3.ebXMLの構成要素
ebXMLの仕様は次の5つの構成要素からなります。
[1]コラボレーションプロトコル合意(CPA)
[2]ビジネスプロセス
[3]コア構成要素(共通情報構成要素)
[4]レジストリ・リボジトリ(R&R)
[5]メッセージングサービス(ebXML通信仕様)
図2−2 ebXML仕様の構成要素
3.1コラボレーションプロトコル合意(CPA)
電子商取引を効率的に実施するために企業が、自社のシステムが遂行可能なビジネスプロセスに関する情報、およびビジネス文書を交換する特定技術の実装上の詳細情報を公開するメカニズムを提供します。
3.1.1コラボレーションプロトコルプロファイル(CPP)
このようなメカニズムを整備するために、ebXMLでは各当事者がコラボレーションプロトコルプロファイル(Collaboration Protocol Profile、以下、CPP)を作成します。CPPは、ebXML仕様に則ったビジネスプロセスとビジネスサービスインタフェースに関する必要情報を、取引相手先システムが理解できるような方法で記述したXML文書です。具体的には、ある取引当事者がサポートする電子商取引に関するシステム能力、および取引相手とのデータ交換のサービスインタフェースが満足すべき要件等が含まれます。また、当該取引当事者の連絡先情報、業界区分、サポートしているビジネスプロセス、インタフェース要件(メッセージサービス要件等)、セキュリティ関連のプロトコル情報なども含ませることができます。
各取引当事者は、CPPを作成し、ebXML準拠のレジストリに登録しておかなくてはなりません。これにより、取引相手先との間でお互いに発見しあい、そこでコラボレーション可能なビジネスプロセスを見出すことができるようになります。
CPPには次のような項目が定義できます。
CPPバージョン番号
取引当事者の情報
連絡先(住所、電話番号、他)
通信プロトコル(HTTP, SMTP, HTP, etc)
通信セキュリティ仕様
ビジネスプロトコル
サービスインタフェース
3.1.2 コラボレーションプロトコル合意(CPA)
一方、電子商取引を遂行するプロセスを実現するには、取引当事者同士がお互いにサポートしているビジネスプロセスが何で、ビジネス文書を送受信するために採用している技術の詳細情報は何かを知って調整する仕組みが必要です。そのためにebXMLでは、コラボレーションプロトコル合意(Collaboration Protocol Agreement、以下、CPA)という文書を用います。CPAは、電子商取引をebXML技術仕様上で実施する当事者双方によって、お互いのCPPの共通部分をとり、合意した内容を記述したものとなります。すなわち、メッセージサービス(技術)とビジネスプロセス上の要件で、2者あるいはそれ以上の取引当事者間で合意しておくべき内容が記述されます。
ebXMLでは、CPAによる合意に至るために3つのレベルをサポートしています。まず、当該取引当事者がサポートできる潜在能力がある範囲(Possibility)にあり、そのサブセットとして実際に実施可能な範囲(Capability)があり、さらにその部分として合意した実行範囲(Agreements)があります。
電子商取引では、法的協定や法的細則などの業務契約問題(包括的業務の観点からは取引契約の重要な要素)に対応できるように、電子取引協定の幅広い適用範囲が認識されています。ただし、電子ビジネスコラボレーション固有のニーズに応えるときは、この幅広い適用範囲が絞り込まれます。このため、電子取引協定のさまざまな側面に対応できるように、ebXMLコラボレーション・プロトコル合意を拡張することができます。ビジネスコラボレーションに関連する取引当事者は「パートナー」と呼ばれます。ビジネスコラボレーションはebXMLパートナーが要求できる一次的なサポートです。この「サポート要求」を効率的に処理するために、公開用に定義された個々のプロフィール情報を利用するか、ebXML レジストリ・リポジトリサービスなどのディレクトリサービスによる情報開示を行ないます。
図2−3にCPAの構築手順を示します。
図2−3 CPA合意プロセス
[1]取引企業A,BのCPPをリポジトリに登録する。
[2]買い手企業Bが、リポジトリに格納されている企業AのCPPを探し出し、自社のサーバにダウンロードする。
[3]買い手企業Bが、互いのCPPから合意のとれると思われるCPAを作成し、売り手企業Aに送付する。
[4]二者間で、合意の取れるように調整(ネゴシエーション)する。
[5]コンピュータ上で動作可能となるCPAを生成する。
[6]電子商取引を開始する。
3.2 ビジネスプロセス
ビジネスシナリオに関わる、UN/CEFACTモデリング手法に則った情報の定義を行ないます。当該ビジネスシナリオにより、電子商取引当事者のシステム間で互いに噛み合うビジネスプロセスを遂行できます。
電子商取引のなかで取引当事者間が行うビジネスコラボレーションは、取引当事者が行うビジネスプロセスをうまく連結することで達成されます。取引当事者は、ビジネスコラボレーションのなかで個々の役割を果たすために、ビジネスサービス機能を実装します。このビジネスサービスは、所定のコラボレーションプロトコルプロフィール(CPP)に適合することで、ビジネスコラボレーションに必要な機能を有していることが担保されます。実際のビジネスコラボレーションは、ビジネスプロセスを構成する基本単位である取引当事者間のビジネストランザクションの振る舞いとして実現されます。このビジネストランザクションは、電子的なビジネス文書を交換することとして記述され、そうした交換の順序が、ビジネスプロセスと、メッセージングやセキュリティと関連して定義されます。ビジネス文書を構成するのが、再利用可能なビジネス情報の構成要素です。
ebXMLでは、こうしたビジネスコラボレーションに必要なビジネスプロセスや情報のモデリングを行い、そこから実際に各取引当事者がビジネストランザクションを実行するためのシステムに必要な構成要素の仕様を取出します。この仕様はビジネストランザクションを実現するために、さまざまな標準パターンやそれらのパターンに共通に適用されているモデリング要素を使用しているので、これら全体をまとめた仕様が、取引当事者が行うべきビジネストランザクションのあり方を定めています。ここでは、こうしたebXMLにおけるビジネスプロセスと情報のモデリングの枠組を説明します。
3.2.1ビジネスプロセスと情報メタモデル
ビジネスプロセスと情報メタモデルは、ebXMLにおける要件定義、分析そして設計の作業段階におけるビューポイント(各作業段階に必要な情報を記述するためのビジネスプロセスの観方)をサポートし、それぞれのビューポイントにおいて意味情報の集合を提供します。そして、ビジネスプロセスや情報の統合、相互運用を生み出すために必要となるオブジェクトや成果物の仕様の基本を形作ります。ビジネスプロセスや情報をモデリングした結果は、このメタモデルに対して適合していなくてはなりません。
ebXMLにおけるビジネス運用ビュー(BOV)の部分はUN/CEFACTモデリング手法(UMM)の考え方をそのまま踏襲しているため、このメタモデルもUMMの4階層のメタモデルをそのまま当てはめることになります(図2−4)。
図2−4 ビジネスプロセスと情報メタモデル
最上位のメタモデルは、さまざまなビジネスプロセスを相互に関連付け、業務領域またはプロセス領域に基づいてビジネスプロセスを分類するビジネスオペレーションマップ(BOM: Business Operational Map)です。
2番目のレイヤであるビジネス要件ビュー(BRV: Business Requirements View)では、ビジネストランザクションおよびその相互関係に対するユーズケースのシナリオ、入力、出力、拘束条件、およびシステムの境界領域を表現するモデルのビューです。ebXMLでは、ビジネスプロセスの特定のステップに参加する取引当事者の種類、そのステップに関連するビジネス協定、そのステップから発生する契約に基づく経済資源(商品、サービス、お金、等)の交換(配送方法と支払い手順)などが明確化されます。
3番目のレイヤであるビジネストランザクションビュー(BTV: Business Transaction View)は、取引情報の要素、および取引活動に伴う各役割間の情報の流れをビジネス用語により表現するビューです。ebXMLでは、ここで交換されるビジネス文書の観点からビジネストランザクションの仕様が明確化されます。
最後のレイヤであるビジネスサービスビュー(BSV: Business Service View)は、ビジネスプロセスを実行し、有効化するために必要な相互作用として、ネットワークコンポーネントのサービスおよびエージェント、およびそれらの間での情報のやり取りを記述するビューです。
UNNでは、実際に仕様を記述する際に、雛形となるようなパターンを利用します。例えば、ビジネストランザクションビュー・メタモデルでは、ビジネストランザクション・パターンがあり、図2−5は、そうしたパターンの一つを記述したアクティビティ図の1つです。これが実際のプロセス分析におけるステレオタイプとなります。
図2−5 プロセスパターン事例(アクティビティ図)
ビジネストランザクション・ビューでは、これを含め、以下の6つのプロセスフローパターンのが用意されています。
[1]ビジネストランザクション(Business Transaction)
[2]回答文書付ビジネストランザクション(Commercial Transaction with Business Document)
[3]質問と回答(Query/Response)
[4]要求と回答(確認)(Request/Response(Confirm))
[5]通知(Notification)
[6]情報配布(Information Distribution)
同様に、ビジネスサービスビュー・メタモデルでは、ビジネスサービスインタラクションパターン(Business Service Interaction Patterns)や情報モデリングパターン(Information Modeling Patterns)が雛形として用いられます。ネットワーク上のコンポーネントであるサービスやエージェント間の相互作用については、ビジネスサービスインタラクションパターンをあてはめることになっており、取引当事者のシステム間と中間のエージェント(となるシステム)を含めた3者間の、以下の5種類の標準ステレオタイプがあります。
[1]Service−Service
[2]Agent−Service−Service
[3]Service−Service−Agent
[4]Service−Agent−Service
[5]Agent−Service−Agent
図2−6は、[1]のパターンをシーケンス図で表したものです。
図2−6 Service−Serviceパターン(シーケンス図)