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第4章 インドネシア政府の政策ニーズと将来の動向
 インドネシアの海事産業の抱える問題点は、1998年5月の政治的混乱が起こる以前から指摘されてきたが、前スハルト政権下では、効果のある対策は建てられていなかった。1999年11月、インドネシア政府は、海事産業の建て直しをはかるため、海事対策省(Ministry of Maritime Exploratoin)を設立した。インドネシア船主協会(INSA)のBarens Th Saragih事務局長はこの動きを歓迎し、「インドネシアの海運業界がかつてのように大きな市場シェアを奪回できれば、海運輸送で、年間40億ドルから50億ドルの売上をあげることができる」と語っている。同氏によると、2015年までに、インドネシアの海運輸送市場は200億米ドルに達すると予想されているという9 。また、国有の海運企業PT Djakarta Lloydは、海事対策省の設立により、外国からの投資を海事産業に呼び込み、1995年以来資金不足で棚上げされているカルカジャヤ・プロジェクトの残り15隻の建造を完成させることができれば、と期待を寄せている10 。海事対策相に就任したSarwono Kusumaatmadja氏は、国家海事カウンセルの組織力強化からまず手掛ける、としている11 。海運業界の長年の悩みの種であった付加価値税についても1999年に廃止された。しかし、インドネシアの海運業界が所有する船舶の絶対数が不足しており、また中古船を購入するにも外貨不足で、海運業界の建て直しには時間を要する。
 港湾の運営については、前述のように、民営化が始まっている。しかし、政府は、港湾使用料の設定は国会で決定するとし、運営会社に一任していない。さらに、港湾労働組合は、ジャカルタ国際コンテナターミナルの労働者の20%にあたる1,200人を2001年3月までにリストラするという計画に抗議し、ストライキを打ったほか、Grosbeak によるジャカルタ国際コンテナターミナルの購入は不適切であるとして、改革弁護機関(Institute of Reform Advocacy)を通じて2000年9月、ジャカルタ裁判所に提訴した。1999年には大幅な利益をあげたPELINDO IIも、バンタンのBojonegoro 港プロジェクトに伴う土地の買収と、ジャカルタのTanjong Priok 港のKoja Terminalの開発費用などによる負債1億6,000万ドル支払いが困難になっているという報道もある12 。港湾改革の道のりはまだ長い。
 一方、造船業界が抱える最大の問題としては、海運産業と同様、資金調達である。自社運行のための新造船を発注する資金力のない国内海運会社はもちろんのこと、たとえ外国海運会社から受注を受けることができたとしても、原材料の購入、人件費など、自社資金が乏しいと船舶の建造にとりかかるのは難しい。さらに、造船関連の裾野産業が未熟で、機械、部品などを海外から購入しなければならないことも価格や納期の面でネックになっている。特に通貨危機以降、こうした輸入部材のコストが上昇した上、インドネシアの銀行が発行するL/Cが通用しなくなり、部材の調達が困難になっている。
 インドネシアの国際収支のサービス収支は1997年の96億6,600万米ドルから、98年には74億8,200万米ドル、99年には69億7,400万米ドルと減少はしているが、依然赤字であり、これは海上運輸のほとんど(国際輸送の97%、国内輸送の約半分)を外資系の海運会社に頼っている物流業界の赤字幅によるところも大きい。サービス収支の部門別内訳のデータは発表されていないが、1998年10月30日のLloyd's List International の記事によると、物流サービス部門の国際収支は18億ドルの赤字といわれている。
 前述のように、インドネシアは1万7,000以上の島から成っており、海事産業が経済に与える影響は大きい。海運、港湾インフラ、造船業の建て直しと発展は、インドネシアが成長の軌道に乗るためには急務である。








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