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3-3 民需造船分野
 
 オーストラリアの民需造船業界は、前述のように、1980年代に輸出向け造船が政府補助金の対象となったことをきっかけに急速に成長した。今日でも民需造船業は輸出志向が強い。高度な製造技術と共に革新的な設計により、国際市場での成功に必要な高品質及び低コストを達成した。
 
3-3-1 高速船
 
 高速旅客船及び作業船市場は供給側が小規模な造船所であり、船種は多様である。これは、航路の特徴により異なる多様な輸送サービスを要求される事業者ニーズを反映している。そのため、自動車及び航空機産業と対照的に、標準品生産は少なく、特注品を購入するケースが多い。
 先進工業国では、経済及び利用者ニーズの変化と共に、ジャスト・イン・タイム方式等の時間ベースの経営により、海上輸送の高速化が迫られている。一方発展途上国では、高速海上輸送システムにより、観光等の産業発展と同時に地域内で高い移動性を持つ短距離連絡輸送の需要を満たすことができる。高速船の利点は経済性、乗り心地、利用者利便、速力である。高速化により、海上輸送が混雑した道路での自動車輸送より優位となる。全体的に、高速旅客船の世界市場は成長期にあり、相当なビジネスチャンスが主要運航地域であるアジア及びヨーロッパ(全高速旅客船の70パーセントを占める)において生まれつつある。
 オーストラリアの造船業界では、高速旅客船市場における技術的優位を数年にわたり維持してきた。とくに、アルミ製高速旅客船の分野では、オーストラリアの国際競争力は高く、双胴波浪貫通型カタマランの設計・建造では世界でも有数の技術をもち、世界市場でのシェアも高い。しかし、技術革新の普及により、他国の造船所もエンジン、推進系統、材料、設計などの力をつけてきている。こうした中、オーストラリア政府は、従来の補助金制度を徐々に廃止し、研究開発などへの援助に切り替えつつある。今後は、規模の経済性もしくは連続生産が達成でき、マーケティング力のある企業が優位にたつことになる。また、高速船の大型化も進んでおり、その結果、船舶の材料も重要なポイントとなる。鋼鉄より強固でアルミニウムより軽い材料の研究開発も行われている。
 オーストラリアの造船所による2000年の高速船引渡し数は11隻で、1999年の17隻を下回ったが、2000年は世界的に引渡し数が少なく、1999年の57隻に比べて42隻と落ち込んだためである。いずれにしても、オーストラリアの高速船引渡し数は世界の隻数ベースで世界のトップである。表3-13に高速船の主要生産国別建造数を示す。
表3-13 高速船の国別建造隻数
1999年 2000年
オーストラリア 17 11
米国 11 9
シンガポール 3 7
ノルウェー 6 6
フランス 3 3
フィリピン 1 2
トルコ 0 2
イタリア 10 1
カナダ 1 1
英国 1 0
ドイツ 2 0
中国 1 0
不明 1 1
合計 57 43
出所:Fast Ferry International 社の2000年1-2月号、2001年1-2月号より作成
 さらに、オーストラリアの造船所による2000年の高速船引渡し実績リストを表3-14に示す。
表3-14 オーストラリア造船所による高速船引渡し隻数実績(2000年)
造船所名 隻数 引渡し先国
Austal Ships 4 デンマーク、ギリシャ
BSC Marine 1 オーストラリア
Incat Tasmania 3 スペイン、ニュージーランド
Richardson Devine Marine 1 オーストラリア
Sabre Catamarans 1 アラブ首長国連邦
Wave Mater International 1 ドイツ
出所:Fast Ferry International 社の2000年1-2月号より作成
 カタマランとモノハル(monohulls)タイプの比較優位性については、業界でも意見が分かれている。オーストラリアで製造しているのは、主にアルミニウム製のカタマランである。アルミニウムの漁船やヨットの建造からスタートし、小型フェリーの製造に参入している企業が多い。オーストラリアのメーカーは、高速モノハルフェリーの製造には経験が少ないところが多い。
 また、最近、車・乗客用の高速カーフェリーの市場も拡大しているが、この分野ではオーストラリアのシェアが高い。この市場ではカタマランが多い。
 高速船市場は、さらに速力の高い、大型の船へとシフトしつつある。民間調査会社のワイルド・インターナショナル社によると、旅客2,500人、車両700台の輸送能力を持った140〜150メートルの高速船も開発されると予測している。2005年までの需要は、新規・代替両方で、大型・高速化がすすむと見込まれている。
 
3-3-2 高速貨物輸送船
 
 高速貨物船も需要拡大が見込まれている市場である。政府と造船業界では、高速貨物船市場の調査を1996年と1997年に実施したが、その調査によると、航空輸送あるいは船舶輸送から高速船貨物に切り替え可能な潜在市場規模は9千万トン(世界の貿易量の8%)あるという。
 オーストラリア造船業界では、500海里までの距離の輸送なら、40ノット以上の高速船を使えば航空輸送と対等に競合できると考えている。高速貨物輸送はオーストラリアの造船業界の強みを発揮できる分野である。Austal社は、ガスタービンを使用して、千トンの貨物を42ノットで665海里輸送できる長さ95メートルの高速貨物船を設計した。Incat社では、28,000kWのディーゼルパワーを利用して35ノットの速力を出せる高速貨物船を設計した。
 
3-3-3 豪華モーターヨット
 
 高速旅客船と比較すると小規模であるが、オーストラリアは豪華モーターヨットの分野でも国際競争力が強い。この市場はニッチマーケットであるが、非常に細分化されている。Oceanfast社などが国際競争力を有したオーストラリアのメーカーである。市場としては、欧州、米国が主である。
 
3-3-3 パトロール船および漁船
 
 オーストラリアは、太平洋パトロール船計画(Pacific Patrol Boat Program)の船設計・製造を手掛けており、また香港、クウェート、フィリピンなどへの販売実績もあり、パトロール船でも強い競争力をもっている。パトロール船は、アジア太平洋地区では、軍隊、税関、漁業、捜索救助など、広く使用されている。また、鋼製作業船、漁船の建造でもオーストラリアは実績があるが、輸出向けは少ない。高付加価値漁船が国内市場向けに建造されている。
3-4 軍需造船分野
 
 民需造船の急速な発展がオーストラリアの造船業界を変革していったことは前述のとおりであるが、軍需造船分野の再生も、業界に重要な影響を与えている。最近の軍需調達プロジェクトは、オーストラリアの海洋工学分野の能力および競争力を高める上で、大きなインパクトを与えた。地元業界による参画、新しい技術の移転、品質基準の向上、新しい経営スタイルや技術スキルの導入など、様々な好影響を業界にもたらしている。
 
3-4-1 軍需造船分野の推移
 
 オーストラリアにおける艦艇建造は第二次世界大戦中にピークに達し、駆逐艦3隻、フリゲート艦5隻、コルベット56隻が建造された。戦後もオーストラリアは軍艦を製造したが、建造を行っていたのはガーデンアイランドとウィリアムスタウンの国営造船所で、海外調達を比較して国内建造はコスト競争力を失っていった。そのため、1970年代および1980年代初期にはオーストラリアの軍需造船業は衰退し、大型艦艇は全く建造されなかった。
しかし、その後、海軍をサポートする地場業界の育成のため、ANZAC級フリゲートおよびCOLLINS級潜水艦をオーストラリア国内で建造することが決定した。建造にあたっては、民間企業2社が選ばれ、固定価格契約における厳しい性能使用、性能不良に対する違約条項の契約への組み入れが図られた。
 
●COLLINS級潜水艦
 南オーストラリア州のAustralian Submarine Corporation がCOLLINS級潜水艦6隻の建造を受注。これは、スウェーデンのKockums潜水艦の設計を基に、それよりかなり大規模な潜水艦を建造するもの。第一号の潜水艦の建造は1993年に開始した。契約では、建造の70%以上をオーストラリアで行うことになっている。
 このプロジェクトには、100社以上のオーストラリア企業が関与し、さらに部品やサービスを提供する企業も多い。
 
●ANZAC級フリゲート艦
 ビクトリア州ウィリアムスタウンのTenix Defence Systems 社(元Transfield Shipbuilding 社)が、ドイツのBlohm&Vonn社のMeko設計の艦艇をモデルとした、ANZAC級フリゲート艦10隻の建造を受注(8隻はオーストラリア向け、2隻はニュージーランド向け)。同社は、西オーストラリアで、太平洋パトロール船計画の船を建造している。
 ANZAC級フリゲート艦のプロジェクトでは、オーストラリア・ニュージーランド産業関与契約(Australia New Zealand Industry Involvement Programme)により、契約金額の80%をオーストラリア・ニュージーランドで建造することになっている。さらに、オーストラリア・ニュージーランドで建造する際、コスト、納期、品質ともに海外調達と比較して競争力のあるものでなければならない、規定されている。
 
 この他に、オーストラリアDefence Industries 向けのHuon 級Minehunter 船、鋼鉄製Hydrographic船2隻の建造も国内で調達が行われた。
 こうした経験を経て、オーストラリアの軍需造船業も競争力を持ち直してきている。現在、造船業界の売上の40%は軍需造船によるもので、ここ数年、輸出も増えてきている。








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