会または団体が、上記第1項(a)号に従って、団体の利害関係に影響を及ぼすような行動規範の起草と導入に関与することを奨励する。適切である場合には、特別の必要性を考慮に入れて、視覚障害者団体の意見が求められるべきである。
3.オランダ電子商取引プラットフォームの行動規範
1998年初頭、オランダの経済省、法務省、業界団体、教育機関、プロバイダー、ユーザーなどが協力して、電子商取引を促進する目的で中立的な調査機関を設立しました。これが、オランダ電子商取引プラットフォーム(Electronic Commerce Platform Netherlands; ECP.NL)です。ECP.NLは、電子商取引に関する法律が整うまでに相当な年月を要すると考えられるので、電子商取引に係わる利害関係者が行動規範を採択し、これに従って電子商取引を実施すれば、やがて新しい取引慣行または慣習が生成されるであろうと考えて、電子商取引のための自己規制文書(行動規範)を発表しました。その後の1年に、国内外からの意見を収集して、改訂を重ね、1999年11月に第3版を発表しました。ECP.NLの行動規範は、OECD、国連、欧州議会などにモデル行動規範として提出されました。
4.勧告第26号および第31号との関係
国連ECE勧告第32号の付属文書はECP.NLが作成した電子商取引に関するモデル行動規範(第3版)です。CEFACTの運営委員会(CSG)は、勧告第26号および勧告第31号と行動規範との関係を明確に述べることを要請しました。また、このモデル行動規範がLWGによって起草されたものでなく、オランダのECP.NLのモデル行動規範である理由を問題にしました。これに対して、LWGは次のように答えています。電子商取引に関する行動規範は数多くありますが、その中でも、オランダのモデル行動規範は容易に採択できる大変優れた内容を持っています。LWGとしては、新しい勧告案を提案するに当たって、改めて同じような内容の規則を作る特別の理由もないので、一種のチェックリストとして、オランダのモデル行動規範の優れた点を強調したい。行動規範は、勧告第26号や勧告第31号と異なり、契約的な解決策ではありません。これは、契約的解決策に対する代替案ではなく、国際的な電子商取引のための法的環境の展開を促進する実務的な代替案であります。
以下に、国連勧告第32号:電子商取引のための自己規制文書(行動規範)(Recommendation No.32:E−Commerce Self−Regulatory Instruments(Codes of Conduct))を掲載します。なお、以下の勧告第32号の脚注は訳者が付けたもので、原文にはありません。
ECE勧告第32号:電子商取引のための自己規制文書(行動規範)17
17本資料は、CEFACT第7回総会に提出された"Draft Recommendation on E-Commerce Self-Regulatory Instruments(Code of Conduct),"(TRADE/CEFACT/2001/14.15January2001)に基づいて作成しました。
1.序論
電子ビジネスを使用する国際貿易の発展と促進は、法的枠組みの創設を必要としている。過去5年以上の間に、以前に一度も商取引関係がなかった当事者間に、国境を越えた取引を含めて、オープン電子ビジネス取引が非常に大きく成長してきた。そこで、電子技術を利用する新しい国際貿易の要望に合わせて、法的枠組みを開発することが必要である。新しい取引手順に関する不明確な点や伝統的な紙に基づいた国際貿易慣習との相違点を取り除き、電子ビジネスにおける信用を創造する必要がある。
必然的な法的確実性と安全性を整え、信用を創造するための法的解決策として、以下の4つの一般的方法がある。
a.国内立法による方法
b.国際的な法律文書による方法:例えば、条約、協定、指令または代替的決議
c.契約的解決方法:例えば、国連CEFACTの勧告第26号および勧告第31号
d.自己規制(self-regulation)による方法:共同規制(co-regulation)を含む。
国際貿易に係わる多くの国は、すでに自国の法律制度が電子ビジネスの発展に適合するような法律を制定して、電子ビジネスのための法的枠組みを創っている。1996年に、国連国際商取引法委員会(the United Nations Commission on International Trade Law; UNCITRAL)は、電子商取引に関するモデル法を採択し、法律の制定または改正に際して当該モデル法を考慮するよう、加盟国に勧告している。18これは、紙に基づく通信方法および情報保管の代替手段に適用される法律の調和が必要であることを意味するものである。さらに、UNCITRALは電子署名に関するモデル法の開発の最終段階にある。
18UNCITRALのモデル電子商取引法に基づいて電子商取引法を制定した国は次のとおりです(2001年1月17日現在)。Australia, Bermuda, Colombia, France, Hong Kong(Special Administrative Region of China),Mexico, Ireland, Republic of Korea, Singapore, Slovenia, the Philippines, the States of Jersey(Crown Dependency of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)and within the United States of America, Illinois. Uniform legislation influenced by the Model Law and the principles on which it is based has been prepared in Canada(Uniform Electronic Commerce Act, adopted in 1999 by the Uniform Law Conference of Canada)and in the United States (Uniform Electronic Transactions Act, adopted in 1999 by the National Conference of Commissioners on Uniform State Law)and enacted as law by a number of jurisdictions in those countries.
多数の国は、電子ビジネスに適用する法の諸原則の統一を確実にする国際条約が必要であることを指摘している。現在までのところ、電子商取引に関する一般的な国際条約または電子署名の法的承認のような電子ビジネスの特定問題に関する国際条約を開発する特別の活動は全くない。国際条約の成立及び承認は、国際的に広い領域で基本的諸原則について信頼と容認を確立する必要があるので、不可避的に、進行が緩慢であると理解されている。地域的レベルでは、国際的な法律文書による方法で、電子ビジネスのための法的枠組みに関するイニシアティブの開発が幾分容易である。
例えば、欧州連合は、最近、電子商取引に関する指令(Directive on electronic commerce)19および電子署名に関する指令(Directive on electronic signature)20といった電子ビジネスのための法的枠組みを創設する幾つかの指令を採択した。欧州連合加盟国は、指定期間(通常、2年)内に、指令を国内法に導入しなければならない。
国内および国際的な立法に加えて、電子ビジネス取引に係わる当事者間の契約関係から創設される1対1の関係に関する規則は、各当事者の法的立場を明確にするための最も重要な法律文書である。国内または国際的レベルで、モデル契約書を開発するために多くの先行的事業が実施された。それらの中に、「電子データ交換の国際的使用のためのモデル交換協定書」(1995年3月、国連ECE/WP.4により勧告第26号として採択された)および「電子商取引協定書」(2000年3月、国連CEFACTにより勧告第31号として採択された)がある。勧告第26号および第31号と異なり、行動規範は契約による解決方法ではない。それは、自己規制的な文書であり、電子商取引を促進する他の方法と連携して作用することができる。
2.自己規制
信用は、以前取引関係になかった当事者間に電子ビジネスを展開するために最も重要である。自己規制は、電子ビジネスにおける信用を創造する強力な法的文書として、各国政府、国際機関、国際電子ビジネス・プラットフォーム、各国の機関や消費者団体等によって認められている。これらの機関には、例えば、経済協力開発機構(OECD)、欧州連合(EU)、Trust UK、電子ビジネスに関するグローバル・ビジネス・ダイアログ等がある。
自己規制とは、電子ビジネスに係わる企業が、他の企業と電子的に取引を行うとき、自発的に一定の行動規則に従うという約束を意味する。自己規制は、例えば、行動規範を採択するとか、国内または国際的なトラストマーク計画に参加するというように、様々な形式を取ることができる。
国家は、このような文書の開発を奨励または推奨するとか、電子商取引のための行動規範を自ら採択することにより、企業と政府間の電子通信を規制する一定の行動規則に従うことを義務付けるなど、自己規制文書の創設に重要な役割を果たすことができる。
行動規範やトラストマーク計画のような自己規制文書が一定の基本的要件を充足し、かつ基本的統一基準を有する場合、それは国際電子ビジネスに有益であろう。さらに、国際電子ビジネスは、自己規制文書の国際的認定により利益を享受するであろう。
3.オランダECP.NLのモデル行動規範
オランダの電子商取引プラットフォーム(the Electronic Commerce Platform, Netherlands; ECP.NL)の「電子商取引のためのモデル行動規範」は1999年に完成した。この行動規範の開発のイニシアティブは、1998年にカナダのオッタワで開催されたOECD会議でオランダ経済省が発表したもので、モデル行動規範は、1999年10月に開催されたOECD会議に提出された。このモデル行動規範に、欧州委員会(the European Commission)及び国際商業会議所(ICC)が強い関心を示した。
国連CEFACTの法律問題作業部会(Legal Working Group; LWG)が、特に、諾成契約の分野で、行動規範のような、クロスボーダー電子商取引を促進するための実務的に有効な解決策に焦点を置いていることに留意してほしい。ビジネスユーザーが、―各国政府の強力な奨励策を得て―ユーザーの確信を助長できる自発的な自己規制計画を採択できるならば、システムの全ユーザーが自ら規制し、納得しかつ支持できる環境の開発が展望できる。
国連CEFACTが特にオランダのモデルを採択する提案をしているのではない、ということを理解してほしい。これは、このような行動規範を開発する際のチェックリストとして使用できるモデルの例示見本に過ぎない。
国内立法は、不可避的に、予想以上に多くの時間を要する。けれども、行動規範は、かなり弾力的であり、適切な修正を加えて採用しても、個別取引の全ての当事者に対して公平な基本的原則を保つことができる。本勧告は、国連CEFACTの加盟国に対して行動規範の概念の理解を促すものである。すなわち、行動規範は、これに示されている特定の基準に従わないものは、商業及び法律双方の見地から容認できない行為であると認知できる環境を開発するために、全国レベル、地域別、産業別または個別企業レベルで適切なインフラストラクチャーを開発する際のテンプレート(雛形)として使用できる。この目的が達成されたときは、この法律制度の裁判官は、行動規範に規定されている標準に達しないEコマース・ビジネスに対して不利な判断を示すであろう。
4.執行可能性
本勧告は、独特な執行可能なメカニズムを示唆するものではない。これは、特定の裁判管轄における関連法の適用に左右される。しかし、これには法廷外紛争処理(alternative dispute resolution: ADR)手続が含まれるであろう。国連CEFACTは、将来の作業計画でこの間題に取組む考えである。
勧 告
貿易簡易化及び電子ビジネスに関する国連センター(UN/CEFACT)は、以下の諸事項を勧告することに合意する。
1.国連加盟国は、その他のソリューションに加えて、国際貿易の発展を支援するために、 電子商取引のための自発的な行動規範の開発、支援及び普及の本質的な必要性を認識する。
2.したがって、国連加盟国は、自国の貿易機関及び国際的貿易機関によって、電子ビジネスのための自己規制文書を行動規範及びトラストマーク計画として開発することを推奨かつ促進する。
3.国連加盟国は、自己規制文書を評価するための国内及び国際的計画を開発することを推奨かつ促進する。
4.電子商取引のための行動規範を開発する国内および国際的機関は、本勧告の付属文書として収録されているオランダ電子商取引プラットフォーム(the Electronic Commerce Platform of the Netherlands:ECP.NL)によって開発された電子商取引のためのモデル行動規範を考慮すべきである。以下に掲げる付属文書は行動規範の一例に過ぎないものであり、同様の文書を開発する際に注意する必要のある多くの問題点を明らかにしている。
[本勧告が採択されたUN/CEFACT第7回総会に参加したのは、46カ国、19の国際関係機関と非政府機関、及びオブザーバーとして参加した6団体である。これらの国名、国際機関等の名称が勧告文書に掲げられているが、ここではこれを省略する。]