刊行によせて
当財団では、我が国の造船関係事業の振興に資するために、日本財団から競艇公益資金による助成を受けて、「造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業」を実施しております。その一環としてジェトロ船舶関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種調査報告書を作成しております。
本書は(社)日本舶用工業会及び日本貿易振興会が共同で運営しているジェトロ・ニューヨーク・センター舶用機械部のご協力を得て実施した「米国舶用機械業界の現状」に関する調査結果をとりまとめたものです。
関係各位に有効ご活用いただければ幸いです。
2002年2月
(財)シップ・アンド・オーシャン財団
はじめに
一般に1990年代は米国製造業復権の時代であり、まれにみる長期の経済的繁栄を謳歌してきた10年である。このような状況下において、1990年代初期の冷戦構造終結時には海軍艦艇の建造隻数減少とともに大幅に衰退するのではないかとみられていた米国舶用機械業界は、現在でも、当時の予測を遥かに上回る産業規模を維持している。国内にさしたる商業造船業界を有さない米国舶用機械業界が、艦艇建造数の低迷にもかかわらず従来に優る産業基盤を維持し得たのは、多くの内部要因と外部要因の相乗効果によるものと考えられる。
外部要因としては、環境保護や海上安全の分野に強く現れているように、この10年間に導入され、また導入が検討されてきた新規規制が新しい舶用機器を必要としたことが挙げられ、各メーカーは新技術の開発のために欧州、米国内、その他の企業との提携を強め、新技術開発の負担に耐えられるよう企業間協力を進める一方、連邦政府、その他の機関との結びつきを強めて効率的な技術開発を進めてきた。
一方、内部要因としては、(1)顧客や市場の変化に敏感に対応する感性、(2)製造業のサービス取り込み、(3)大企業病(硬直した組織運営)からの脱却、(4)業界1−2位のシェア、(5)高利益率等のキーワードで示すことが可能なように、企業が経営の迅速化・効率化を進め、NAFTA(北米自由貿易協定)等の利点を充分に活用してグローバルな企業戦略を推進し、さらに製品分野の特化等により価格、品質、収益性に優れる分野に経営資源を集中するため、経営改善、体質改善に取り組んできた点が挙げられる。
本調査においては、米国舶用機械業界の主要企業5社(ディーゼルエンジン−Caterpillar、ガスタービン−General Electric、減速機−Cincinnati Gear、リクリエーション用機器−Bombardier、航海機器−Sperry Marine)における経営改善への取り組み等を中心に現状を分析した。これらの情報が、製品価格の低迷や収益性の悪化等といった困難に直面する我が国舶用工業関係者各位の、今後の経営戦略策定の一助としてお役に立てば幸いである。
ジェトロ・ニューヨーク・センター 舶用機械部
Director 吉田正彦
Assistant Researcher 上野まな美
用語解説
ADG |
Adaptive Digital Gyropilot 適応デジタルジャイロパイロット |
ATV |
All-Terrain vehicle 万能地形車 |
BI |
Bombardier Inc. ボンバルディア社 |
Cat |
Caterpillar Inc. キャタピラー社 |
CINTI |
Cincinnati Gear Company シンシナティギア社 |
CNG |
Compressed Natural Gas 圧縮天然ガス |
DDC |
Detroit Diesel Corporation デトロイトディーゼル社 |
DLEC |
Dry Low Emission Combuster ドライ低排出燃焼機 |
ECM |
Electronic Control Module 電子制御モジュール |
EMD |
Electro-Motive Division of GM ジェネラルモーターEMD事業部 |
EPA |
Environmental Protection Agency 環境庁 |
EWGU |
Electric Wheeldrive Gear Unit 電気車輪ドライブ減速ユニット |
GE |
General Electric Company ジェネラルエレクトリック社 |
HTS |
High Temperature Super Conductor 高温超伝導 |
IBS |
Integrated Bridge System 統合船橋システム |
IPS |
Integrated Power System 統合動力システム |
IRC |
Intercooled Recuperated Cycle Engine 中間冷却復熱式ガスタービン |
MFR |
Multi-Function Radar 多機能レーダー |
NAFTA |
North American Free Trade Agreement 北米自由貿易協定 |
NAVSEC |
Naval Vessel Engineering Center 海軍艦船技術センター |
PWC |
Personal Water Craft 水上オートバイ |
RCCL |
Royal Caribbean Cruise Lines ロイアルカリビアンクルーズライン社 |
VDR |
Voyage Data Recorder 航海データ記録計 |