日本財団 図書館


第4章 オーストラリア政府の政策
4-1 海運業
 
 経済のボーダーレス化が進む中、海運を含む、物流業界が経済に与える影響は大きい。海・陸・空を使った輸送サービスをシームレスにスムーズに提供するための、業界高度化が求められている。
 オーストラリア政府は、経済競争力をたかめるためのアクションプランを毎年発表しているが、2000/2001年度には、軽量金属、水耕栽培、環境マネージメント、空間情報産業(Spatial Information Industries)と共に、物流業界にも焦点があてられることとなった。これに伴い、輸送地域サービス省(Dept of Transport and Regional Services)内に、業界委員会が設けられ、物流業界アクションプラン(Freight Transport Logistics Action Agenda)を策定することになった。業界委員会では、サプライ・チェーン・マネージメントやE コマースの導入といった、物流業界の潮流の中で、オーストラリアの企業を最高級の物流サービス企業に変身させていくためのアクションプランを提言することになっている3
4-2 造船業
 
 前述のように、オーストラリアの造船業は、長く政府の助成を受けてきた。現在の補助金はコストの3%まで下がっているが、高速船業界の急速な発展は、政府助成によるところも大きい。1980年代から政府補助は徐々に下げられ、1970年代のピーク時の45%から1997年には5%となった。1997年には、オーストラリアの経済成長を持続させるための指針、“Investing for Growth”を発表したが、その中で示された、産業政策の3つの方向性は次のとおり4
・ R&DとR&D結果の商用化のサポート
・ オーストラリアの投資環境の向上
・ オーストラリアを貿易国としての競争力向上
 この中で、造船業に対する補助金は継続するものの、OECDの造船協定が発効し他のOECD諸国が補助金を廃止するまでの限定的措置とするとしている。
 
 こうした中、政府は、1998年1月に、造船業界に対する政策を助言するための諮問委員会を設立した。諮問委員会では、具体的に次の点について政策助言を行うこととなった。
・ 業界の将来戦略の立案における政府の適切な役割
・ 業界に対する将来の助成措置の望ましい形式、レベル及び期間
・ オーストラリアのOECD造船協定への加盟に関する問題
 
 諮問委員会は同年6月に次のような提言を行った。
[1]1999年7月1日から2000年12月31日までの18ヶ月間、3%の補助金制度を適用する。(提言当時の補助金は5%)
[2]新たに、造船技術革新スキーム(Shipbuilding Innovation Scheme)を導入し、1999年7月1日から2004年6月30日までの5年間適用する。これは研究開発や設計革新を奨励し、造船業界の発展および国際競争力の維持・強化を図るもの。
[3]補助金以外の政府の活動(輸出金融保険公社による融資、オーストラリア貿易振興庁による輸出促進など)は引き続き適切な運用をする。
 
 政府は諮問委員会の提言を受け入れ、補助金を3%に引き下げ、引き続き実施すること、造船技術革新スキームなどを含む、造船業界に対する統合的な支援政策を1998年末に発表した。
 以下、これらの政府諸策を説明する。
 
●造船補助金制度(Ships Bounty Scheme)
 連邦政府が国内または輸出向けのいずれについても、対象船舶の原価の一部を造船所に補助する制度。これは、海外における多額の政府助成制度に対するオーストラリア造船業界の保護を意図したもの。造船補助金制度自体は、第3章で述べたように、1939年に提案され、戦後施行されたものである。
 1998年末連邦政府は、諮問委員会の提言を受け、ヨーロッパで実施されている助成制度に相当する造船補助金を、1999年7月1日から2000年12月31日までの間対象建造コストの3パーセント補助にて継続することを認める一方、2001年1月1日以降の同補助金の段階的廃止を決定した。
 
●造船技術革新スキーム (Shipbuilding Innovation Scheme)
 1998年の統合支援政策で新たに創設された制度。5年計画で研究開発や設計上の技術革新を強力に奨励していくために導入されたもの。同スキームでは、補助金登録造船所が、対象建造コストの2パーセントを上限として、技術革新に対する支出の50パーセントの給付を請求できる。
 
 なお、造船補助金制度および造船技術革新スキームによる補助金を受けるためには、造船補助金法 Bounty Ships Act 1989に基づき造船所として政府に登録する必要がある。登録の条件は、次のとおり。
・ 連邦政府あるいは州・準州の法律により法人化された企業であること
・ 補助対象となる船舶の建造あるいは改造を完了することができる技術力および資本力があること
・ 補助対象となる船舶の建造あるいは改造を行うために必要な設備(波止場の現場を含む)を利用できる状態にあること
・ 活動の75%以上が、150GT以上20,000GT未満の船舶の建造あるいは改造にあてられること
・ 少なくとも40名以上の従業員(下請け業者を除く)が、補助対象となる船舶の建造あるいは改造に従事し、少なくとも従業員8名につき1名は実習生を40名の中に含むこと
 
●オーストラリア貿易振興会(Australian Trade Commission(Austrade)による輸出促進
 Austradeでは業界のための調査、PR等を活発に行ってきた。しかしながら、最近の連邦政府支出削減のため業界に対する直接支援が縮小された。
 
●輸出金融
 輸出金融保険公団(Export Finance Insurance Corporation(EFIC))は、オーストラリアの輸出業者や輸出を行うメーカーに対して、輸出や海外投資を行う際のリスクを軽減するための保険や、融資を行っている。EFICには様々な機能があるが、造船業界の輸出促進に効果的な役割を果たしてきたのは、輸出金融である。これは、オーストラリアの船舶を購入する海外のバイヤーに対する融資や保証で、具体的には次のとおり。
1)直接融資(Direct Loan) : 海外のバイヤーに対し、EFICが融資するもの
2)輸出金融保証(Export Finance Guarantee) : 輸出取引をファイナンスする銀行に対して保証を与えるもの
3)Documentary Credit Finance and Guarantees : 海外バイヤーの銀行に対して保証するもの
これらの輸出金融の利用にあたっては、EFICに各種手数料を支払う必要がある。
 
 輸出金融の概略を、表3-15に示す。
表3-15 EFIC輸出金融の概要
  Direct Loan Export Finance Guarantee Documentary Credit Finance & Guarantee
契約金額 100万豪ドル〜3億豪ドル 100万豪ドル〜1,000万豪ドル
Eligible Contract Value Eligible Contract Valueとは、EFICが概算する契約金額に含まれるオーストラリアおよび外国の調達品の額で、通常、60%以上がオーストラリア調達であることが望ましい。
融資・保証先 オーストラリア企業から資本財あるいはサービスを購入する外国企業、外国政府、あるいは国営企業。 EFICが認可する銀行。オーストラリアの金融機関である必要はなく、またはオーストラリア国内の支店である必要もない。 バイヤーがL/Cを開設する銀行。
融資・保証金額の上限 契約金額の85%
通貨 すべての主要通貨
利子 OECD合意レベルの範囲内で固定金利をケースバイケースで特定する。あるいは流動金利。 L/Cを買取する銀行が決め、L/Cに金利を明記する。
支払い期間 年2回とし、最高10年までとする。 年2回とする。 年2回とし、期間は2〜5年。
出所:EFICホームページ
 上述のように、貸付の通貨を特定しておらず、EFICはこの柔軟性を利用してバイヤーの要件を満たしてきた。殆どの貸付は米ドルによるが、これは世界中で通常造船業が同通貨を利用するためである。
 大抵のバイヤーはオーストラリア造船所に対して契約額の最低15パーセントを手付金として支払うこととなるが、船舶の場合にかぎって、OECD合意に従い20パーセントの頭金が必要である。つまり、EFICは契約額の80パーセントの貸付しか行わない。
 EFICは貸付に対し担保を要する。船舶全体が担保の場合、最高担保価額は船舶価額の50パーセントである。差額(最低30パーセント)は副担保による。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION