成果概要
IMOによる国際的な船舶排ガス規制強化の流れの中で、近い将来には我が国においても船舶への排ガス規制が強化されることは必至である。これまでに船舶の排ガス浄化に関してはアンモニアあるいは尿素による選択接触還元法(Selective Catalytic Reduction:SCR)の有効性が示されているが、従来型の脱硝触媒では、排ガス温度が低い出港時には触媒が有効に働かない等の問題点がある。環境省の調査によれば、東京湾において船舶から排出される大気汚染物質はSOxについては約55%が。NOxについては約62%が停泊中に発生していると推計されている。
そこで本調査研究では、従来型の脱硝触媒の問題点である出港時の問題を解決する方法として,「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい脱硝触媒システムの調査研究を行い,小型内航船用ディーゼルエンジンの脱硝システムの性能改善をることを目的とした。ハニカム成型した吸着材と脱硝触媒を充填しうる小型のテストプラントを製作し、舶用ディーゼルエンジン排ガスの一部を導入して、浄化試験を行った結果、低温時に排出されるNOxのおよそ80%が吸着除去可能であることが示された。本年度までの結果から「吸着剤−脱硝触媒システム」の有効性が明らかとなり、低硫黄重油を用いた場合には十分に実用可能なシステムであることが実証できた。また、本調査研究の成果をもとに「船舶からの排気ガスの浄化方法および浄化装置」として特許出願(特願2001-95372)も行った。このような選択還元法と吸着剤を複合化した新しい触媒システムの実用化ができれば、近年特に問題となっているエンジンの始動時に排出される有害物質の低減が可能になると考えられる。
本調査研究ではアンモニアあるいは尿素水を用いる選択還元触媒と併用することを前提に開発を行ってきた。しかし、アンモニア選択還元法は最も技術的にも確立されたプロセスではあるが、還元剤によるコスト増加などの課題点も残されている。本調査研究の成果は、船舶の排ガス浄化において、アンモニア脱硝法に限らず「触媒」を利用するシステム全てに共通する基盤技術であり、本研究開発で得られた知識は、炭化水素SCR等の新しい触媒技術を適用する際にも不可欠なノウハウとなる。今後、さらに研究開発が進み低温域でのNOxの吸着機能と高温度域での分解機能の2つの機能を有する触媒システムが開発されれば理想的な脱硝システムとなるであろう。
また、本研究で開発した新しいシステムは例えば東京湾内を航行する内航船などの出港時のNOxの低減を可能とするシステムであり、港湾付近で排出されるNOxの低減に寄与するものである。以上のことから、今回の調査研究の成果は当初の目的を充分に達成できたものと確信する。
以上