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3 バタムの造船所の存在及びインドネシア造船業一般に与える影響
3.1 概要
 
 全ての種類及びサイズの造船及び船舶の修繕は1990年以降に許可された。それ以前は、バージや沖合構造物といった非自航船の建造に制限されており、船舶の修繕は禁止されていた。
 
 造船所の草分けであるPT. Bandar Victory Shipyrad社が1981年にバージの建造により営業を開始した。同造船所はセクパンに位置する唯一の造船所であり、他の全ての造船所は船舶の建造及び修繕に最も適したタンジュンウンチャンに集中している。
 
 2000年末に、造船及び船舶の修繕活動を行っているとしてバタム産業開発局に登録している企業数は43社である。しかしその半数以上は自社で土地や設備を保有していない下請け業者か、造船関連事業を行っている企業にすぎない。バタム造船所協会(BAS)には現在16社が加盟している。
 
 造船所の現在の修繕及びメンテナンス活動は、65,000DWTまでの船舶の修繕及び乾ドック入れ作業、並びにVCLLのウェットドック入れ作業である。新船舶の建造及び改造活動は、バージの建造からパナマックスサイズを目標とする各種船舶に及ぶ。
 
 バタム及びカリマンは輸出志向自由貿易地域であり、シンガポールからフェリーでそれぞれ30分及び75分の距離にあるため、シンガポールからの原材料の輸入は迅速かつ容易で、造船所にとっては魅力的である。造船所は、シンガポールの造船及び船舶修繕市場に対しより良いアクセスがある。シンガポールの先進技術の造船所からのエンジニアリングサービス及び他の技術支援もまた容易に利用可能である。
 
 インドネシアの中等レベルの教育を受けた非技術者は潤沢で、彼らは必要な能力の訓練を受けたいと考えている。インドネシアの大学又は科学技術専門学校の新卒エンジニアは造船所の徒弟プログラム又は職場訓練を開始する準備ができている。自由貿易地域外の島々の造船所からの需要は現在ごくわずかしかないため、これらのエンジニアはバタム及びカリマンの造船所の潜在的な労働力である。
 
 上記のような状況により、バタム及びカリマンの造船及び船舶修繕活動は生存している。
 
3.2 造船所の活動
 
 本調査では、バタム島内の8つの加盟造船所、1つの非加盟造船所、並びにBSAの非加盟造船所でバタム島の西部にあるカリマンブサール島に位置するKarimun Sembawang Shipyrad社の10社の造船所訪問した。これら全ての造船所は、マラッカ海峡沿いに理想的な形で位置しており、造船及び船舶修繕事業において主要な役割を果たしている。訪問した造船所は以下の通り。:
3.2.1 PT. Nanindah Mutiara Shipyard (PMA)
3.2.2 PT. Pan United Shipyard Indonesia (PMA)
3.2.3 PT. Batamas Jala Nusantara (PMA)
3.2.4 PT. Jaya Asiateic Shipyrad (PMA)
3.2.5 PT. Pandan Bahari Shipyrad (PMA)
3.2.6 PT. ASL Shipyrad Indonesia (PMA)
3.2.7 PT. Palma Progress Shipyard (PMDN)
3.2.8 PT. Bandar Victory Shipyrad (PMDN)
3.2.9 PT. Kunangan Marindo Laksana Shipyrad (PMDN)
3.2.10 PT. Karimun Sembawang Shipyrad (PMA)
 
 それぞれの造船所の詳細は第2章に記した。
 
 訪問した造船所の大多数は外国投資法に基づいて設立されており(PMA)、3社だけが国内投資(PMDN)企業であった。PMDN企業の能力及び規模はPMA企業と比較して小さいものであった。活動の集中度も異なっていた。
 
 PMA造船所がシンガポールの親会社との関係が近いほど、バタムの造船所の活動も活発であるということがわかる。シンガポールとバタムの造船所の良く調整された良好な関係は、PMA造船所が存続するために必要な基本的要素を満足させるには充分であり、営業活動の主要な機能を共有することは初期の段階における競争力を増すことになる。
 
 当初注文は親会社より発注されており、充分な実績を作った後にPMA造船所はマーケティング活動を行う。PMA造船所の財政面は、シンガポールの銀行及び他の金融機関によって低コストで提供されている。技術面は、親会社の造船所からPMA造船所に専門技術者を管理職として派遣することにより移転される。
 
 初期の段階で親会社がPMA造船所と共有する機能は、エンジニアリング及び材料調達である。
 
 典型的な例がPT. Pan United Indonesia社であり、アジア金融危機の初めの1997年に企業を設立する際に、これらの機会を完全に利用した。バタム島の南西海岸に位置するタンジュンウンチャンに理想的な用地を選び、若手の中等教育卒業者を労働者として雇用し、大学及び科学技術専門学校からの新卒者を中等レベルのエンジニアとして雇用した。初期の段階では、建設作業だけが親会社の監督の下に地元で行われ、エンジニアリング及び材料調達はシンガポールで親会社が行った。プログラムを賢明に遂行したため、22,000TLCの浮きドックの建設を含めた第2段階を計画よりも早く行えるようになった。現在一部のエンジニアリング作業、材料調達及びマーケティング活動はすでにバタムで行われている。
 
 PMA造船所の一般的な発展は、このような形をとっている。造船所の活動は以下の通り2つのグループに分けられる。:
・ 第1グループは、全能力に占める船舶の修繕及び乾ドック入れ作業が平均65%で、船舶の改造を含めた造船活動が残りの35%である比較的大規模な造船所である。
・ 第2グループは、バージやタグボートの建造を中心に行っており、修繕活動は非常に限られたものしか行っていない比較的小規模な造船所である。
・ 造船所は修理作業を受注する際に非常に選別的で、外国船舶が注文を占めており、インドネシア国籍船がこれらの造船所で修繕又はメンテナンスを行うことは非常に少ない。これらの造船所は、修繕及び造船について国際市場志向である。
・ しかしながら、このような状況はPMDN造船所には当てはまらない。PMDN造船所は、外国の親会社の支援なしに完全に自社で事業を行わなくてはならない。PMDN造船所が自由貿易地域に設備と共に位置していることを除けば、インドネシアの他の造船所と同様の取り扱いである。これらの差異は、古いPMDN造船所がPMA造船所と同程度の発展及び進捗状況を保っていない理由の一つと考えられる。
・ PT. Palma Progress Shipyrad社は、1990年に設立された最大のPMDN造船所であるが、BSA加盟造船所の中では第2グループに位置する。同造船所の活動は、PMA造船所と同程度に活発である。市場志向は国内・外国の双方である。同造船所の顧客の大多数は、貨物又はフラットトップバージを利用して石炭、材木及びその他の商品を輸送する国内及び外国企業である。
・ これらの造船所には非常に重要な共通点があると考えられる。それは、経営陣の率直で開放的な考え方である。PT. Pan United Indonesiaを訪問した際に案内役をしてくれた管理職は、造船所全体を見せながら説明してくれ、造船所の改善に必要な意見や批判を聞く姿勢があった。PT. Palma Progress Shipyradでも同様で、同造船所見学中にCEOは「バタムでは開放的な考え方をもたなければ長く存続できない。バタムの造船所管理では秘密を持つことができない。」と述べた。
3.3 インドネシア造船業に与える影響
 
 PMDN、PMA共に、バタム及びカリマンの造船所の存在は、造船業、また特に船舶修繕業における国内能力を大幅に増加させた。これらの造船所は新しい市場を創り出したため、インドネシアの他の島々にある造船所の仕事量は減少しなかった。バタムでの修繕及びメンテナンスの費用は、旧来の造船所よりも高価なだけでなく厳格な支払条件が付されている。しかし、これらの造船所は同等の品質をより早い引渡し期間で提供している。
 
 雇用方針は、インドネシアの全てのレベルの学校からの新卒者を雇用し、英会話を含む必要な訓練を提供している。これらのプログラムはインドネシアの労働者の品質を高めるだけでなく、開放的な雇用機会も提供している。このような方針は、旧来の造船所のような労働移動問題を引き起こさない。
 
 つまり、バタムの造船所の存在はインドネシアの造船業及び船舶修繕産業にとって価値のある資産である。
3.4 インドネシア造船業の概要
 
 インドネシアは、島国としては非常に残念なことに、新造船市場を未だ創出できていない。商船は、外洋航行船及び島内間船共に老朽化してきている。財政的に弱体な海運事業者にとっては、もし船舶の代替及びトン数の追加を希望する場合、現実的には中古船を購入せざるを得ない。このことから、インドネシアの市場は船舶のメンテナンス及び修繕業務が主体であり、新造船市場は潜在的なものでしかないことがわかる。
 
3.4.1 上記のことから造船業が修繕活動に集中していることがわかる。国内船舶はトン数が小規模化している。もしも状況が改善されなければ、改良、修繕及び乾ドック施設はより要求が厳しく、品質、引渡し期間、価格面、安全面を考慮した外国船を期待しなければならない。既存の商船隊の中から選別した船舶を修復する統合変革プログラムは、選別したドック及び造船所のアップグレードと同時に、政府の特別財政スキームの下に速やかに行われなければならない。同プログラムの最後には、全ての選別された船舶が修復した場合、経験のあるアップグレードした造船所が外国籍船舶を引きつけるだけの魅力がなければならない。
 
3.4.2 バタムのPMA造船所の成功例に学び、造船業に新規投資家を集めるようより多くの自由貿易地域の設置を考慮すべきである。インドネシアの太平洋沿岸の島々は、そのような地域の必要条件を満たしている可能性があり、アジア太平洋地域諸国間の貿易成長が期待される。
 
3.4.3 過去20年間にインドネシアの新規船舶の建造は、長期用船ベースで新タンカー船をインドネシアで建造した国有企業PERTAMINA社を除いては政府支出プロジェクトのみであった。実質的には民間からインドネシア造船所への発注はなかった。国内市場形成は未だかなり遠いようである。
 
3.4.4 注文を国際市場から受注するならば、造船及び船舶修繕産業の助けとなる環境を誘発することは必然的である。インドネシアの造船所は、アジアのより経験豊富な造船所との競合に直面するためにも管理上、技術上共に刷新されるべきである。








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