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3. 極東ロシアと日本
3.1 極東ロシア
(1)行政・産業・経済
 2000年制定になる新行政区割りによって、ロシア総面積の36.4%を占める極東ロシアは、10の連邦主体からなる極東連邦管区(図3.1)となり、首都はハバロフスク市と定められた。極東ロシアの人口は、2000年初頭、717万人で、ロシア総人口の4.9%であり、ここ8年程の間、主として社会減により約87万人が減少した。現在でも人口の流出は続き、年間5,6万人の流出となっている。特に、チュコト州での人口減が激しく、人口は半減している。
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図中の赤いスポットは、軍需企業体所在地を示す。
図3.1 極東ロシア
 
 極東ロシアは、過去下記の2つの国家プロジェクトにより開発が進められてきた。
 
・1987年: 「極東経済地区、ブリヤート自治共和国、チタ州の2000年に至る生産力の総合発展長期国家プログラム」
・1996年: 「極東・ザバイカル経済・社会発展連邦プログラム:1996〜2005年」
 
計画内容の大半は資金不足で実施されないまま、計画コンセプトの骨子は現在なお生き延び続けているが、最近、プーチン大統領の指示により、ロシア東部地域特別発展計画を2001年内に取りまとめることとなり、その内容が注目されている。東部地域とは、シベリア連邦管区と極東連邦管区であるが、定義は曖昧であり、ウラル連邦管区を包含した計画となる予想もある。「極東・ザバイカル発展プログラム」のサブプログラムとして、コムソモリスク・ナ・アムーレを中心とするテクノポリス形成プロジェクト(KAS)が展開されている。これは、軍需産業で培った高度技術の民需転用を図り、國際競争力のある知識集約産業を構築する計画である。
 鉱物資源が豊富であり、水産資源にも恵まれた極東ロシアでは、経済混乱期や金融危機にも大きな影響を受けることなく、ダイヤモンド、錫、硼素、アンチモニー、水銀、蛍石、タングステン、金、銀、プラチナなどの非鉄金属の安定的な市場供給を続けている。水産業には大きな変動はないが、違法な皆伐による森林崩壊やこれが引き金となって発生する大規模森林火災が続き、環境保護上の制約もあって木材生産は急落している。
 燃料資源に恵まれた地域でありながら利用可能な電力と燃料が不足し、これが地域の生産コストを割高する一因となっている。エネルギー供給不足を解消するものとして「サハリン・ハバロフスク・沿海地方ガス化計画」が策定されている。この計画では、サハリン北東の大陸棚天然ガスをパイプラインを用い、コムソモリスク・ナ・アムーレ:ハバロフスク経由でウラジオストクまで運び、ライン周辺地域の生ガス化を達成する。液化ガスに比べ安価な生ガスの供給により、地域一帯の生産競争力が強化されるものと期待されている。なお、生ガス・パイプラインは、将来そのまま水素ガス・パイプラインとして転用可能である。
 極東ロシアの産業構造は地方毎に異なる。
 

・ハバロフスク地方
 管区首都を持ち、極東政治経済の中心地であり、鉱工業、商業、農業、貿易にバランスの取れた産業構造を有する。多角的な工業が特徴で、重工業、石油精製工業の比率も高い。サハリン産石油はパイプラインでコムソモリスク・ナ・アモーレまで送られ、精製される。
 沿海地方と共に、旧体制下、軍用機や艦艇建造で名を馳せた軍需産業拠点があり、現在これらの軍需工場は殆どが軍需企業として民営化され、民需転換商品の生産も行っている。例えば、MIG-17,SU型航空機の製造で著名なコムソモリスク・ナ・アムーレ航空機生産公団は、レジャーボート、路面電車、雪上車、浄水設備などの製造も手掛けている。ただし、航空機産業の國際競争力強化のため、2004年までに現在360社ある航空機工場を6〜7社に集約する計画が進展中であり、極東の旧軍需工場の行く末は不透明である。
 交通面でのハバロフスクは、空路については極東アジア及び極東ロシア国内空路のハブ拠点であり、アムール川、ウスリー川、スンガリ川の大河の合流点として内陸水運の拠点でもあり、また鉄路ではウラジオストックと並んで、実質的なシベリア鉄道の終着点でもある。中国との対岸貿易も盛んである。
 
・沿海地方
 ハバロフスクと並ぶ極東経済の中心であり、産業の6割以上を鉱工業が占めるが、運輸・通信、建設、農業も盛んである。沿海地方は西シベリア産石油を精製し、サハリンに精製工場が完成するまでは、サハリン産石油の精製地であるハバロフスクと共に、極東ロシアの石油精製の全てを賄っている。なお、西シベリアの石油はイルクーツクまでパイプライン、その後は鉄路による貨車輸送でハバロフスク市に運ばれる。ハバロフスク地方と同様、旧体制下では軍需産業拠点も多いが、国家発注の激減と多額の受注未収金で存続が危ぶまれているものが多い。KA-50型ヘリ、通称ブラック・シャークで名高いスポーツ機Yak-55を製造したプログレス社もここにある。
 良港の数も多く、貿易、漁業に関しては極東ロシア量大の拠点となっている。
 
・サハ共和国
 豊かな鉱物資源に専ら依存する共和国である。ダイヤモンド及びアンチモニの産出は国内シェア100%、その他非鉄金属、鉄鉱石、鉱物燃料の産出高も高く、鉱業関連投資も多い。
 
・アムール州
 アムール川流域農業を経済の中核とする州である。地域社会経済に大きな影響が及ぼすのがブラゴベシチェンスク・中国黒龍江省黒河間の国境貿易である。州北部のスボボドヌイ宇宙基地には衛星打ち上げ基地があり、衛星打ち上げ国際市場への参加を目論んでいる。
 
・サハリン州
 挽材中心の林業は衰退し、サハリン1、サハリン2に代表される石油・天然ガス開発事業(図3.2)が一躍、州の財政を支えるようになった。現在、開発予定鉱区はサハリン10まである。サハリン1,2合わせて原油は推定33億バレル、天然ガスは9,600億m3と言われている。サハリン2によるサハリン州の収益の構図は、
 ボーナス: 5千万ドル(この中、州は60%)
 サハリン開発基金: 1億ドル+2千万ドル(5年間)
 既支出開発経費への支払い: 1億6千万ドル(州は60%)
 ロイヤルティ: 生産高の6%(州は60%)
 利潤税:収益の32%
であり、州にとって過去例を見ない巨額な投資がサハリン州を変貌させつつある。
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図3.2 サハリン・エネルギー開発計画
・カムチャッカ州
 漁業基地の州であり、地熱利用の温室栽培農業が生産量を伸ばし、観光事業も育ちつつある。ネルギー資源の開発は今後の課題となっている。
 
・チュコト自治管区
 べーリング海峡を挟んでアラスカと国境を接する酷寒の地であるが、豊富な鉱物資源があり、将来開発の手が伸びるものと考えられている。原子力発電所がある。








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