シンガポール海運業の概況(99年)
【1】シンガポール港の貨物取扱量
シンガポールの国際貿易額は、99年は前年比8.1%増の3,824億Sドルであった。
一方、港湾における海上貨物取扱量でみると前年比4.4%増の3.26億トン、コンテナ貨物取扱量は前年比5.3%増の1,594万TEUとなっており、航空貨物取扱量が151万トンであることと比較すると、シンガポールにおける国際貿易量の殆どは海上貨物として輸送されていることがわかる。
これらの貨物は、国内外約320の船社により世界738港との間で輸送されている。
【2】シンガポールの商船隊
1999年末現在、3,360隻、2,375万GTの船舶がシンガポール籍船として登録されている。これは前年末と比べ、それぞれ52隻減(1.5%減)、172GT増(7.8%増)となっている。
シンガポール籍船は、92年に1,000万GTを超えて以来、毎年100万GT台のペースで増加を続けてきたが、96年に入って増加のピッチを急速に早め、一挙に1,600万GT、1,700万GT、1,800万GTを超え、さらに97年8月に1,900万GT、そして、シンガポールの海事港湾庁(MPA;Maritime and Port Authority)の“2000年までに2,000万GTを超える”という当初の目標を遥かに早回り、97年10月には2,000万GTの大台に達した。さらに、98年は2,200万GT、99年には2,300万GTを超え、増加の一途を辿っている。
シンガポール籍船の推移(単位;隻、万GT)
  |
1989 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
隻 数 |
1,359 |
1,565 |
1,823 |
2,087 |
2,394 |
2,647 |
2,910 |
3,157 |
3,380 |
3,412 |
3,360 |
総トン数 |
813 |
887 |
956 |
1,074 |
1,216 |
1,320 |
1,496 |
1,824 |
2,077 |
2,203 |
2,375 |
シンガポール籍船(3,360隻、2,375万GT)を船種別にみると、隻数では非自航船の1,435隻が最も多く、次いでタグ・ボート723隻、オイル・タンカー427隻、コンテナ船185隻、バルク・キャリアー127隻、一般貨物船119隻の順となっている。前年(98年)と比較して最も増加が多いのは、タグ・ボートの23隻増である。
また、総トン数では、オイル・タンカーが1,035万GTで全体の43.5%を占め、次いでバルク・キャリアー418万GT(同17.6%)、コンテナ船330万GT(同13.9%)の順となっている。前年と比較すると、オイル・タンカーが145万GT増と最も多い。次いでバージ53万GT増、自動車運搬船24万GT増、コンテナ船13万GT増の順となっている。
シンガポール籍船の船種別隻数及び総トン数(単位;隻、万GT)
船種 |
1999年末 |
1998年末 |
隻数(%) |
総トン数(%) |
隻数(%) |
総トン数(%) |
タンカー |
オイル・タンカー |
427(12.7) |
1,035(43.5) |
408(12.0) |
890(40.4) |
ケミカル・タンカー |
40(1.2) |
20(0.9) |
29(0.8) |
14(0.6) |
液化ガス・キャリア |
26(0.8) |
33(1.4) |
26(0.8) |
36(1.6) |
兼用船 |
7(0.2) |
51(2.1) |
17(0.5) |
57(2.6) |
貨物船 |
バルク・キャリア |
127(3.8) |
418(17.6) |
129(3.8) |
419(19.0) |
自動車運搬船 |
50(1.5) |
150(6.3) |
41(1.2) |
126(5.7) |
コンテナ船 |
185(5.5) |
330(13.9) |
190(5.6) |
317(14.4) |
一般貨物船 |
119(3.5) |
122(5.1) |
129(3.8) |
117(5.3) |
その他 |
8(0.2) |
3(0.1) |
16(0.5) |
13(0.6) |
その他 |
旅客船・フェリー |
95(2.8) |
3(0.1) |
98(2.9) |
3(0.1) |
タグ・ボート |
723(21.5) |
16(0.7) |
700(20.5) |
15(0.7) |
オフショア・サプライ船 |
51(1.5) |
3(0.1) |
48(1.4) |
2(0.1) |
非自航船・バージ |
1,435(42.7) |
179(7.5) |
1,516(44.4) |
181(8.2) |
その他 |
65(1.9) |
14(0.6) |
65(1.9) |
13(0.6) |
合計 |
3,360(100) |
3,412(100) |
3,412(100) |
2,203(100) |
隻数 総トン数
一方、ロイド統計によると、99年末現在シンガポールは世界第7位の商船隊(船籍)を保有する海運国となっている。
商船隊(船籍)の世界ランキング(99年)(単位;万GT)
1.パナマ |
2.リベリア |
3.バハマ |
4.マルタ |
5.ギリシャ |
6.キプロス |
7.シンガポール |
8.ノルウェー |
9.日本 |
10.中国 |
10,525 |
5,411 |
2,948 |
2,821 |
2,483 |
2,364 |
2,178 |
1,980 |
1,706 |
1,631 |
出典:“World Fleet Statistics”(Lloyd's Register)
注) ロイド統計では、非自航船及び100GT未満の船舶を除いているため、前述のシンガポール籍船の統計数値(2,203万GT)と異なる。
ロイド統計を用いてASEAN 10カ国の商船隊を総トン数ベースで比較すると、1999年末現在 ASEAN 10カ国で世界の総船腹量(54,361万GT)の7.7%に相当する4,181万GTを保有しているが、このうちシンガポールが52.1%の船隊規模を誇っており、次いでフィリピン18.35%、マレーシア12.5%、インドネシア7.7%、タイ4.7%の順となっている。
ASEAN 10カ国の商船隊(99年)(単位;万GT)
シンガポール |
フィリピン |
マレーシア |
インドネシア |
タイ |
ヴェトナム |
ミャンマー |
カンボジア |
ブルネイ |
ラオス |
ASEAN計 |
2,178 |
765 |
524 |
324 |
196 |
86 |
54 |
52 |
1 |
0.2 |
4,181 |
ASEAN 上位5カ国の1993年末以降の推移をみると、6年前に比べて保有船腹量の増加量ではシンガポールが約73%と大半を占めているが、増加率ではマレーシアの2.4倍、シンガポールの2.0倍、タイの1.8倍の順となっている。
マレーシア、タイ等では、増加する自国の輸出入貨物の輸送を自国の商船隊で行おうという動きが強まっており、このための海運育成策にも力を入れるなど、ASEAN域内諸国におけるシンガポール商船隊の優位を脅かす動きも出てきている。
ASEAN 主要海運国の商船隊の推移 (単位;万GT)
(拡大画面: 25 KB)
このようなシンガポール籍船の急激な増加の要因としては、以下のようなものが考えられる。
[1]AIS(Approved International Shipping Enterprise)スキームの導入
1991年に導入されたAISスキームの下で承認された企業は、海運業による所得に対する課税の免除を受けられる。シンガポール籍船を10%以上保有していれば同国籍船以外の船舶による収入に対する課税の免除も受けられる。
AIS企業としての承認の要件
a) 世界的なネットワークを持つ国際航海船舶を所有又は運航する企業
b) シンガポール籍船を10%以上保有する企業
c) シンガポールで年間400万Sドル以上(人件費・修繕費・施設費等)を支出する企業
[2]リージョナル・ハブとしての役割の増加
東南アジア諸国エリア内の海上物流の増加に伴い、多くの海運企業が地域統括本部等地域全体を管轄する事務所・機能を当地に移すなどリージョナル・ハブとしてのシンガポールの重要性が増している。
[3]その他のメリット
「魅力的な登録料金体系」、「安全性の高さ(国際基準への適合性)」、「船員の雇用が容易(船員の国籍を問われない・外国の船員資格証明を認める等)」などシンガポール籍を取ることによるメリットが多い。
【3】シンガポール船主協会
シンガポールの海運業者の多くは、シンガポール船主協会SSA(Singapore Shipping Association)のメンバーとなっており、178社、準会員51社(2000年6月1日現在)が加入している。SSAは、97年5月、名称をそれまでのSNSA(Singapore National Shipping Association,1985年設立)からSSAに変更するとともに、海運業に関連する準会員(造船所、修繕業者、シップブローカー、船級協会、船舶金融業者、海上保険業者等)の加入を容易にするための会則・組織の改正等を行った。これにより準会員数が、改正前は8社であったのが、51社にまで増加した。
また、SSAは、海運業を取り巻く環境の変化に迅速に対応できる体制を整備するため、2つの管理委員会と4つの業務委員会に改組された。
SSAの組織図
【4】主要海運企業の概要
[1]Neptune Orient Lines Limited (NOL)
定航、タンカー、バルク・キャリアー・サービスを提供するシンガポールを代表する海運会社である。1997年11月に米国第2のコンテナ船社 American President Lines (APL)、APLを傘下に収めたことにより、買収前は世界第16位だったNOLグループは、運航船隊、売上で世界の5本の指に入る海運会社となった。
NOLグループ全体の99年の売上は72.5億Sドルで前年比11.8%と増加した。売上のうち77%をコンテナ輸送部門が占めている。
定期コンテナ・サービス部門では、APLを傘下に収めたことにより、NOLのコンテナ輸送ネットワークはさらに広がり、APLのブランド名の下に、北米、中・南米、欧州、アジア、中東、豪州の各航路で週60便以上のサービスを行っている。
チャーター・サービス部門では、タンカー23隻、バルク・キャリアー8隻、及びフィーダー・コンテナ船5隻を、長期傭船、スポット傭船の形でウェット又はドライ・バルク貨物等を輸送している。
同グループの支配船は119隻、598万DWTで、内訳はコンテナ船が85隻(309万DWT、216,900TEU)、原油タンカーが23隻(230万DWT)、プロダクト・タンカーが3隻(12万DWT)、バルク・キャリアーが8隻(47万DWT)となっている。
[2]Pacific Carriers Limited (PCL)
海運(船舶保有・マネジメント、チャーター)、貨物貿易、船舶ブローカー業務等を行っており、海運業ではドライ・バルクが中心であるが、液体貨物市場にも手を広げ、タンカー部門(プロダクト及びケミカルタンカー)の強化を進めている他、97年からはアジア域内でのコンテナ・フィーダー・サービス(現在、シンガポールとマレーシア、インドネシアを結ぶ7ルート)及び倉庫業務にも手を広げ、さらに99年からはブレーク・バルク・ライナー・サービスを手掛けている。
グループ全体の99年の売上は1.34億Sドル(前年比15%増)で、このうち海運業の売上は56%(うちフィーダー及びブレーク・バルク・ライナー・サービスが37%)を占めている。
同グループの支配船は100%子会社のMalaysian Bulk Carriers Sdn Bhd(MBC)の所有船を含め40隻(バルク・キャリアー30隻、タンカー5隻、コンテナ船5隻)1,196,916DWTとなっている。
[3]Pacific International Lines(PIL)
船舶の保有・オペレーションを主要業務としており、アジア、中東、東アフリカ、豪州・ニュージーランドへのコンテナ・サービス及び域内フィーダー・サービス等を行っている。
グループ全体の99年の売上は12.12億Sドル(前年比13%増)であった。
同グループは、コンテナ船50隻以上(約100万DWT、約5万TEU)を保有している。
[4]Hai Sun Hup Group Ltd
海運(船舶保有・マネジメント、チャーター)、倉庫業等の業務の他、ホテル・不動産業にも力を入れている。
グループ全体の99年度の売上は4.30億Sドル (前年比24.3%増)で、このうち海運業務の売上は0.83億Sドル(前年比3.7%増)であった。
同グループの支配船は14隻(自動車運搬船3隻、コンテナ船3隻、VLCC1隻、バンカー・タンカー4隻、重量物運搬船1隻、コンテナ・バルカー2隻)、459,962DWTである。
[5]Cosco Investment(Singapore)Limited
中国のCOSCOグループのシンガポール企業で、海運、マリン・エンジニアリング、コンテナ貨物取扱い、不動産等を主な業務としている。
グループ全体の99年の売上は2.01億Sドル (前年比38%減)で、このうち、海運業務の売上は1.16億Sドル(前年比0%増)と全体の58%を占めている。売上の大幅な減少の主な理由は、98年6月、これまで行っていた石油取引業務のCosco-Fesco Singaporeを売却したことによるものである。
同社の海運業務は100%子会社のCosco Singaporeとさらにその子会社が行っており、グループで保有する9隻のバルク・キャリア(450,128DWT)及びチャーター船を用いて、東南アジア、太平洋、大西洋地域の主要港間のサービスを行っている。99年には、2隻の新造バルク・キャリアが就役した。
[6]Osprey Maritime Limited
石油・ガス産業向けの船舶保有・チャーター・運航を主要業務としている。96年にPetroBulk Groupを買収してプロダクト・タンカー市場における主要企業に成長したのに続き、さらに97年にはモナコに本拠を置くGotaas-Larsen Shipping Corporationを買収してVLCC4隻とLNG船4隻が同社の傘下に加わり、世界屈指のエネルギー輸送グループとなった。グループ全体の99年の売上は1.89億USドル(前年比18%減)であった。
同グループの支配船は31隻で、LNG船6隻/655,230立方メートル、プロダクト・タンカー15隻(ハンディサイズ)/1,913,694DWT、原油タンカー10隻(VLCC×6、アフラマックス×1、ハンディサイズ×3)/593,799DWTである。
[7]IMC Holdings Limited
世界各国に設立された海運企業の株式保有会社で、香港及びシンガポール株式市場に上場されている。グループの主な業務は、船舶保有・運航、船舶売買であるが、船舶管理、船員エージェント業務等も行っている。シンガポールのグループ企業としては、IMC Shipping等24社がある。
99年の売上は3.06億HKドル(前年比14%減)であった。
同グループの支配船は20隻(パナマックス×5、ハンディマックス×5、ハンディサイズログ・バルカー×10)、829,759DWTである。