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7. おわりに
 以上、本報告書において、米国舶用企業のうち現在躍進を続けている5社を選び経理的、技術的な面から分析を進めてきたが、業績を向上させた要因については、表現は異なっていても意外と共通点が多い。各社に共通しているのは明確且つ客観的な経営方針の存在であり、各社とも得意分野において業界1−2位のシェアを守り、また、そのような分野の創出に努め、その事業の周辺で徹底的に利益を確保している。逆にそうでない事業からは潔く撤退して経営資源の有効活用を図っている。また、製造業でありながら、その製造業に関連したソフト関連事業を進めて収益の拡大を図っている。
 経理の公表されていないCINTIを除き他の4社とも共利益率が高い。2000年度の数字では、Catの総収入$20.175bilに対し利益$1.653bilで5.2%、GEの総収入$129.853bilに対し利益$12.735bilの9.8%、GEキャピタルサービスを除いた分では総収入$63.788bilに対し利益$582bilの21%と驚異的である。BIも総収入$13.6bilに対し、利益$718.8milの5.3%とCatと同水準であり決して悪くない。Littonの場合は、総収入$5.59bilに対し利益$218milの3.9%とこの4社のなかでは一番低いが、付録5に示す各部門別の利益率では先進エレクトロニクス4.5%、情報システム6.1%、船舶システム14.1%、電子部品・材料16%と高い利益率である。
 
 上記の数字から、米国の企業が如何に高い利益率を目標に掲げて事業活動を続けているかが分かる。会社を発展させて拡張することと実際にそこから利益を得ることは別物の様に思われる。しかし、本報告書に紹介した5社は、その両方をうまく調和させて実行している。日本の場合、利益率が5%に達する製造業はまれで1−2%もあれば上々であるが、これでは新規投資を行うための内部留保が蓄積できない。更に5社に大なり小なり共通しているのは市場占有率1−2位のものしか手を出さないという基本方針であるが、だからといって市場占有率を高めるための過当競争という様な現象は何処にも現れていない。過当競争社会では絶対に高利益率の達成はあり得ない。
 
 更に5社に共通しているのは、高利益率、高占有率達成の手段として独自の企業ビジョンを早い時期に作成し、その達成に邁進する姿であり、企業買収・分離・売却を巧みに進める姿である。何れの会社も、顧客なり市場の変化をいち早くキャッチ出来る敏感な感性を持った人をトップに持っている。GEのJack Welchについては本文中でも多く述べたが、彼が1990年代を迎えるに当たり社内に示した戦略ビジョンをもう一度整理してみる。
 彼は戦略、組織構成、人材管理の各分野でのビジョンを示し、そのすべてを実行している。戦略ビジョンとしては、まずGEの事業は全て市場で1−2位のシェアを得られるものに限定し、同時に残した事業は高度成長事業を目指し、更に事業相互間の相乗効果/統合的多様性の達成を指示している。GE Marineのみならず他の部門でも、このビジョンを受けて単に製品販売するに留まらず、機器周辺のサービスを全て取込んで収益に結び付けている。またリストラ戦略ビジョンとして無限界、スピード、ストレッチ、単純化を示したことは本文中で述べた通りである。
 
 組織構成ビジョンでは、最高経営責任者を中核とする先導チームに報告する13の事業群編成、最善の方法の共有化、境界のない組織を実現するよう求めている。これにより社内の階層的組織は排除され、権限はより下位レベルに委譲されて多くの機能横断的チームワーク集団が誕生した。社員の一人一人が共通のビジョンの下、自分の頭で考えるよう仕向けている。
 人材管理ビジョンでは、事業に応じた柔軟性に富む給与・報酬制度、人材開発・訓練の継続、上位者と下位者による評価、組織境界を生ぜぬ人材活用制度、価値に基ずく社員の選別等をあげている。
 
 米国人はビジョンを作るのが好きである。上記GEの90年代ビジョンの多くは、他企業のビジョンと共通している。しかし、売上目標ビジョンを示している会社はあまり多くはなく、GEのビジョンにも売上目標は出てこない。これは売上目標は目標であって、具体的且つ根拠のある手段が存在しなければ、ビジョンとはいえないからである。本報告書の5社でも売上目標が出て来るのはCatのみであり、大体の会社が売上目標を前面に押し出す日本の企業との文化の違いを感じさせられる。
 
 本報告書を終るにあたり、触れておかなければならないのは、Northrop Grummanによる、Litton Industriesの買収である。前述の如くNorthropは、2000年12月21日Littonを$5.1bilで買収し、2001年の総収入$15bil、2003年の予想総収入が$18bilという巨大軍需会社となった。Litton買収前のNorthropの年間総収入は7.6bil、従業員は39,000人で、電子戦システム、航空管制システム、情報技術、軍用爆撃機及び戦闘機等を作っていた。NorthropはLitton以上に軍需色が強く、会社の伸びは軍事予算に制約されるので、過去3年間の総売上は殆ど変化していない。Northropは、1999年国防総省からの受注額で全米5位にランクされている。合併後Littonは当分の間、従来通りの独立会社として運営される。Littonの会長兼CEOであったMichael R. Brownは退任し、Littonの社長兼COOであったDr. Ronald D. SugarがNorthropの副社長となり、Litton部門をひき続き統括していくことになる。
 
 合併後のNorthropは、従業員80,000人、2001年の総収入$15bilで、本社をロサンゼルスに置き、全米の44州、世界25ヶ国にオペレーションを持っている。NorthropはLittonの製品群もそのまま製造を続けるので、世界最先端の武器システム、戦闘マネージメント、監視システム、精密攻撃システム、情報戦システム、艦艇、航空機等幅広い軍用機器の世界最大のサプライヤーとなった。
 
 更に2001年11月8日、Northropは米国最大の造船所Newport Newsを買収し、世間を驚かせた。買収価格は$2.6bilである。合併前のNewport Newsは年間$2bilの売上、従業員17,800人の原子力空母、原子力潜水艦の建造造船所として知られていた。NorthropのNewport News買収により、造船部門としてIngalls、Avondale、及びNewport Newsを持ち軍用航空機、各種武器システムを製造する文字通りの巨大軍需会社が出現することとなった。Northropでは、Newport Newsも当分の間従来通りの独立企業体として扱うが将来はIngalls、Avondaleと共に一つの船舶システムグループを形成する予定であると言っている。
 
 Northropの巨大化は、舶用機器産業にも少なからぬ影響を与えるものと思われる。1994年ウエスチングハウスの一般舶用機器事業部がNorthropに買収されたことは3-3節で述べたが、その時ウエスチングハウスがロールスロイスと組んで開発中であった次世代IRCガスタービンWR-21の技術もそっくりNorthropに委譲された。このエンジンの開発は、少なくともウエスチングハウスの時代はうまくいかなかったが、1999年12月NorthropはWR-21エンジンの開発が最終段階にあり、市場に出す前の最終テストを実施中であると発表した。この最終テストはフィラデルフィアの海軍のテスト施設で行われた。
 
 このエンジンは、ガス発生機とパーワータービンの開発をロールスロイスが、また中間冷却復熱装置(IRC)部分の開発をAllied SignalつまりHoneywellが担当している。WR-21エンジンは、従来のガスタービンより25%燃費性能が良いことが売り物であり、このエンジンがマーケットに出るとGEのLMシリーズの強敵となる他、開発者としてロールスロイスが入っているのでヨーロッパの海軍にも売りやすい背景を持っている。またWR-21エンジンは排出ガスの温度が低く、赤外線で探知されにくい特性を持っており音も従来のエンジンより70%低いと言われている。WR-21エンジンの開発の初期に問題となった容積データが公表されていないので、どこ迄艦艇用として受容されるかは現在のところ不明であるが、少なくともクルーズ船等には採用されやすい状況にあるのでGEにとっては今後脅威となることは間違いない。
 
 いずれにせよNorthropのNewport News買収により米国の造船業及び舶用機器工業の大型合併は一段落を終えたと考えられるが、今後とも合併効果がどのように推移していくかのウオッチが必要と思われる。
参考資料
1. 造船業を中心とした米国軍民転換政策の動向に関する調査報告書
 1994年8月 シップ・アンド・オーシャン財団
2. CALSでめざす米国製造業躍進のシナリオ
 根津 和男 工業調査会
3. Japan as anything but No.1(これでも日本はNo.1か?)
 Jon Wornoff
4. Electronic Greyhounds(The Spruance-Class Destroyers)
 Capt. Michael C. Potter Naval Institute Press
5. 「Jack Who?」
 雑誌Time Sept. 10, '01(GE関連)
6. 各社年次報告書
 2000年及び1994年 cat及びGE
 2000年のみ BI及びLitton
7. 各社舶用製品カタログ及び内部資料(全般多数)
8. 「Gear much Propulsion」
 雑誌Speed at Sea Feb. '01(CINTI関連)
9. Boating Industry International
 E-News Daily Dec.22.00-Feb.27.01 (OMC破産関連)
10. 米国造船所(メキシコ湾岸地域)調査報告書
 1995年6月 シップ・アンド・オーシャン財団 (Litton関連)
11. NorthropのLitton/Newport News
 買収ニュース・リリース インターネット資料
12. 雑誌Maritime Reporter and Engineering News
 Feb.95., Sept.99, May.01等全般多数
13. 雑誌Marine Log
 Sept.96, Apr.99, Nov.00等全般多数
14. 雑誌Marine Business Journal
 Jul.98, Apr.01, Jun.01等全般多数
15. プレジャーボート・イン・USA
 田村 義正 舵社
 
Caterpillar Inc.
100 N.E. Adams St., Peoria, IL 61629
TEL: (309)675-1000
Chairman & CEO: Glen A. Barton
 
GE(GE Aircraft Engines)
Nuemann Way, Cincinnati, OH 45215
TEL: (513)243-2000
President and CEO of GE Aircraft Engines: David L. Calhoun
 
The Cincinnati Gear Company
5657 Wooster Pike, Cincinnati, OH 45227
TEL: (513)271-7700
chairman: Walter Rye
 
Bombardier Inc.
800 Rene-Levesque Blvd. West, Montreal, Quebec, Canada H3B 1Y8
TEL: (514)861-9481
Chairman: Laurent Beaudoin
 
Northrop Grumman Corp. (Electronic Systems sector)
1580-A West Nursery Rd., Linthicum, MD 21090
TEL: (410)993-2463
Chairman & CEO: Kent Kresa








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