第II部
1. 概略
一口にバージ産業の安全環境問題といっても、バージや曳船の使用水面や使用目的により多岐であり、安全環境問題も多様である。米本国とハワイやプエルトリコ、更に南米諸国に伸びるオフショア曳航、国内沿岸のみを対象とする沿岸曳航、オフショアや沿岸曳航の安全性の向上のために考えられた関節連結式タグ・バージ(Articulated Tug/Barge: ATB)、港内で大型船の接岸やドッキング、タンカーのエスコートに使われるハーバータグ、その作業性を向上させるためにZ-ドライブやフォートシュナイダー・プロペラを装備した高馬力のトラクタータグ、河川や陸岸で遮蔽された沿岸内水路のみを対象とした内陸水路用バージ及び曳船など、一律に論ずることのできない広がりを持っている。
バージ・曳船の基準はオフショア、沿岸、港内、内陸水路といった使用水面ごとに作られているが、オペレーター側からすれば、少しでも商売の機会を多くするため、より広い水面で使える船を作る傾向にあり、オフショア・沿岸曳航機能とハーバータグ機能を持つ船、あるいは内陸水路曳航機能とハーバータグ機能を持つ多目的船が一般化している。また、これらの曳船には、消防艇の機能や油濁対応機能を持たせ、多目的化をさらに進めたものもあり、安全環境問題の一律的議論を更に難しくしている。
内陸水路用バージ及び曳船の安全環境問題を論ずる際に理解しておく必要があるのは、前述の内陸水路用バージ25,070隻のうち、約20,000隻が非登録バージ(Undocumented Barge)である、という事実である。非登録バージの98%はミシシッピ川流域及びメキシコ湾岸内水路内で稼動している。また、非登録バージの86%は乾貨物バージ、10%が建設用バージ、4%がタンクバージであるといわれている。つまり内陸水路用乾貨物バージの大部分は、非登録バージ、タンクバージの大部分は登録バージであるということができる。
内陸水路用バージ・曳船では、甲板貨物の荷崩れが安全環境問題のポイントとなる要素は少ない。コンテナのフィーダーバージや木材甲板積みバージは米国ではあまり一般的ではない。
内陸水路用バージ・曳船で安全環境問題と最も係わりあるのは、石油や液体化学製品を輸送するタンクバージである。油濁防止法(Oil Pollution Act of 1990: OPA90)が制定されてからの10年、タンクバージの油流出問題は急激に減少している。OPA90が施行された1990年、タンクバージは17億バレル(約2億7,000万キロリットル)の油を運んだが、そのうち23,600バレル(約3,800キロリットル)が環境中に流出した、とされる。
1997年のタンクバージの輸送量も17億バレル(約2億7,000万キロリットル)であったが、環境中への流出は、わずか9,900バレル(1,600キロリットル)に過ぎなかった。これは船体のダブルハル化もふくめ、政府と業界が努力した結果である。
タンクバージ・曳船産業が、より良い顧客サービス、運航基準や手順の明確化、質の向上、より高度な安全基準等を表明したのは、OPA90以降である。タンクバージに限らず、この業界は元来、連邦基準よりも業界の慣行が長い間尊重されてきた。
内航バージ業界は、1980年代には、基本的に小企業、家族企業が中心であったが、景気の悪化に伴って大企業に身売りするものが多くなり、次第に近代的体裁を整えるようになってきた。この業界の質を高めようとする努力は、乾貨物バージよりもタンクバージにおいて先行していた。タンクバージの荷主は石油会社や化学会社であり、バージが適合すべき詳細な技術/運送基準を独自に作成し、安い運賃よりも、安全に事故なく目的地に到達する確実性によってバージ・オペレーターを選ぶことを強調してきた。
内陸水路のバージ・曳船業者を安全・環境の面からまとめているのは、米国内陸水運運航者協会(American Waterways Operators: AWO)である。AWOが1994年以降、USCGとパートナーシップを組み、業界の安全向上に果たした役割は大きい。
本報告書では、第2章で内陸水路用バージ・曳船の安全問題を、USCG、ABSあるいはUSCG・AWOパートナーシップの基準を基に述べ、第3章でバージ・曳船の環境問題を解説する。
環境問題ではOPA90の重要度が大きいため、3−3節として、「OPA90とタンクバージ」とする1節を設けた。第4章ではバージ・曳船産業を取り巻く社会環境の中から汚染に対する措置、税制、航行サービス料、労使関係を選んで解説した。
2. バージ・曳船の安全基準
2-1 安全問題概要
1994年、曳船の安全に関する二法案が議会に提出されたが、いずれも成立しなかった。一つは曳船安全法(Towing Vessel Safety Act)であり、他は曳航安全法(Towing Safety Act)である。曳航安全法は船員、検査、オフショア・ライセンス等、船自体よりも運航に重点を置いている。
1994年11月14日の上下院改選で、共和党は多数党の座を獲得した。共和党はもともと産業の規制には消極的であり、民主党議員の提出した上記両法案は、立法レベルよりも行政レベルで処理されるべきものとして葬られた。これはAWOにとっては好都合であった。AWOは表面的には、上記法案が成立しなかったことに失望の色を見せたが、内心はバージと曳船の安全について熟知していると自負していたので、これを機会にUSCGとパートナーシップ契約を結んで、より質の高い安全環境基準作りに進出できる状況となったことを歓迎したのである。
両法案が葬られたことは、必ずしも議会がバージ・曳船の安全問題を軽視していることにはならない。議会は、内陸及び沿岸曳船オペレーションの安全についてUSCGに勧告する役目を持った曳船安全諮問委員会(Towing Safety Advisory Committee: TSAC)を1993年3月に設立しており、以後バージ・曳船の安全環境問題はTSAC、USCG、AWOの三者の協力により解決してきていた。なお、TSACのメンバーの中にはAWOの代表、学識経験者が含まれている。
USCGとAWOはTSAC成立以前から協力関係にあったが、それは契約書を取り交わすという種類のものではなかった。1993年にアラバマ州で起こった、曳船が鉄道の橋脚と衝突して交通を麻痺させたSunset Amtrakの事故は、USCGとAWOの協力関係のテストケースとなった事故である。
1993年末まで、AWOはUSCGの調査を助け、国家交通安全委員会(National Transportation Safety Board: NTSB)の証言台に立った。この中でAWOは、業界の安全を向上する9つの提言を行なっている。1994年1月末には、AWOは、USCGが1993年中に実施した調査に基づく19の安全提言について、その実現の支援を申し出ている。3月には、新設のTSACが4つのワーキンググループを設立し、USCGの提言実現を促進することとなった。
USCGの提言の内容は、損害の届け出、レーダー、訓練、航海計器、曳船オペレーターのライセンス等であり、USCGの安全関係規則改正の熱意に引きずられ、TSACワーキンググループは熱心に作業を進め、1994年末には2つの規則を成立させることができた。一つは前述の廃案となった法案に盛込まれていたものよりも厳しい事故報告要件、もう一つは曳船オペレーターに対するレーダーの訓練要求である。曳船の航海計器及びオペレーターのライセンス基準のグレードアップ規則もこの事故が契機となって公布された。
1996年3月と5月に、テキサス州でシングルハル・タンクバージが主船体の構造的バックリングにより油を大量に流失させた事故では、TSAC、USCG、AWOが三位一体となって問題解決に当たっている。この2件の事故の後USCGはタンクバージ・オペレーターに手紙を送り、タンクバージに関する規則、特に検査、運航、ライセンス及び配員に関する規則改正が必要になる、と伝えた。また、規則改正には時間がかかるため、当面の対策として19のチェックリストを示した。
事故はガルベストン湾とヒューストン水路で起こり、いずれもバッファロー・マリン・サービス社のバージであった。事故後USCGは、業界、学識経験者、政府機関関係者を含む12人の委員からなる船舶安全タスク・フォースと共に事故を調査し、報告書を提出した。
報告書の中ではガルベストン湾内の航行援助システムのグレードアップ、テキサス沿岸における防火能力の向上、貨物油の搭載及び揚荷時の船体縦強度への注意等が述べられている。この報告書を受けて、TSACは1996年8月「タンクバージの構造と積み付け委員会」を設置した。
以上の規則改正のプロセスの中で、AWOは各委員会の委員としてオペレーターの意見が充分に取り入れられるよう活動し、規則は順次2-3節に述べるCFRとして公布された。
AWOがTSACあるいはUSCGと組んで、バージ・曳船の安全環境問題を解決していこうということは、AWOが基本的にこの問題が連邦レベルで処理されるべきであると考えている強い意志の現れである。しかし、困ったことに1990年代後半に入り、州がこの分野の立法に入り込んで船舶の設計やオペレーションまで規制を始めている。
特に、ワシントン州、ウィスコンシン州、ロードアイランド州が先鋭的でありバージ・曳船業界を困らせている。これらの州は、何か事故があると連邦規則や周りの州とは無関係に州独自の規則を作っている。
これらの州の立法の内容は、油流出や一般の汚染防止に関連したものが多いので、3-1節で詳細に述べることとする。
内陸水路用曳船の沈没事故は意外と多い。マリタイム・ニュース誌のデータによれば、1992〜96年に内陸水路で244隻の曳船が沈没している。一般に曳船は平穏な水域を対象として設計されているため、機関室は外界に対して区画されておらず、その他の開口も波浪による浸水には弱い設計となっている。さらに、牽引すべきバージの重量に対して適正出力を有する曳船を用意できる場合は少なく、衝突や乗り揚げの危険性も大きい。
また、ダウンストリーム(河川を下流方向に航行すること)時に起こる曳船特有の事故もある。上流に向う曳船をバージ船団から切り離す時、曳船を停止、回頭してバージ船団に向かい、バージと合体した船首から甲板員がバージに乗り移って、バージと曳船を切り離している。この作業がダウンストリームであり、通常は事故なく行われているが、1992〜96年で毎年平均1.6隻、1990〜97年で合計15隻の曳船がダウンストリーム時に沈没している。
ダウンストリーム時の沈没件数は曳船全体の沈没件数に比べれば多くはないが、乗組員に対する危険度は非常に大きい。1990年には5隻がダウンストリーム時の事故で沈没し、11人が死亡した例があるが、そのうち2隻では全乗組員が死亡した。5隻のうち4隻は、1,350PS以下の曳船であり、明らかに曳船の出力が過小であったことが事故に関係している。
ダウンストリーム時の事故は、曳船が船首でバージ船団と向かい合うことができない場合に起こる。曳船がバージに接近する場合、川の流れよりも遅い速度、場合によっては機関を停止して近づき、舵を使って位置を保持する。しかし、曳船がバージと直角に向き合わず、しかも川の流れが速い場合、曳船は船首を回転軸として、急速にバージと横づけする。
この場合、バージと曳船の間の水が甲板上に急激に浸水し、戸や窓から急速に流入し、曳船は沈没又は転覆する。また、バージのレーキ(船底傾斜部)の下に船首が当たり回転した場合は、曳船はバージの下にもぐってしまう。ダウンストリーム事故の生存者の証言によれば、以上のプロセスは驚く程の速さ、おそらく沈没まで1分以内の速さで進行するため、機関室乗組員が甲板上に脱出できないのみか、救助船による外部からの救助も不可能な状況であるとしている。
ダウンストリーム事故は、曳船の設計上及び運用上の弱点をよく現わしている。沈没の原因となる曳船とバージの間の短時間での水位上昇は、海洋の波浪に匹敵すると考えられるが、先に述べたように、曳船の機関室は非水密であるため、大波がくれば瞬時に沈没する構造となっており、特に小型船の急流中のオペレーションは非常に危険である。
大型船は馬力も大きく、ダウンストリーム事故の引き金となる船首回転も起きない。しかし、現実には1,350PS以下の曳船が使われることが多く、ダウンストリーム事故に限らず事故多発の原因となっている。
ダウンストリーム事故はミシシッピ川水系のセントルイス港やバトンルージュとニューオリンズ間で、潮汐や洪水の関係で川の流れが速くなるときに多発している。ダウンストリーム問題はUSCGとAWOの共同研究の対象となっており、曳船船長が川の流速測定値を基に操船する態度に欠けている問題、自己満足、注意不足といったヒューマン・ファクターにまで踏みこんだ安全指針の確立を目指している。
2-2 USCG・AWOの相互協力
AWOは米国のバージ・曳船産業を代表する協会である。AWOは内陸用から太平洋、大西洋、メキシコ湾岸のオフショア及び沿岸用、港内におけるドッキング、給油用等、幅広い作業に従事する350社のバージ・曳船業者を取りまとめている強力な組織である。
1994年、曳船関連2法案の不成立を受けて、AWOはこの業界の安全、信頼性、高度の運航基準を策定するのは、この業界のことを熟知しているAWO自身が率先すべきだと痛感し、9ヶ月間事務レベルで協力内容を詰めた後、1995年9月19日、USCG・AWOパートナーシップ・イニシアティブを発足させた。このプロジェクトは、今後両者が積極的に協力してバージと曳船の安全環境問題を解決しようというものである。組織としては、とりあえず品質指針委員会(Quality Steering Committee: QSC)を設け、両者のエキスパートから構成されるQATs(Quality Action Teams)が取り上げる問題の解明に当たることになった。ローカルな問題の解決のために、その後続々と地区QSCが作られている。
2001年9月現在、表II-1に示す26の問題がQATsによって取り上げられ、そのほとんどが完了している。主要な問題としては、バージ・曳船の事故による死亡者の低減、タンクバージの油積み替え時の油流出量削減、ダウンストリーム時の事故防止、リクリエーション用ボートとの衝突事故防止等がある。
表II-1 USCG・AWO QATsの検討問題
出典:USCG |
全米品質指針委員会(QSC) |
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Towing Vessel Crew Fatalities QAT |
完了 |
Tank Barge Transfer Spills QAT |
完了 |
Towing Vessel Boarding Program QAT |
完了 |
Major and Medium Tank Barge Spills QAT |
完了 |
Crew Alertness Dialogue Group |
進行中 |
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米国中部品質指針委員会 |
完了 |
Pollution Prevention Regulations Study |
完了 |
Inland Towing Vessel Guide to Federal Oil Transfer Prosedures |
完了 |
River Crisis Action Plan |
完了 |
Cooperative Towboat Examination Program |
完了 |
Aids to Navigation QAT―Upper Mississippi, Illinois, and Missouri Rivers |
完了 |
Aids to Navigation QAT―Ohio, Tennessee, Monongahela, Allegheny, Cumberland and Tombigbee Rivers |
完了 |
Barge Fleeting on the Mississippi River QAT |
完了 |
Recommended Practices for Bunker Barges |
完了 |
Regional Examination Center Consistency QAT |
完了 |
Barge Inspection Cosistency QAT |
完了 |
Downstreaming QAT |
完了 |
Industry Orientation Modules QAT |
完了 |
Gulf Intracoastal Waterway Aids to Navigation QAT |
完了 |
Streamlined Inspection Process QAT |
完了 |
  |
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大西洋地域品質指針委員会 |
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Hurricane Preparedness Plan QAT |
完了 |
Visibility Standards for Pilothouse Personnel QAT |
完了 |
Industry Training and Orientation Program QAT |
完了 |
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太平洋地域品質指針委員会 |
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Towing Industry Incident Reporting System QAT |
完了 |
Vessel Safety Alerts:Lesson Learned Information Exchange |
進行中 |
Crew Alertness and Work Hours QAT |
進行中 |
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その他のイニシアティブ |
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Regional Risk Assessment of Petroleum Transportation on the Waters of Northeast United States |
完了 |
バージ・曳船の事故による年間死亡者数は11人程度で、その70%は通常の業務中にあやまって舷外に落ちたものである。死亡者低減問題では「SAFE(Safety Alert for the Edge)Docks」プログラムが発足し、舷外落下防止指針(Fall Overboard Prevention Policy: FOPP)が作成された。このプログラム発足の原動力となったのは、QATsの舷外落下調査報告書であり、この報告書ではバージ・曳船産業の死亡事故の71%が舷外落下であるとしている。
自主検査とUSCG監査という組み合わせは、検査簡易化プログラム(Streamlined Inspection Program: SIP)として定着しつつあるが、産業界はSIPの実施内容や方法に疑問を持ち続けてきた。特に、タンクバージ・オペレーターにとって、SIPはフレキシビリティのある方法ではなかった。
そのような意味で、USCG・AWOの打ち出したQATsは、SIPより一歩進んだ自主検査とUSCG監査の新しいシステムであると言うことができる。
USCG・AWOパートナーシップ・イニシアティブとは別に、AWOは独自にキャリヤ責任プログラム(Responsible Carrier Program: RCP)を発足させた。RCPは、連邦規則以上に厳しい安全基準を具体化しようとするプログラムであり、AWOはこれに先立ち、安全と環境を守る戦略を示したビジョン「AWO2000」を出している。AWOはUSCGの協力を得て、8ヵ月にわたりRCPの原案を練り、原案をメンバーに配布し、フィードバックされた結果を折り込んだ最終案を作成した。この最終案は、1994年12月のAWOボードに提出され、承認された。
RCPの内容は管理(Management)、執行(Administration)、機材・検査・人的要因の3部から成り立っている。RCPでは連邦規則で要求される以上の設備も含め、設置や保守に関する要件が定められているほか、連邦規則では明示的な規定が限定されている乗員の資格・訓練及び配乗要件についても規定されている。また、プログラムに規定されている要件の実施を確実にするための社内体制の整備とプログラムへの適合について第三者機関による監督を受けることを求めており、ISMコード(国際安全管理コード)に似かよった部分もある。
1994年12月7日、ワシントンD.C.で行なわれたAWO50周年記念昼食会の席上、AWOはRCPプロジェクトの推進、1998年1月1日迄のRCPの完全履行を宣言し、それまでの3年間、AWOメンバーがRCPを自社内で具体化するためにあらゆる援助を惜しまないことを約束した。1995年4月、AWOメンバーがRCPに適合するための援助プログラムが発表された。援助プログラムは下記5つの項目から成り立ち、1998年1月のRCP完全履行に間に合わせるために、1996年中には全ての援助項目が実施されることを目標としていた。
◆ 1998年1月の完全履行を目標としたマイルストーンの提示。RCPを適用する上での大きなステップの識別とその期限の設定
◆ RCPの管理・執行の章で指示されている会社独自の安全環境方針の作成を助けるためのサンプル、作成手順等の提示
◆ RCPの人的要素の項に要求されている乗組員の訓練に対する資料を内外から集めてメンバーに提供
◆ メンバー間の情報交換と対話のための情報センターの設置
◆ 会社独自の方針作成をほとんど終了した会社に対し、完全な実施のためのチェックリストの提供
AWOでは、2週間に1回メンバー向けに発行するAWOレターの中にRCPニュース欄を設け、メンバーからの質問に答えるとともに、1995年末にRCPの現状分析、方向修正を主業務とする組織をAWO内に設立し、RCP達成の助けとした。
AWOのRCPに対する取り組み方はかなり徹底したものである。従来のAWOメンバーがRCPを充足するのは勿論のこと、新規入会メンバーもRCPの完全達成が入会の条件となっている。
1997年10月、AWOボードはRCPの第三者機関監査実施基準の大筋を承認した。これにより、新規メンバーは入会より2年以内に、従来のメンバーは2000年11月までに、RCPに適合していることを第三者機関の監査により証明しなければならなくなった。従って、AWOメンバーは今までのように船を動かして会費を払えばよいという訳にはいかなくなった。
AWOが産業界独自の安全環境基準を作る方向を打ち出したことにより、USCGはより重要な部分に努力を集中させることができるようになり、USCG・AWOパートナーシップはRCPにより真に意味あるものになったと言える。即ち、USCGが自らの判断で作った基準を強制する従来の手法よりは、柔軟性に富み安全で環境にも優しいオペレーションが可能になった。
USCG・AWOパートナーシップで検討されたものは、次々とRCPに取込まれて一本化され、連邦規則に取込まれるよりも早く実施されている。RCPに事故のヒューマン・ファクターを取込む問題では、AWOは直接USCGのPTP(Prevent Through People)プロジェクトに協力を依頼している。
RCPに合格するためには、陸上要員も乗組員も訓練を受けねばならない。RCPは200総トン以上の曳船に対する諸要件とUSCGの曳船検査プログラム(Cooperative Towing Vessel Examination Program)を充分取込んで作成してあり、訓練を受けた後はオペレーターが船を検査し、USCGの監査を受けることが規定されている。
ビジョンAWO2000はRCPのみでなく、安全統計プログラム、安全審査委員会の設置、1994年に発足した安全アドバイス・システムの見直し、等のその他のプロジェクトも発足させている。
安全統計プログラムも1994年に発足したが、AWO2000に盛り込まれた種々の基本方針のうち、下記2点に合致するよう見直された。
◆ 海上安全と環境保護の促進
◆ AWOが真に業界の中心的情報、統計の集積所及び宣伝者となる。(1994年に本プロジェクトが発足して以来、メンバーがAWOに油流出、事故等についてAWOに報告する件数は34%増となったが、さらに徹底することを目標とする。)
安全審査委員会は1995年に発足した委員会で、メンバー間の共通の安全問題を話し合う場であるが、初期に話し合われたのは下記3点であった。
◆ 作業場所の安全を監督し指揮する上での曳船操舵室乗組員の役割
◆ 成功する安全イニシアティブと推奨プログラム
◆ 乗組員の怪我を防ぐ手段の情報交換
安全アドバイス・システムは1994年、AWOの4つの地区委員会、すなわち内陸液体、内陸乾貨物、沿岸及び港内サービス委員会に、主要なオペレーション及び運航上の安全問題解決を促進させるために設けられたものである。各地区で選ばれた安全アドバイザーは、委員会の指示に従って特定された安全問題を追及する。本プロジェクトでは安全チェックリストの作成、合成繊維製曳索の検査・交換基準等が検討された。
2-3 USCGのバージ・曳船規則
USCGの内陸水運の安全と環境の基本が定められているのは33CFR SC(Subchapter) O ― 「汚染(Pollution)」、及び33CFR SC P ― 「港湾及び水路の安全(Ports and Waterways Safety)」である。Subchapter O及びSubchapter Pでは、バージと曳船には一般の船舶と同様の規定が課されている。また、Subchapter Pには地域特有の安全航行規則が細かく定められている。
Subchapter Oにおいて、内陸水運にとって特に重要な項目は33CFR 151「油、危険液体物質、ゴミ、都市・産業廃棄物及びバラスト水を運搬する船舶」、33CFR 157 10d「タンク船のダブルハル」中の(d)項「内陸及び短区間の閉囲された沿岸航路で運航される10,000dwt以下の米国籍油タンクバージ」である。バージ曳航の安全については、33CFR 163「バージの曳航」、33CFR 164.74-76「バージの曳索関連安全規則」等で定められている。
一般的な内陸航行規則は33CFR Subchapter E「内陸航行規則(Inland Navigation Rule: INR)」に細かく定められており、さらにUSCGから1972年の国際海上衝突予防規則(International Regulation for Prevention of Collision at Sea、1972: COLREG)との対比で詳細な解説書が出され、バージについても細かく規定されている。ただしINRは33CFR 88 「Pilot Rule」に記される事項以外は、COLREGとほとんど同じである。
バージ・曳船の設計詳細、乗組員の資格、ライセンス等は、全て46CFRで規定されている。46CFRの中で、内陸水運に特に重要な部分は46CFR Subchapter B「商船士官及び船員」、46CFR Subchapter C「非検査船」、46CFR Subchapter D「タンク船」、46CFR Subchapter N「危険貨物」の中の46CFR 151「危険液体物質をバルク輸送するバージ」である。上記各サブチャプターでは、各項目の始めに適用船舶がはっきりと示されており、バージ・曳船に対しても洩れなく適用されている。
付録に上記重要項目の概要が理解できるよう、必要部分のみを添付した。特に33CFR 157 10d及び46CFR 151 10「バージ船体構造要件」は、次節で述べるABS規則とのからみで全文を記載している。図II-1は46CFR Subchapter Dの要件に従って建造されたタンクバージの溢れ出し防止装置、呼吸弁、液面ゲージ、蒸気回収装置、危険表示サイン等を示す。
図II-1 タンクバージの法定装備品
出典: ERL Commercial Marine社
(拡大画面: 121 KB)
過去10年間、USCGは頻繁にバージ・曳船の安全環境に関する規則を新規公布、あるいは改正している。その中心は何といっても3-3節で述べるOPA90関連の規則であるが、旧来の規則も事故の度に見直されており、定められた手続に従ってCFRに集録されている。
2000年8月28日、USCGは曳船の消火に関する最終規則を出した。これは1996年1月19日に、曳船「Scandia」がタンクバージ「North Cape」をロードアイランド沖5マイルで曳航中に火災が発生し、動力が停止しタンクバージが浅瀬に乗り揚げ、約100万ガロンの油を流出するという大事故を受けたものである。連邦議会はTSACと相談し、1996年のUSCG承認法46USC 4102を改正し、消火の手段を全ての曳船に備え付けることを義務づけた。これを受けて、USCGは1999年10月19日に規則原案を出し、パブリック・コメントの手続きを実施した後、規則原案はそのまま規則として公布された。
本規則により、曳船に要求される消火の手段は下記の通りである。
◆ 一般アラーム(代替つき)
◆ 機関室火災探知システム
◆ 内部コミュニケーション・システム(2軸船は適用除外)
◆ 燃料タンクの燃料遮断弁
◆ 乗組員の訓練と月に一度の操練
この規則は、火災の早期発見と早期アラームを呼びかけたものであるが、消火ポンプ、消火ホース、消防員配置等については規定がないことから、初期消火については対象とされておらず、今後の検討と改正を待つことになっている。
曳船火災の多くは機関室からの出火であるが、機関室内に発電機がある場合は、非常発電機と消火ポンプが機関室外に置かれている場合を別として、発電機が使用不能となり、消火ポンプが使用できなくなる。また、大部分の曳船の機関室は外界に対して完全に区画されていないため、固定式ガス消火装置等は使用できない。今後USCGが消防設備の規定を導入する際には、USCGの意向と大投資を避けようとする業界の調整が問題となろう。
USCGは2000年9月1日、曳船、オフショア補給船(Offshore Supply Vessel: OSV)、交通船の見張り及び勤務時間に関する方針を示したレターを出した。(G-MOC Policy 4-00)
本レターは46USCおよびCFRの一部を解説したもので、船上の2人当直体制と12時間勤務体制、及びSTCWに基づく資格要件について述べている。
レターでは、乗組員が2人当直体制と12時間勤務体制違反と思われる事例を経験したら、直ちにUSCGに通報することを求めている。USCGに通報したからといって雇用者から報復を受けないことを保証しているが、実際の運用はかなり難しいと思われる。さらにレターは、オペレーターが乗組員に対して勤務前に十分な休養をとることの重要性を教育することも求めている。
USCGは、議会から水上事故に関連して関係者を召喚して調査する権限を与えられているが、実際に起こってしまった事故の場合はともかくとして、乗組員の申し出にのみ基づいて違反があったと認定することは難しい。従来は、違反があると認められた場合は船長の資格を停止していたが、12時間勤務体制の定義も明確ではない上に、会社の記録も残されていないのが実情であり、違反の度合いが極端な場合以外は処分できない性質を持っている。USCGの意図は会社を告発するよりも、資格のある乗組員の権利を守ることにあるようである。
このレターで、USCGは12時間勤務として算入されるべきものとして当直、メインテナンス、貨物の積み下ろし、事務事項等を挙げているが、当直時間を除いては時間の記録を残しにくい。また、このレターでは訓練を徹底すべきことも通知している。
2000年11月2日、USCGは事故届出義務についてのNPRMを出した。このNPRMは、従来からある海難事故の届出及び事故調査に関する諸規則や、MARPOL 73/78に従って届出の義務を定めている船舶からの汚染防止法(Act to Prevent Pollution from Ships: APPS)に基づく届出の義務を具体化している33CFR 151についての解釈をまとめて規定したものである。
OPA90以前は、USCGは一定の条件が整わなければ事故調査権は与えられていなかった。その条件とは、衝突その他の事故で死亡者あるいは重傷者が出、財産が損なわれ、船舶の耐航性や健全性が損なわれる物的損害がある場合を指している。もちろん外国船に対しては、これの適用もなかった。
OPA90はUSCGの持つ事故調査権の対象リストに「環境に対する重大な損害(Significant Harm to the Environment)」を加え、米国の排他的経済水域(Exclusive Economic Zone: EEZ)内に入る全ての外国船にも適用されることとなった。上記NPRMでは、この「環境に対する重大な損害」を、米国領海、EEZ内での水質浄化法(Clean Water Act: CWA)違反となる排出、と定義している。
2000年11月20日、USCGは30年前に公布された非検査曳船の船長の資格要件を大幅に変更する規則を公布した。この改正規則は1993年の「Mauvilla」号の事故の後、USCGとAWOが協力して作ったものである。新しい船長資格は、非検査曳船船長ライセンス(Operator, Unispected Towing Vessel: OUTV)と第2級OUTVライセンスに適用されるもので、3段階のステップを経て資格が所得される。
◆ 筆記試験及び18ヵ月の実務の後、見習航海士又は操舵員となる。
◆ 見習航海士又は操舵員のライセンスにより、船長又はパイロットの直接指揮下で操舵室の当直業務が可能となる。
◆ 上記で12ヵ月間勤務し、承認された訓練コースを受けるか、曳船オフィサーの評価記録を提出して、航海士又はパイロットの資格が得られる。航海士又はパイロットは、18ヵ月勤務後、船長の資格が得られる。現在OUTVライセンスを保持している者で、既に48ヵ月の実務経験のある者は、直ちに船長の資格が得られる。
2-4 一体型タグ・バージに関するUSCGの検査通達
2-3節で概説したUSCGの規則に加えて、USCGは一体型タグ・バージ(Integrated Tug Barge: ITB)に関する検査通達を出している。USCGの検査通達は、Navigation and Vessel Inspection Circular(NVIC)と呼ばれ、ITBに関する通達はNVIC 2-81(1981年に出された2番目のNVIC)である。NVIC自身は規則ではなく、CFR等の規則を補完する解釈や検査の際の判断基準を示すものであり、造船所や船主にとっては遵守すべき事項の一つとなっている。NVIC 2-81は1981年2月15日に発出後、1982年に改正され現在に至っている。以下にNVIC 2-81の概要を記載する。
○適用範囲と定義
NVIC 2-81はITBに対してのみ適用され、基本的には従来型のタグやバージには適用されない。
従来型のタグ・バージ連結方法として、NVIC 2-81では伝統的連結法(Conventional Tug Barge Connection: CTBC)と曳索曳航(Hawser Towing)の2種類を挙げている。CTBCはタグ船首をバージ船尾の切り欠き部へ入れ、フェンダーを介して索、鋼索、鎖等によって固着する連結方法である。曳索曳航は字義通りであるが、この場合、タグは曳航復原性基準(Weather, Dynamic and Towline Pull Stability Criteria)を満足しなければならない。
これに対し、ITBはタグ船首部とバージ船尾切り欠き部が相互につがいとなる設計で連結されるもの又はインターコン等の特殊な連結システムにより連結されるものであって、タグとバージが一体となって押航により運航されるもの、と定義されている。NVIC 2-81では、ITBの連結方法についてもその特性から2種類を定義している。
一つは運航中にタグとバージを切り離さないことを前提にしたシステムであり「押航モードITB(Pushing Mode ITB: PMITB)」と呼ばれる。PMITBの場合、タグは予め定められたバージ以外のバージと運航することはできない。他方は一定の海象条件を超えた場合にタグとバージを切り離して曳索曳航に移行することを条件としたシステムであり「両用モードITB(Dual Mode ITB: DMITB)」と称される。
当然ながら、NVIC 2-81はPMITB及びDMITBのみに適用される。
○連結システムの要件
PMITBの連結は、従来型連結法(CTBC)又は運航中切り離せないことを前提に設計された関節連結システム(Articular Connection System)とされ、悪天候においてもタグとバージの間で過度の相対運動を生じないもの、とされている。
一方、DMITBの連結は、関節連結システムに限定され、通常5分以内に安全に切り離すことができること及びタグとバージの相対運動についてPMITB連結の場合より大きな相対運動を許容できるもの、とされておりPMITBの連結システムよりも高度なシステムが要求されている。タグとバージを切り離すべき海象条件については、設計者が個々のITB毎に直接計算により設定し、USCG船舶検査官事務所(Office in Charge Marine Inspection: OCMI)の承認を受けなければならない。
なお、近年米国で一体型タグ・バージといった場合、一般に「ATB」と総称される場合が多いが、ATBはArticular Tug Barge、即ち関節連結式タグ・バージであり、厳密にはATBはITBの形態の一つに過ぎない。ただし、近年米国で建造されるITBのほとんどは関節連結式タグ・バージであり、ATBの方が一般に使われる程に定着した呼称となっている。
○安全基準の基本原則
PMITBの場合、原則的にタグとバージは一体の船舶として取り扱われ、安全基準についてもタグとバージを一体とした場合、これと同等の大きさを有する自航船に適用される安全基準が課せられる。ただし、PMITBのタグには曳航復原性基準が適用されず、またタグやバージには曳航装置及び非曳航装置を設置する必要はない。
DMITBの場合、原則的にタグとバージは各々独立した別個の船舶として取り扱われ、安全基準についてもタグとバージの別に適用のある安全基準が課せられる。ただし、DMITBのタグは曳航復原性基準に適合しなければならず、また、当然ながらタグやバージには曳航装置又は非曳航装置を設置しなければならない。
○審査、検査及び認証
OCMIのUSCG船舶検査官は、まず申請されたタグとバージの組み合わせがPMITB又はDMITBのいずれかに該当するかを確認する。
PMITBと認定された場合、タグとバージを一体とした場合に同等の大きさを有する自航船に適用される検査及び認証の手続きに従って処理される。通常、PMITBはタグとバージを一体とすると1,000GTを超えるので、基本的に全PMITBが検査対象となる。
DMITBと認定された場合、タグとバージには別個に検査と認証の手続きが適用される。DMITBとして認証(証明書の交付を受けること)されるためには、タグとバージの双方が検査対象船(Inspected)でなければならない。タグは300GT以上が検査対象であり、バージは種類により検査対象の範囲が異なる。バージが検査非対象(Uninspected)に分類される場合は、連結方式にかかわらず、当該タグとバージの組み合わせはCTBCタグ・バージと見なされる(タグが300GT以上であればタグのみ検査対象)。
DMITBの場合、連結システムはバージの一部として見なされ、タグに設置された部分を含めて検査を受ける。OCMIは、タグ上の部分の機構が複雑で損傷や劣化の可能性がある場合は、バージに対する初回認証時に「第2回以降のバージ検査の際、タグ側部分を含めて検査する」ことを指定することができる。ただし、タグとバージの運用上、タグ側部分をバージ検査時に検査することが不合理な場合は、船主がタグ側部分の稼働状況が良好であることを証する書面を提出することにより、タグ側部分の検査を免除されることがある。
バージがDMITBを構成するバージであると認証された場合、バージ認証状には当該バージと組み合わせてDMITBとして機能するタグが指定される。指定以外のタグを組み合わせて使用する場合、DMITB認証の対象となった連結システムを使用してはならない。
○連結システム
PMITBの場合は、悪天候下でもタグとバージの間で過度の相対運動を生じさせることなく連結を維持できるシステムでなければならない。PMITBでは運航中にタグとバージを切り離さないことが条件であるため、切り離し実地試験は要求されない。ただし、最悪の条件下で乗組員が連結を開放できるための手順を指定しなければならない。
DMITBの場合、設計者が指定した海象で、容易に連結及び開放できなければならず、海象毎に連結及び開放の手順を乗組員に周知しなければならない。DMITBの連結システムは、切り離し実地試験が要求される。実地試験は、[1]任意の海象下での実地試験を必ず実施、[2]設計者が指定する海象で安全に切り離せることを証する十分なデータ、[3]データが十分でないと認められる場合は設計者が指定する海象での実地試験、の手順による。また、上記の通り連結システムは爾後の検査の際、検査対象となる。さらに、OCMIは連結システムが正常に作動することを確認するため、出航前に港内において切り離しテストを要求することがある。
PMITBであってもDMITBであっても、予定航路の海象条件に基づき、直接計算により連結時のタグ、バージ及び連結システムに加えられる荷重及びモーメントを詳細に算定し、提出しなければならない。連結システムが複雑になるに応じて、解析の方法及び程度について精密性が要求される。
解析については、特段定められた解析方法はないが、[1]タグ・バージ系を解析モデルとし振幅応答関数を設定、[2]設定した振幅応答関数を水槽試験で検証し解析モデルについてUSCGが承認、[3]承認されたモデルに基づき予定航路の海象を対象に運動を解析し荷重及びモーメントを算出、の手順が推奨されている。また、解析実績のある連結システムを大きさの異なるタグとバージの組み合わせに使用する場合、大きさが元来の設計と大幅に相違しない限り、元来設計の解析による代替が認められることがある。(NVIC 2-81発効以前に既に運航実績のある連結システムについては、実績が良好であることを証する記録の提出により、解析の全部又は一部が免除されることがある。)
○船体構造
PMITBであって伝統的連結法(CTBC)等、関節連結式以外の連結による場合は、タグとバージを一体とした場合に同等の自航船に適用されるABS鋼船規則に適合しなければならない。
関節連結式PMITBの場合は、バージの船体縦強度がABSのオフショア・バージ規則を満足しなければならない。また、縦強度の計算には、解析又は水槽試験から求めたタグがバージに及ぼす荷重及びモーメントを参入しなければならない。この場合、タグとバージを一体とした場合に同等の自航船に適用されるABS鋼船規則を適用する必要はない。(関節連結式であるので、タグとバージの間で構造連続性はない。)
DMITBについては、全て関節連結式であるので関節連結式PMITBと同様である。
なお、PMITBもDMITBもITBとして成立するためには、タグ、バージ双方の連結部の局部強度が十分であることが条件となる。連結部の局部構造に発生する応力は、タグとバージの相互作用、連結システムの自重、その他の荷重及びモーメントを考慮した上で、ABS規則に定められた値以下としなければならない。
○復原性
PMITBについては、タグとバージを切り離した状態でも連結した状態でも、それぞれに適用のある規則(切り離した状態ではタグとバージのそれぞれに適用のある規則)で定められた損傷時及び非損傷時の復原性を満足しなければならない。
DMITBについては、タグとバージを切り離した状態で、タグとバージのそれぞれに適用のある規則で定められた損傷時及び非損傷時の復原性を満足しなければならない。
○防火構造及び消防設備
PMITBの場合は、タグとバージを一体と見なし、一体とした場合に同等の自航船に適用される防火構造及び消防設備規則を適用する。
DMITBの場合は、タグとバージを別個の船舶と見なし、タグとバージそれぞれに適用のある防火構造及び消防設備規則を適用する。
○ローディング・マニュアル
PMITBの場合、設計者は全てPMITBについてローディング・マニュアルを作成し、乗組員に供与しなければならない。ローディング・マニュアルは喫水線指定官庁が承認する書式に基づき、貨物及びバラストにより、バージ船体に規則で定められた以上の応力が発生することを防止するものであり、特に荷役時やバラスト作業時の応力変動には注意を払わなければならない。
DMITBの場合、設計者は規則で供与が義務付けられている場合に限り、乗組員にローディング・マニュアルを供与しなければならない。DMITBでは、バージの大きさ及び航路により、ローディング・マニュアル供与の要否が決まるので注意が必要である。
○喫水線表示
PMITBの場合、タグは単独船として算定された乾舷により決定された喫水線を表示する。バージは単独船として算定された乾舷と非損傷時及び損傷時(適用可能な場合に限る)復原性規則から決定された乾舷の内、大なる乾舷により決定された喫水線を表示する。PMITBとして運航中は、バージの喫水線を水没させてはならないが、タグの喫水線が水面下にあることは許容される場合がある。ただし、いかなる場合もタグの乾舷甲板は完全に水面上になければならない。なお、PMITBの場合、乾舷を減少させるための「無人バージ条項」(46 CFR 42.20-10(h))を適用してはならない。
DMITBの場合、タグとバージは各々単独船として算出された乾舷により決定された喫水線を表示する。また、DMITBについては乾舷減少を目的に「無人バージ条項」を適用しても良い。
○救命設備
PMITBの場合は、タグとバージを一体と見なし、一体とした場合に同等の自航船に適用される救命設備規則による救命設備の型式、数量及び配置としなければならない。
DMITBの場合は、タグとバージを別個の船舶と見なし、タグとバージそれぞれに適用のある救命設備規則による救命設備の型式、数量及び配置としなければならない。
○PMITBの配乗基準
オフショア、沿岸及び五大湖を航行するPMITBについては、表II-2を標準とするが、就航後OCMIが定める期間運航した後、OCMIが当該PMITBの特性を考慮した上で、最終的な配乗基準を決定する。適用される法規は、46 USC Chapter 37の8101節、8104節、8301節、8303節、8304節、8701節、8702節等である。
表II-2 PMITBの配乗基準
適用: 1,000GT以上のPMITB(検査区分: 検査対象(Inspected))のみ
資格要件 |
配乗基準 |
資格要件 |
配乗基準 |
資格要件 |
配乗基準 |
船長 |
1 |
  |
  |
  |
  |
航海長 |
1 |
機関長 |
1 |
  |
  |
二等航海士 |
1 |
一等機関士 |
1 |
通信士 |
1 |
三等航海士 |
1 |
一等機関士又は二等機関士 |
1 |
  |
  |
先任部員* |
6 |
合計 14人以上 |
*)「先任部員」とは熟練した部員を意味する。
PMITBの先任部員の数は、いかなる場合も法規で要求される見張り要件を満足するものでなければならない。ただし、先任部員6名のうち2名を見張りの特別訓練を受けた一般部員に替えても良い。また、五大湖のみを航行する場合は、4名の甲板部職員は、船長の資格を有する1級パイロット1名と3人の1級パイロットとし、指定された水路を航行する場合は、カナダ又は米国に登録された特別パイロットを乗船させなければならない。なお、タグとバージを一体とした場合の総トン数が1,000GT以上の場合は、いかなる場合も船長を除き3名以上の職員を乗船させなければならない。
FCC(Federal Communication Commission: 連邦通信委員会)が承認したGMDSSを設備するPMITBは通信士の配乗を要しない。ただし、乗組員のうち少なくとも2名がGMDSS一般オペレーターの資格を有していなければならず、船長はこの中から1名を遭難通信担当者に指名する。GMDSSの海上保守要件を自主的に選択する場合は、乗組員のうち少なくとも1名は海上保守訓練を受けなければならない。
上表の配乗基準は全般に高度化されたPMITBを対象にしているが、さらに自動化を進めたPMITBについては、上表からの減員が考慮される。PMITBの居住設備は、上表配乗基準による14名分に加え、少なくとも3名の操機部員、必要な場合は自動化システムの保守要員として所要の人員、さらに46 USC 3702が適用されるタンクバージの場合は少なくとも3名のタンカー・マンが居住できるものでなければならない。
○DMITBの配乗基準
オフショア及び沿岸を航行するDMITBの配乗基準は、タグの総トン数及び検査区分によって決定される。表II-3は標準的な配乗数であり、実際の配乗数は適用法規により大きく異なる。300GT以上の検査対象タグに適用される法規は46 USC 8101節、8104節及び8301節である。(航路及び大きさにより8304節、8701節及び8702節の場合もある。)なお、8301節で要求される甲板部職員の数は、8104節に規定される見張り条項を満足しなければならない。さらに、航路が600海里以上の場合は船長にも見張り義務が付加される。
表 II-3 オフショア及び沿岸を航行するDMITBの標準的な配乗数
タグの大きさ・区分 |
配乗数 |
内 訳 |
1,000GT以上(検査対象) |
14 |
PMITBと同じ。GMDSSに関する規定も適用される。 |
300GT以上1,000GT未満(検査対象) |
7〜10以上 |
船長:1、免状所有甲板部職員:2、先任部員:4、一般部員:2(ただし、部員は航路により、先任部員:3、一般部員:1としても可)、機関長:1、免状所有機関部職員:X |
200GT以上300GT未満(検査非対象) |
2以上 |
船長:1、免状所有甲板部職員:X、機関長:1、免状所有機関部職員:X |
200GT未満(検査非対象) |
2 |
非検査曳船乗組員:2 |
X: 配乗させることが望ましい。(法令で要求されることがある。)
五大湖のDMITBは大きさにかかわらず全て検査非対象であり、従って200GT未満のオフショア及び沿岸航行DMITBの例を標準とする。
2-5 ABS河川・沿岸内水路鋼船規則
1992年米国船級協会(American Bureau of Shipping: ABS)は1980年の河川・沿岸内水路鋼船規則(Steel Vessels for Service on River and Intracoastal Waterways)の見直しを開始し、1995年5月15日に改正版を出した。その後、規則自体は毎年見直されている。
1995年の大改正のポイントは2つある。
◆ OPA90に基づくタンク船のダブルハル化要求に対する変更(Part3-Section3)
◆ 河川旅客船の増大に対する変更(3/7構造・復原性・救命装置・防火構造、4/3操舵システム、44電気装置、4/5ビルジ・システム、4/7消火・防火要求)
上記2点の他、タンカー及びタンクバージのイナートガス・システム、貨物油蒸気圧制御システム、操舵関連油圧システム、バージに対するビルジ・システム等が追加されている。
表II-4はABS規則の目次である。全体的に4つの章に分かれているが、本規則は、長さが深さの30倍以内で幅が深さの6倍以内のタンクバージ、乾貨物バージ、危険物を運搬するバージ・曳船、旅客船を対象に規定されたものであり、対象外の作業船等については特殊承認となる。
以下各章ごとに安全環境の見地からポイントを解説する。
*3/3 タンクバージ
◆ 3/3.4 ダブルハル構造 ― USCGのOPA90構造要件に適合する事。10,000dwt以下の米国籍油タンクバージは、33CFR 157.10d(d)のダブルハル寸法及びクリアランスに従うこと
● 二重底深さ ― 610mm以上(船底外板に大使直角に計って)
● ウイングタンク幅 ― 610mm以上(船側外板に対して直角に計って)
● 二重底とウイングタンクの変移部深さ ― 460mm以上(船の全長にわたり)
◆ 3/3.13.1 区画配置 ― 貨油の積載及び揚貨時の復原性、安全な縦強度、乗員区画・機械区画・一般貨物区画間のコファダム(揮発・燃焼性液体を輸送する場合)等を考慮して縦横隔壁の配置しなければならない。
◆ 3/3.13.1.c ポンプ室 ― 揮発・燃焼性液体(引火点61℃以下)のポンプ室はガス密の隔壁で閉囲されなければならない。
◆ 3/3.19 バージの補強 ― バージが岩礁、川底その他浮遊物と接触した場合の安全を確保するため、バージ補強の特殊規定がある。本規定では、オプションで「補強A」、「補強B」の2段階レベルがあり、それぞれの船級資格が与えられる。
*3/4 乾貨物バージ
◆ 3/4.5.5 車輌積載強度甲板 ― 船体縦強度甲板にゴムタイヤ車輌を搭載する場合は、その板厚は3.4.17.1bで定める車輌積載内底板に対する板厚の110%とする。
◆ 3.4.1g バージの補強 ― 上記3.3.19と同じ規定が乾貨物バージにも適用される。外部の補強外板の板厚もタンクバージとほぼ同等である。
◆ デッキバージ、ホッパーバージ、ダブルハル・ホッパーバージ、甲板室付きダブルハル・ホッパーバージについて構造の詳細が示されている。
*3/5 液体化学物質をばら積みするバージ
◆ 3/5.3 46CFR 151の定義に従って、バージのタイプを液体貨物の危険度によりタイプI、II、IIIに分類している。タイプIは漏れを防ぐための最大の考慮を設計に反映させたタイプであり、II、IIIでは順次考慮の度合いが弱められている。(国際バルク・ケミカル・コードと同様)
◆ 3/5.7.2 液体タンクの位置(衝突時の漏洩防止)
船首より7.6m(タイプI、II)
船側より1.22m(タイプI)
0.91m(タイプII)
◆ 3/5.7.3 過積載及び座礁時の船体縦強度計算書要求。つまり通常の座礁では折損しない船体一次強度を要求
*3/6 曳船
◆ 各部構造寸法を詳細に規定
*4/1 機械及び据え付け
◆ 4/1.15.1 タンクバージ ― 露天甲板に内燃機関を据え付ける場合は、金属製のフードあるいは甲板室で閉囲し完全なベンチレーション機能を備えること。液体貨物の引火点が60℃以下の場合は、甲板下にコファダムを設けなければならない。
◆ 4/1.15.2 タンクバージのエンジン排気 ― 液体貨物の引火点が60℃以下の場合は、排気ダクトは防熱するか水冷とし、スパークアレスターを装備の上可燃ガスから最低3mの距離に配置する。
*4/3 操舵機
◆ 4/3.1.10a 曳船及びタグ ― 片舷35度から反対舷30度へ20秒以内に転舵できること
*4/4 電気装置
◆ 44 A 3.1 旅客船以外の非常電源 ― 最低3時間の照明を保持する非常電源を確保する。電源は自動接続あるいは手動接続バッテリー、自動あるいは手動発電機、リレーコントロール・バッテリー・ランターン(電源内蔵型非常照明装置)の3種のうちの何れかとする。
*4/5 ポンプ及びパイピングシステム
◆ 4/5.1.1 パイピンググループ ― 作動圧力及び温度によりパイピングをグループI、IIに分け詳細に規定。
◆ 4/5.9.1 無人バージのビルジシステム ― 甲板下に機械室がある場合、あるいはパイプシステムがボイド中に導設されている場合には、これらの区画からビルジを吸引する装備を施さなければならない。この装備は、固定ビルジ・パイプと手動ポンプの組み合わせ、あるいは常設のポータブルポンプによる。
◆ 4/5.9.2 有人バージ ― 36人以上の居住設備を有するバージは、固定動力ビルジシステムを装備する。能力毎時11.4m3以上の動力ポンプを少なくとも2基備えること。
*4/6 危険化学液体物質のトランスファーシステム
◆ 4/6.3.1 タイプIバージの液体貨物パイピング ― 46CFR 151.5の表に示される以外は全てグループIパイピングとする。
◆ 4/6.3.2 タイプII及びIIIバージの液体貨物パイピング ― 4/5.1.1に示す温度及び圧力により、グループIあるいはグループIIパイピングとする。
◆ 4/6.15.2 ポンプ ― 液体貨物に適した材質で作られた垂直サブマージ型とする。
◆ 4/6.15.4 ポンプ駆動 ― ポンプの駆動源は甲板上に配置しフードで覆うこと。
*4/7 消火システム及び機器
◆ 4/7.9 消火ポンプ ― 全ての自航船は消火ポンプを装備すること。長さ20m以上の船は動力ポンプとする。20m以下の船は手動でも良い。
◆ 4/7.17 ポータブル消火器 ― 全ての自航船及び乗員36人以上の全てのバージは4/7.1及び4/7.2に示す場所及び数のポータブル消火器を備えなければならない。
◆ 4/7.21 機関室の固定消火システム ― 下記の機器を備える区画には全て認可された固定消火システムを備えなければならない。
a. 油炊きボイラー、ヒーターあるいは燃焼機
b. 油炊きボイラー(含燃焼機及びイナートガス発生機)、内燃機関あるいは26気圧以上の圧力のガスタービンに燃料を送る燃料ユニット
c. 500GT以上の船で出力合計375KW以上の内燃機関
◆ 4/7.23.3 ケミカルバージの消火 ― 46CFR 151の要件に従って消火設備を装備しなければならない。 46CFRの表151.05で、消火設備が要求される個所にはABSの本規則の表4/7.1及び4/7.2を満たすポータブル消火器を備えること。
第II-4表 ABS河川・沿岸水路鋼船規則目次
Part 1 Classification, Testing and Surveys |
Section 1 |
Scope and Conditions of Classification |
Section 2 |
Testing and Traial During Construction - Hull |
Section 3 |
Surveys After Construction |
  |
  |
Part 2 Materials and Welding |
Section 1 |
Materials for Hull Construction |
Section 2 |
Materials for Machinery |
Section 3 |
Welding and Fabrication |
  |
  |
Part 3 Hull Construction and Equipment |
Section 1 |
Definitions |
Section 2 |
General |
Section 3 |
Tank Barges |
Section 4 |
Dry Cargo Barges |
Section 5 |
Barges Intended to Carry Dangerous Chemical Cargoes in Bulk |
Section 6 |
Towboats |
Section 7 |
Passenger Vessels |
Section 8 |
Weld Desgin |
  |
  |
Part 4 Machiery Equipment and Systems |
Section 1 |
Machinery Equipment and Installation |
Section 2 |
Propellers and Propulsion Shafting |
Section 3 |
Steering Gears |
Section 4 |
Electrical Equipment |
Section 5 |
Pumps and Piping Systems |
Section 6 |
Cargo Transfer Systems for Dangerous Chemical Cargoes |
Section 7 |
Fire Extinguishing Systems and Equipment |