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第1章 オーストラリアの概況
1-1 基礎データ
 
国土面積 : 771万3,364km2
人口 : 1,920万人
主要言語 : 英語
宗教 : キリスト教が74.0%
首都 : キャンベラ
通貨 : 豪ドル
    対米ドル市場平均レート 1豪ドル=0.5685米ドル(2001年1月11日)
1-2 政治
 
 98年10月の総選挙で、当時与党であった自由党・国民党連合が辛勝し、第2次ハワード政権発足。保守連合は下院で大幅に議席を減らしたが、その原因は10%のGST。経済政策を重視した前期に比べ、社会政策を重視する意向を表明した。
 政府は99年11月、共和制移行の是非を問う国民投票を実施した。与党自由党は共和制賛成派と反対派に分裂したが、結果、賛成45.3%、反対54.7%で共和制移行を否決された。しかし、国民投票では、保守的な共和制モデルを設定していたため、革新的なモデルを求める国民から敬遠されたことが原因で、必ずしも国民の過半数が立憲君主制を指示しているわけではない、という見方もある。
 しかし、消費税の導入や、共和制国民投票の際の分裂などにより、自由党・国民党連合の支持率が低下。2001年の世論調査によると、過去最低の30%となっている。これに対して野党労働党の支持率は48.5%。自由党は州選挙で苦戦をしており、西オーストラリア州、クイーンズランド州で相次いで労働党に大敗。危機感を強くしたハワード首相は、2001年後半の連邦総選挙を念頭に、最低賃金の引き上げなどの新公約を発表している。
 さらに、ハワード首相は、2000年末に内閣改造を実施。2001年1月から発足した新内閣の主要な閣僚異動は、ムーア国防相(クイーンズランド州)、ニューマン家族・社会サービス相(タスマニア州)が辞任し、新たにリース雇用・労使関係相(ビクトリア州)が国防相に、アボット雇用・サービス相(閣外から、ニューサウスウェールズ州)、ヴァンストン司法・税関相(閣外から、南オーストラリア州)が家族・社会サービス相に就任した。この内閣改造は、支持率の落ちているハワード首相が、アボット氏の抜擢など、若返りによる刷新により人気を挽回し、2001年の秋以降の総選挙に備えようという人事ではないか、というのが一般的な見方である。
 一方国際関係では、99年9月、インドネシアからの独立を巡って騒乱状態となった東チモールに国連多国籍軍の主力として軍部隊を派遣。「アジアの安保問題に積極的に関与する」とする外交政策“ハワードドクトリン”が東南アジア各国からの反感を買った。しかし関係改善にむけて、2000年12月には、インドネシア開発地域(AIDA)閣僚会議がキャンベラで行われ、8日夜、豪州・ダウナー外相とインドネシア・シハブ外相の共同署名による「共同閣僚宣言」が発表された。
1-3 経済
 
 91年以降、経済はプラス成長を維持している。94年前半をピークに一時減速したものの、堅調な個人消費と設備投資でアジア経済危機の被害も軽微に止まった。99/00年度(99年7月〜2000年6月)の経済成長率は4.4%となっている。しかし、ここへきて景気減退が顕著になっている。2000年7-9月期の実質GDP成長率は前期比0.6%、前年同期比4.2%と、市場の予想値をやや下回る結果となっている。これは、内需の落ち込みが大きかったが、輸出は順調に伸びている。その理由としては、[1]記録的な豪ドル安による輸出価格競争力の向上、[2]主要輸出先であるアジア諸国や米国経済の需要増、[3]輸出の6割以上を占める一次産品の商品市況の相対的な好況、があげられる。オーストラリア政府は、経済減速の影響は小さくとどまり、2000/2001年度も引き続き4%台の経済成長を達成できるとの見通しを発表しているが、米国経済成長の鈍化、その影響によるアジア諸国の景気落ち込みが予想されるため、金融機関のアナリストはこれを疑問視している。
 また、政府は2000年7月、財・サービス税(GST)10%導入と法人・所得減税を柱とする税制改革を実施したが、GSTの影響は、予想通り各マクロ指標に大きな影響を与えている。中でも最も大きな影響を受けたのは消費者物価指数(CPI)で、第3四半期は前年同期比6.1%(前期比3.7%)の上昇となっている。これには、国際原油価格の高騰による市中ガソリン価格の上昇も理由としてあげられる。オーストラリア統計局(ABS)は、11月30日に、「GSTの影響を除いた」CPIを発表したが、それによると前期比3.7%であったものが1.4%に低下するという。
 また、失業率は景気の拡大と労働市場の改革が功を奏し、2000年1月に、90年8月以来初めて7.0%を下回った。
 なお、その他の産業政策としては、97年6月、2000年までの自動車政策を発表した。輸入関税を当初2004年に5%に引き下げる予定であったが、国内業界の反発から2000年に15%、2004年まで 据え置き、2005年に10%へと緩和された。
 金利政策では、準銀は、物価の上昇及び豪ドル下落への警戒から99年11月、2000年2月、4月に続き、再度2000年5月に政策金利を0.25%引き上げ、6.00%とした。その後2000年8月2日、準銀は、政策金利を0.25%引き上げ、6.25%に戻している。99年11月以降5度目の引き上げで、利上げ幅は合計1.25%。第2四半期(4〜6月)のCPIは前年同期比3.2%上昇し準銀の目標水準2.5%を上回り、7月の失業率は6.3%と10年振りの低水準となるなど、準銀はインフレ警戒感を強めている。 また、前述のように豪ドル安が続いている2000年9月以降、豪ドルは10月下旬に初めて1豪ドル=0.52米ドルを割り込み、史上最安値圏での値動きとなっている。準銀は9月以降数回にわたり豪ドル買い支えの介入を行った模様である。表3-1にオーストラリアの主要経済指標を示す。
表3-1 オーストラリアの主要経済指標  (単位:%、100万豪ドル)
  95/96年度 96/97年度 97/98年度 98/99年度 99/00年度
実質GDP成長率 4.5 3.8 4.8 4.4 4.4
消費者物価上昇率 4.2 1.3 0 1.2 2.4
失業率 8.4 8.6 8.3 7.6 6.9
貿易収支 -1,787 -66 -2,915 -11,596 -13,331
経常収支 -21,645 -17,818 -22,776 -33,022 -33,677
財政収支対GDP -1 0.5 2.9 2.1 3.6
M3伸び率 10.2 12.8 6.5 8.5 9.1
出典:ジェトロ「国別概況」
 なお、オーストラリアの財政年度は、7月から翌年6月となっている。
1-4 貿易
 
 オーストラリアの輸出構造はここ15年の間に大きく変遷した。物品の輸出も堅調だが、それに加えて新たにサービス輸出が伸びている。1998-99年度の物品の輸出は860億ドルであったが、サービス輸出も260億ドルに達した。
 1999/2000年度の貿易は、輸出が前年度比13.1%増の972億5,500万豪ドル、輸入も前年度比12.8%増の1,100億830万豪ドルとなっている。貿易収支赤字は、128億2,800億豪ドルと、過去最大となっている。2000/2001年度にはいってからは、五輪効果で、9月、10月には貿易黒字を記録したが、11月以降、再び赤字に転じている。
 1999/2000年度の貿易を相手国別にみると、貿易相手国の上位10カ国のうち、輸出は7カ国、輸入は6カ国をアジア諸国が占めており、アジアは重要な貿易相手となっている。1999/2000年度では、特に自由貿易協定を締結したシンガポールとの貿易が輸出では対前年度比42.2%、輸入では同47.9%と大幅な伸びをみせている。また、中国の伸びも顕著で、特に輸入は、1998/1999年度は対前年度比15.1%、1999/2000年度は22.7%の伸びで、中国からの輸入が着実に増えていることがわかる。また、1998/1999年度は、アジア経済危機の影響もあり、対日本、韓国、アセアン各国など軒並み前年度比減となったが、1999/2000年度はアジアの景気も回復し、輸出も伸びた。対EUは、輸出が前年度比3.4%増の120億3,800万豪ドル、輸入が同4.4%増の243億5,300万豪ドルとなっている。その結果、対EU貿易赤字は123億1,500万豪ドルとなり、赤字幅は6.3%拡大した。対NAFTA地域は、輸出が前年度比15%増の110億700万豪ドル、輸入が同10.6%増の252億2,200万豪ドルとなった。貿易赤字は142億1,500万豪ドルとなり、赤字幅は7.4%拡大した。表3-2にオーストラリアの主要国・地域別輸出入を示す。
表3-2 オーストラリアの主要国・地域別輸出入 (単位:100万豪ドル、%)
輸出 輸入
98/99年度 99/00年度 伸び率 98/99年度 99/00年度 伸び率
日本 16,566 18,800 13.5% 米国 20,893 22,987 10.0%
米国 7,983 9,577 20.0% 日本 13,587 14,139 4.1%
韓国 6,320 7,615 20.5% 中国 6,106 7,494 22.7%
ニュージーランド 5,838 6,731 15.3% 英国 5,545 6,351 14.5%
中国 3,748 4,959 32.3% ドイツ 6,082 5,791 -4.8%
シンガポール 3,417 4,860 42.2% ニュージーランド 3,950 4,371 10.7%
台湾 4,202 4,687 11.5% シンガポール 2,944 4,355 47.9%
英国 4,473 4,156 -7.1% 韓国 3,894 4,310 10.7%
香港 3,071 3,208 4.5% マレーシア 2,845 3,769 32.5%
インドネシア 2,199 2,401 9.2% 台湾 2,978 3,241 8.8%
総額 85,991 97,255 13.1% 総額 97,611 110,083 12.8%
出所:オーストラリア統計局(ABS)
 オーストラリアはボーキサイトや鉄鉱石などの天然資源や農産品といった一次産品の主要輸出国で、品目別では、天然資源(Crude materials inedible except fuels)が183億6,900万豪ドルで全体の18.9%、と鉱物燃料(Mineral fuels lubricants and related materials)が180億6,600万豪ドルで18.6%を占めている。また、穀類などの農産品や家畜類(Food and live animals)は、168億100万豪ドルで17.3%となっている。
 一次産品を輸出し、加工製品を輸入する基本構造は変わらないが、加工製品の輸出も伸びている。1999/2000年度の加工製品輸出額の合計は、277億4,800万豪ドルで全体の28.5%を占めている。前年度輸出額の238億8,800万豪ドルからは16.1%の伸びとなっている。特に車両の輸出が増え、前年度比34.4%増の28億1,100万豪ドルとなった。
 輸入では、加工製品の割合が多く、前年度比10.7%増の805億5,300万豪ドルで、総輸入量の73.2%を占めている。表3-3にオーストラリアの主要品目別輸出入を示す。
表3-3 オーストラリアの主要品目別輸出入 (単位:100万豪ドル、%)
輸出品目 98/99年度 99/00年度 全体に占める割合% 伸び率%
金属を含む鉱石(含む鉄鉱石) 10,665 11,308 11.6 6.0%
石炭、コークおよびブリキ 9,302 8,347 8.6 -10.3%
非鉄金属 5,399 7,398 7.6 37.0%
製油および石油製品 3,133 7,129 7.3 127.5%
非貨幣用金 6,335 5,090 5.2 -19.7%
穀類および穀類加工品 5,041 4,939 5.1 -2.0%
肉類および肉加工品 4,000 4,459 4.6 11.5%
羊毛・獣毛 4,070 4,293 4.4 5.5%
乗用車 2,091 2,811 2.9 34.4%
ガス(天然および精製したもの) 1,727 2,590 2.7 50.0%
総額 85,991 97,255 100 13.1%
 
輸入品目 98/99年度 99/00年度 全体に占める割合% 伸び率%
車両 11,904 12,784 11.6 7.39%
コンピューター 7,104 7,590 6.9 6.84%
石油・石油製品 4,526 7,543 6.9 66.66%
通信機器 4,926 6,808 6.2 38.21%
電器機器 5,870 6,234 5.7 6.20%
その他の工業製品 5,801 5,964 5.4 2.81%
一般機械 5,770 5,399 4.9 -6.43%
輸送機器(車両を除く) 2,848 5,276 4.8 85.25%
特殊機械 4,234 4,155 3.8 -1.87%
医薬品 3,041 3,520 3.2 15.75%
総額 97,611 110,083 100 12.78%
出所:オーストラリア統計局(ABS)
1-5 投資
 
 外資審議会(FIRB)の年次報告書によると、98/99年度の外国投資受け入れ認可額は、670億2,500万豪ドルで、前年比15.7%減となった。一方、投資件数は、同6.3%増の5,022件であった。国・地域別にみると、前年度に引き続き米国が最大で、293億8,600万豪ドル(前年度比19.2%減)、次いで英国の127億3,000万豪ドル(524.%増)、3位がドイツの32億1,300万豪ドル(2.1倍)と、欧州からの投資が急増している。日本は12億4,400万豪ドル(44.3%減)で、前年度の7位から9位に後退した。業種別にみると、サービス業(観光を除く)が226億1,400万豪ドル(前年度比15.9%増)と最も多く、次いで製造業の165億4,500万豪ドル(29.5%減)、不動産の111億4,800万豪ドル(31.4%減)となっている。サービス業の増加は、米ケーブルテレビ会社リバティー・メディアがメディア大手のニューズ・コーポレーションの株式約8%を取得したことと、ドイツ銀AGによる、バンカーズ・トラスト・オーストラリアの買収などによる。
 豪州では、海外の大手企業による合併・買収(M&A)が相次ぎ、エネルギー・資源業界再編の動きが進んでいる。
 資源産業では、99年にスイスの非鉄商社大手グレンコアがアナコンダ・ニッケルを、南アフリカ共和国のアングロ・ゴールドが金鉱山アカシア・リソーシーズを総額8億3,200万豪ドルで、それぞれ買収した。2000年8月には世界最大の鉱業グループ英リオ・ティントが鉄鉱石生産で世界第4位の資源企業ノースの株式54%を取得し(後に85%に引き上げ)経営権を握った。








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