第2章 システム運用に関する前提条件
2.1 目的
本調査研究では「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい船舶排ガス浄化システムにより、広い温度範囲で高効率に排ガスを浄化することを目的としている。本報告書でも後述するように、模擬排ガスを用いた浄化試験では本システムにより極めて高効率でNOxを除去可能であり、最適なシステムを設計できれば十分に実用可能であることが検証されている。
ここでは吸着剤のメリットを生かして本システムを最も有効に作動させるシステムの設計に反映させることを目的として、適用しうる船舶排ガスの性状および航行パターンについて調査を行い、最適システム構成について検討を行った。
2.2 船舶排ガス浄化における課題点
図2.2-1 排気ガス温度がNOx除去率に及ぼす影響
(出典:野村宏次著、「舶用燃料の科学」、P177、成山堂書店、(1994))
図2.2-1に示すように、従来型のアンモニア脱硝用触媒では、触媒が有効に作用する温度が300℃以上であり、現状の技術開発の事例では触媒温度が300℃以上に達してから還元剤の噴射を開始している。300℃以下の温度では全く脱硝を行っていない。したがって、触媒層の温度が低い始動時、停泊中、あるいは離岸してすぐに港湾中を航行している時には、図2.2-2に示すように高濃度のNOxが排出されることになる。これが、最近の港湾付近の大気中のNOx濃度の増加の一因と考えられる。
また、環境省の調査によれば、東京湾において船舶から発生する大気汚染物質はSOxについては約55%が、NOxについては約62%が停泊中に発生していると推計されている。(図2.2-3)
そこで、本研究では従来型の脱硝触媒の課題点である出港時に有効に機能する新しい脱硝触媒システムを開発する。具体的には、従来システムでは出港時のエンジン機関の低温時に多量に排出してしまう窒素酸化物について、その排出濃度をシステムとして低減させることを目的とする。
図2.2-2 船舶の航行状態と脱硝触媒の有効な範囲
図2.2-3 東京湾における停泊中・航行中に排出される大気汚染物質の推計
(出典:「船舶から排出される大気汚染物質の削減方法について」中間報告、環境省(1995).)