はじめに
近年、油流出による海洋汚染問題、船舶からの二酸化炭素排出問題、老朽船のスクラップ問題など、船舶を巡る環境問題が注目を集めている。その中で、現時点ではそれほど関心を集めてはいないが、アフリカなどの開発途上国においては使用しなくなった船舶を湾内、海浜、あるいは、河川などに投棄するいわゆる「海洋放置」とも言うべき行為が見られるようになっている。
このような問題は、日本国内であれば直ぐに社会問題化すると思われるもので、現にプレジャーボートの廃棄・不法係留が問題化しているが、開発途上国ではかなりの大型の船舶についてもこのような行為が見られる。開発途上国においては、船舶の処分のための適当な手段が整っていないこと、処分のためのコスト負担の問題から積極的に処分を行う意欲がわきにくいこと、今のところスペースに比較的余裕があること、などの理由から、特段の問題視がなされていないのが現状のようである。
我が国は、世界の船舶建造量の約40%を占める造船国であり、船舶の環境問題に対しても積極的な取り組みを行うべき立場にある。日本からの輸出はまだまだ少ないとは言え、アフリカ諸国に見られるようないわゆる「船舶海洋放置」の問題についても、海洋国家日本として、前向きに対応していくことが求められてくるものと考えられる。また、船舶の製造者の立場としても、貿易の活性化に対してマイナス要因となりうるこのような問題について早期に問題の把握及び問題の除去を指向していく必要があるものと考える。
ジェトロ・パリセンターでは、平成13年度において、南アフリカ共和国、ナミビア共和国、タンザニア連合共和国、マダガスカル共和国を訪問し、船舶海洋放置の問題を実地に調査した。この分野については、体系的な文献・情報は整備されておらず、調査は必ずしも効率的に行うことができなかったが、いくつかの事例を見出すことができ、アフリカにおいては船舶の海洋放置が一般的によく見られる現象であることを改めて知ることができた。
今回のご報告はほんの一部の事例であるが、まだ不完全ながらも船舶海洋放置の問題の実態をある程度理解していただく資料として有益なものとなったと考えている。この調査結果を、将来的な我が国としての対応、すなわち、政策策定、政策実施のための基礎的な資料として活用していただければ幸いである。また、調査を通じて当パリセンター船舶部とアフリカ諸国の海事関係者との間に緊密な関係を築くことができたが、これを契機に造船分野での両国間の交流が活発化するとともに、造船国としての日本の環境問題に対する積極的な活動について諸外国の理解がより深まることを期待したい。