第5章 まとめ
本調査研究では、出港時等の触媒入口温度が低い条件では従来型の脱硝触媒が十分に作動しないという問題を解決する方法として、「吸着剤一選択還元触媒」の複合化による新しい脱硝システムの調査研究を実施した。
本年度は昨年度までの調査検討結果をもとに、舶用ディーゼル機関の実排ガスを用いた実証研究を行い、システムの有効性を評価した。主な成果は以下の通りである。
(1)装置設計/製作
舶用ディーゼルエンジン排ガスの一部を導入し、船舶搭載可能な触媒システムとしての浄化試験を行うことを目的として、ハニカム成型した吸着材と脱硝触媒を充填しうる小型のテストプラントの設計・および製作を行った。装置設置フレームと排ガス導入機構、排ガスの温度・流量計測機構、反応器、および排気ラインからなる装置を東京商船大学の舶用ディーゼル脇に設置し、新しいシステムの実排ガスによる評価が可能となった。
(2)実排ガスでの吸着―脱離性能
実ガスにおいても300℃までの低温域で排出されるNOxの60%程度と高い吸着性能を示すことが明らかとなった。一方実ガスにおいては、脱離量が吸着量に比較して少なくなる。これは吸着したNOxが脱離時に実ガスに含まれる未燃の炭化水素および気相のNOxと反応してN2またはN20として除去されるためであると推測される。したがって、低SV条件で運用する限りは、当初想定していたNOxの脱離に伴う流路切替などの複雑なシステムを必要としないことが明らかとなった。
(3)定常排ガス導入時の性能評価
舶用エンジンを発電機特性の60%負荷で定常運転し、一定量のガスを導入して模擬的な試験を行った結果、低温時に排出されるNOxのおよそ60%が除去され、吸着剤の温度が400℃に達する50分後までの合計では、全排出NOxのうちおよそ86%が除去可能であることが明らかとなった。
(4)負荷変動試験
負荷変動を伴う舶用特性の運転条件下では、これまでの定常試験よりも排ガス中のNOx濃度が高くなり、昇温時間も2倍近く必要とするにも関わらず、高い脱硝性能が見られた。
この場合にはアンモニア脱硝開始までに排出されるNOxのおよそ80%が除去可能であった。本実験条件下ではアンモニアを導入してから、定常に達するまでに10分以上を要したが、ガス導入から吸着剤層が400℃に達する100分間の合計では、全排出NOxのうち、実に89%が除去可能であることが示された。
(5)硫黄分の影響・耐久性
低硫黄重油を使用した場合には、実排ガスを用いても今回の実験の範囲内では吸着性能にほとんど影響を与えなかった。6回程度の繰り返しでは、吸着性能に全く影響がなく、ほとんどのS02は吸着されて大気中には排出されないことも明らかとなった。今後より詳細な耐久性の評価が必要ではあるが、低硫黄重油を使用することが可能になれば、充分に実用化が可能な性能を有することが実証された。
以上